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美容系インフルエンサーも真っ青の・・・

 
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KUWA / PIXTA
某記事によると、フランスのマクロン大統領は2017年5月に初めて大統領に就任(第一次マクロン政権)した際、就任後の3ヶ月間でメイクに2万6000ユーロ(約338万円)かけたそうです*1
 
もっとも、これは起用したメイクアップアーティストの請求額がそれだったからで、大統領広報官は「就任に伴い緊急だったためやむを得なかった。今後ははるかに低費用で済ませる」という趣旨の弁明をしています。加えて、「オランド前大統領のメイク費用より抑える予定だ」とも。
 
マクロン氏の前のオランド大統領は毎月メイクとヘアセットに6000~1万ユーロ(約78万~130万円)かけていたそうで、額だけ見れば美容系インフルエンサーも真っ青の自己投資額です。
 
翻って本邦です。石破内閣は昨年10月に発足した際、記念集合写真に収まった首相以下閣僚の佇まいが、日刊誌に「ぽかーん、ぼよーん、だらーん」と酷評されました。口ぽかーん、腹ぼよーん、裾だらーん、の意味です。それもあって発足後しばらくは、スーツの着こなしに長けたライバルの麻生元首相が、マフィアみたいというマイナス評も一部でありながら、「それに比べて麻生さんは・・・」と引き合いに出されたものでした。
 
 

男性もメイクアップが普通になる社会

 
特定の個人を貶める意図は毛頭ありませんが、「外に出て恥ずかしくないルックスかどうか」「本人がそこに向け努力しているかどうか」は、政治に限らずビジネスの世界でも求められているようです。近年は特に。
 
先々月、市場リサーチ会社のインテージが、2024年の男性の化粧品市場が前年比14.8%増の497億円に達したという調査結果を発表しました。2019年比1.8倍です。
 
化粧品といってもメイク化粧品と基礎化粧品があり、市場の9割はまだ基礎化粧品が占めていますが、クリームが2019年比2.4倍、パックも2.9倍、クレンジング3.2倍、美容液にいたっては4.9倍の高い伸び率です。調査は「化粧水や乳液の一歩先の、より高度なスキンケアを実践する男性が増加」と解説していますが*2、“一歩先の”“より高度な”実践の延長には、男性もTPOに合わせたメイクアップが普通になる社会が待っているでしょうか。
 
 

“美”のイデアに向かう努力

 
インテージは2023年と2021年にも同様の調査を行っており、それぞれ2022年と2020年の男性化粧品市場の状況を窺い知ることができます。
 
2020年についての調査では、コロナ禍による外出機会減でシェービング用品市場が縮小したいっぽうで、オンライン会議が増えて自分で自分の顔を見る機会が増え、スキンケアに意識が向いたことが、基礎化粧品市場の大幅拡大につながったと分析しています。
 
中でも目を引くのは15~34歳の化粧品購入における男性用と女性用の使い分けです。50代は73%が男性用基礎化粧品のみ購入するのに対し、10代は男性用のみ購入する割合は35%。20代も49%で半数を割っています。
 
その理由について調査は、「男性用の商品が増えてきたとはいえ、やはり、女性用基礎化粧品のラインナップの方が豊富です。情報に敏感な10代・20代は“自分の悩みに応えてくれそうな化粧品”を探した結果、女性用に行き着いたのではないか」と解説します*3
 
これを言い換えるなら、「自分にとっての商品の良さを求める意識(本質志向)が、自身の中にある既存のジェンダー意識を上回った」ということだと思います。あるいは、より繊細に、「女性用だからこそ手に取るのだ」と、Xジェンダー、もしくは、女装もその一バリエーションであるクロスドレッサーの範疇でとらえるべきか。
 
いずれにしても、究極的には“美”を――男性美も女性美も含めて――指向する購買行動と言えるでしょう。
 
冒頭で「本人がそこに向け努力しているかどうか」を「恥ずかしくないルックスかどうか」と併記したのはこの理解からです。努力する姿は“美”につながるというのは、古代ギリシアの時代からある美学的立場です。麻生氏の着こなしがスーツのイデアに向かう努力の表れだとしたら、マフィアだ何だといちゃもんをつける謂われはありません。
 
 

男性の化粧をリードする世代は?

 
化粧文化史に詳しい東北大大学院文学研究科の阿部恒之教授によれば、そもそも男性が化粧をしなくなったのは、人類史の中では比較的最近だそうです。江戸時代の「おしゃれ教本」とされる「都風俗化粧伝」には、当時流行した化粧やファッションが記され、男性が白粉をつける際の作法も書かれているんだとか*4
 
別の資料も見てみます。『ホットペッパービューティーアカデミー』が昨年夏、全国の人口20万人以上の都市に居住する15~69歳の男女に調査したところ、男性全体のメイク――基礎化粧品ではなくメイクの――アイテム購入率が3年連続増加し、12.3%になりました。特に20代は前年比5.7ポイント増加し、25.9%です。実に、4人に1人以上がメイクアイテムを購入しています*5
 
この年代が購入するメイクアイテムは「下地」が2020年から不動の1位でしたが、23年に「フェイスパウダー」が僅差で1位になり、最新24年のデータでは「ファンデーション」がトップに躍り出ました。「マスカラ」も高い伸び幅を示しており、より能動的な肌美容および目元の美容への関心が高まっていることが見て取れます。
 
同アカデミーによる別の調査では、2019年時点で20~24歳の男性は平均的に下地クリームやアイブロウを週5日から6日使うことがわかっており*6、この世代(90年代後半~新世紀初頭生まれ)が現在の男性の化粧文化をリードしていると言ってよさそうです。
 
 

画像生成AIと化粧

 
おもしろい見方としては、大阪樟蔭女子大学の2021年の研究紀要収載の「男性化粧に対する現代人の意識とその社会的背景」があります*7。執筆者たちによると、「これまでの化粧の歴史を振り返ると、化粧が否定されてきた理由は、化粧がバーチャルな顔(嘘の顔・真実でない顔)を作るから、と言う倫理的なもの」だったそう。「しかし」と逆接でつないで、紀要論文は次のように続けます。
 
「しかし、デジタル技術が性別越境も可能とさせる「整えられた」バーチャルな顔を作り出し、それが人々の目指すべきモデルとなった現在、 化粧は「生身の」リアルな顔をデジタル風へと橋渡しする装置であるといえるだろう」
 
この見解は4年前のものですが、画像生成AIが爆発的に普及し始めた今、これからの未来に向けて予言的響きを持っていると感じます。「デジタル風へと」の部分がまだイマイチ、未開民族の刺青にまでさかのぼれる化粧本来の真価を過小評価している気がしますが、「橋渡し」という捉え方は、化粧という行為をめぐる大切な何かをつかんでいるのではないでしょうか。
 
 
*1 マクロン仏大統領のメイクにかかった費用は3カ月で340万円!(WWDJAPAN 2017/08/28)
*2 成長トレンド続く「男性化粧品」市場(2025年2月4日)
*3 コロナ禍でも伸びた!男性の化粧品購入(2021年4月22日)
*4 20代は抵抗なく…「化粧する男性」急増のナゾ メンズコスメ市場も500億円規模に拡大(産経新聞 2024/8/26)
*5 「美容センサス2024年下期≪美容意識・購買行動編≫」
*6 「男性メイクに関する意識調査」2019年4月
*7 大阪樟蔭女子大学研究紀要 第11巻(大阪樟蔭女子大学学術研究会 2021年1月)
 
 
(ライター 横須賀次郎)
(2025.4.2)
 
 

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