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「外圧」で進む日本企業のBCP策定

 
 日本の企業にBCPが導入される背景にはいくつか要因がある。その一つが前回紹介した 「取引先からの要求(SCM)」 によるものだった。それらは本来のBCPの在り方とは違い、いわば 「外圧」 によるBCPの策定である。サプライチェーンの他にもBCP策定に影響を及ぼすいくつかの 「外圧」 がある。例えば、
 
  • 政府・業界団体からの提言・・・・2005年から各省庁や組織がBCPのガイドラインを公表し、BCP整備を進めるよう促している。2008年にはほとんどの中央省庁が自身のBCP策定を完了した。これからは企業に対する策定要求の圧力がさらに強まっていくだろう。
  • 国際標準の登場・・・・英国規格協会(BSI) がBCPに関する規格 「BS25999」 を発行。国際標準化機構(ISO) がBCMの国際標準化を検討しており、現時点ではBS25999が有力な候補となっている。国際標準として世界中の企業、組織が関心を寄せており、日本でも昨年から導入する企業が増えている。
  • 新型インフルエンザ・・・・昨年5月の流行時にBCPの最優先テーマとしてクローズアップされた。新型インフルエンザ対策をきっかけにBCPを導入した企業も多い。
 
 言い方は悪いが、このような外圧によって、嫌々ながらBCP策定を行わされてきたのが日本の企業の現状ではなかっただろうか。
 
 

BCP構築は「CSR=企業の社会的な責任」

 「外圧」 でやらされる消極的な取り組みでは、BCP策定が進むわけがない。前回紹介した富士通の事例の中で、富士通総研BCM事業部長の伊藤毅氏が指摘したように、サプライチェーンのBCPであっても発注者側の立場でBCPの意味を考えることが大切だ。「やらされるBCP」 ではなく、内側からの視点で考えるBCP、「企業の社会的責任(CSR=Corporate Social Responsibility)」 という発想が必要である。
 これまで多くの日本の企業では、不測の事態が起こっても 「誰かが助けてくれるだろう」 と事後的、場当たり的な対応や処理が見受けられた。自己防衛や危機管理意識が高い欧米では、「企業は従業員や地域や国に対して社会的責任を果たすべき存在である」 という意識が高い。企業が株主、顧客、取引先、社員などの利益を守るためにリスク対策を行うのは当たり前であり、その目的のために企業を社会に適合させたり、コンプライアンスを守るのも当たり前だと考えるのである。
 現代の企業は、収益を上げることだけでなく、社会の一員として社会に責任を果たすことを求められている。リスクに備えのあることは、企業の信頼を得るために不可欠な要素となっている。自然災害や突発的な事故にも柔軟に対応できる備えがあり、それが経営戦略として取り入れられていることが一流の企業として評価される時代となっているのだ。
 
 

CSRに対する企業の視点は多種多様

 CSRと言っても、その意味は日本ではまだ曖昧で、企業が自社のCSRについて説明する場合もトーンは微妙に異なっている。「社会貢献活動」 といったり、環境との共存や保全という視点から 「環境活動」 の意味としてこの言葉を使っている企業もある。
 経団連が2009年5月~7月に企業会員1297社を対象にした 「CSR(企業の社会的責任)に関するアンケート調査」(回答社数437社) を見ると、日本の企業がCSRをどのように捉えているかが浮かび上がる。例えば、CSRに関する基本的な考え方として明文化している内容を 「企業行動憲章」 の条文に基づいて分類したら次のようになったという。
 
  1. 製品・サービスを安全性やセキュリティに配慮して提供し、消費者・顧客の満足と信頼を獲得する
  2. 公正、透明、自由な競争と取引を行い、政治、行政との健全・正常な関係を保つ
  3. 広く社会とのコミュニケーションを行い、企業情報を積極的、公正に開示する
  4. 従業員を尊重し、安全で働きやすい環境を確保し、ゆとりと豊かさを実現する
  5. 環境問題に自主的、積極的に取り組む
  6. 積極的に社会貢献活動を行う
  7. 反社会的勢力、団体とは断固として対決する
  8. 企業倫理の徹底を図る
 この中に、事業中断を回避するBCPの視点によるCSRの取り組みを見つけることはできない。しかし、「貴社にとってCSRはどのような意味を持っていますか」 という質問に対する回答を見ると、BCPの取り組みが鮮明に浮き上がってくる。多かった順に並べてみると、
 
  • 持続可能な社会づくりへの貢献・・・・82%
  • 企業価値(ブランド力や信頼等)創造の一方策・・・・76%
  • 企業活動へのステークホルダーの期待の反映・・・・68%
  • リスクマネジメント・・・・39%
 「リスクマネジメント」という、BCPと直結するキーワードの他に、「持続可能な社会づくり」「企業価値創造」「ステークホルダーの期待の反映」など、CSR活動のとらえ方にかなりの共通性が見られる。そして、これらの取り組みの背景に、『その活動を可能にするBCPの策定』というテーマが横たわっているのがうかがえる。
 
 

古俣愼吾,BCP,

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