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コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか 第5回 台風や水害への備えを経営者はどうすべきか

ノウハウ コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか 第5回 台風や水害への備えを経営者はどうすべきか コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか 防災・危機管理アドバイザー、 医学博士

ノウハウ
経営者はコロナ禍から何を学び、今後どう生かすべきか。コロナ禍による企業への影響と、今後の対策について株式会社日本防災研究センター所属、防災・危機管理アドバイザーで医学博士でもある古本尚樹氏による寄稿記事の、連載第5回目。台風や水害による被害が発生した場合の対策などを解説する。
 
 

増加傾向にある水害

 
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近年の水災害発生状況©国土交通省
なぜ、企業の自然災害において水害対策が重要なのか。前回解説したように、南海トラフ巨大地震や首都直下型地震への対策は重要事項であることは間違いない。そのうえで、水害対策の大事さを挙げる理由は、日本では毎年のように線状降水帯やいわゆるゲリラ豪雨に代表される、大雨による水害被害が発生しているからだ(図参照)。しかも台風や豪雨の影響による水害が、同じ年に同一地域で複数回起こるケースもある。かつては東北や北海道へは台風の上陸は珍しかったはずなのに、昨今は勢力を維持したまま同地域へ上陸することも珍しくない。
 
水害が多く発生している背景の最たるものとして、“地球温暖化”の問題がある。気象庁によると、日本の年平均気温は100年あたり1.26℃の割合で上昇し、1時間あたりの降水量が50mm以上になる地域が、全国で増加している。水害の増加には急峻な山や河川が多いことなど、日本特有の地形も影響している。例えば、大雨が降ると河川の水か一気に流れ、洪水が発生しやすい。また、傾斜のきつい山などではがけ崩れが発生しやすく、地すべりの可能性が高まる。
 
こうした水害の増加にともなって、企業そして経営者にとっては、事業継続が困難になる可能性が高まったともいえる。そこで、企業そして経営者向けに、台風や水害に特化しての対応について解説する。
 
 

BCPを策定しておけば災害時も事業継続がしやすい

 
「事業を継続」「設定目標時間内に事業を再開」することについて、あらかじめ対策を構築する計画がBCP(業務継続計画)である。防災マニュアルは人命や資産を守ることを目的としているが、BCPは事業に影響を及ぼす脅威を想定し、重要事業の継続や被害からの早期復旧を目的にしている点が異なる。
 
水害に対して特にBCPが必要なのは、事業継続が困難になる可能性が高いからである。だからこそBCPを策定し、いざという時、対処できるような体制を整えておくことが肝要だ。
 
普段から水害対策を、すなわちBCPを策定し、関連した訓練や研修、従業員への教育などを行っている場合と、そうでない場合の、事業継続の推進のしやすさは圧倒的に前者が優位を占めることは言うまでもないだろう。また仮に大規模な被災を被っても、復旧のスピードも前者のほうが早く、リスクにも強い。
 
対策をしていない企業では、工場などの稼働休止が長引いたり、物流の停滞が続いたりする影響などをまともに受ける。それにより社内備品の汚損やネットワークの復旧にも時間と経費がかかってしまい、結果として災害を契機に経営が悪化してしまうことも考えられる。ひいては事業を停止するという最悪のケースも想定される。実際にこれまでの水害で、個人事業主や中小企業を中心に事業を停止せざるを得なくなってしまったケースが多く見られた。
 
企業の水害への備えで、事前に必要なことがいくつかある。会社や店舗のある地域のハザードマップの確認である。これは各自治体から出ていて、地震と水害が起きた場合の二種類が作成されていることが多い。これをインターネットなどを通じて確認して、自社の周辺地域の危険度を把握することだ。これにより、浸水の深さや浸水継続時間等を踏まえ、浸水規模を予測する。そのうえで水害対策のためにBCPを策定、もしくは定期的にアップデートを行う。
 
 

停電によるシステムダウンやデータ損壊に備える

 
洪水や浸水被害によって停電が起こることも考えられる。最近は、急速なITの普及により、企業活動の多くにさまざまなITシステムが導入されている。停電の影響によるインフラ損壊やサーバーダウンで企業のITシステムが停止すると、「受発注システムが使えない」「メールなどSNSが利用できない」「オンラインサービスが利用できない」「顧客データが損失」等で企業活動への被害は甚大になる。
 
停電など災害時に機能する電源装置がない場合、業務が停止してしまうだけでなく、機器の故障や重要なデータの損失といった障害が予想され、経営に深刻な打撃を与えるだろう。一方で、予備電源を事前に備えておけば、パソコンなどネットワーク機器に電力を供給することで、業務継続ができる。
 
また、システムダウンが起きるとデータを損壊する恐れがある。そこで、洪水や浸水被害、停電に備えて重要データやシステムのバックアップを取るべきだ。特に、水害が発生した時、バックアップのうち1つは別の場所で保存すべきだろう。ローカルバックアップだけではシステム復旧ができず、事業継続が困難になる場合も想定し、遠隔地へのバックアップを行っておく。この遠隔地でのデータバックアップは最近の潮流でもある。例えば、北海道石狩市では大規模なデータバックアップ施設があり、利用している企業も多い。
 
店舗や施設などへの水害対策として、マウンドアップと呼ばれる、出入り口に高さを持たせる対応や、止水版、防水扉、土嚢の設置が望ましい。その他にも、換気口を高い位置へ設置、下水道からの逆流防止、貯留槽からの浸水防止(マンホールの密閉など)も重要である。
 
最近は都市部を中心に内水氾濫が多く発生している。2023年に起きた秋田市中心部での大規模浸水は、この内水氾濫によるものだ。内水氾濫では、高圧受変電設備が冠水、停電、エレベータや給水設備への被害が想定される。そのため、企業では電気設備への浸水対策が不可欠だ。
 
対策として、①防水扉を設置②防水区画を構築③止水処理剤を準備しておく④電気設備の設置場所をかさ上げする⑤耐水性の高い電気設備にする⑥雨水を流入させる貯水槽の設置――が挙げられる。並行して、管理者、電気設備関係者との連絡体制を整え、設備関係図を整備する。万が一水害が発生した場合には、排水作業、清掃、点検、復旧作業を行う。ただし排水には規模にもよるが、1週間単位での日数がかかる場合もあるので、注意が必要だ。
 
  参考文献
https://insights-jp.arcserve.com/flood-prevention
 
コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか
第5回 台風や水害への備えを経営者はどうすべきか
(2024.01.10)

 プロフィール  

古本 尚樹 Furumoto Naoki

株式会社日本防災研究センター
危機管理アドバイザー、医学博士、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターリサーチフェロー

 学 歴  

・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退

 職 歴  

・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム 実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)

専門分野:防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、新型コロナ等感染症対策、地域医療
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療

 

 個人ホームページ 

https://naokino.jimdofree.com/

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