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新型コロナウイルス感染症への対策が5類に移行された中で、今も変異株が蔓延している。それを踏まえて各企業は、完成症対策を含め、従業員や経営へのリスクマネジメントをアップデートしていく必要がある。経営者はコロナ禍から何を学び、今後どう生かすべきか。コロナ禍による企業への影響と、今後の対策について株式会社日本防災研究センター所属、防災・危機管理アドバイザーで医学博士でもある古本尚樹氏による寄稿記事の、連載第一回目。
 
 

サービス業におけるBCP策定企業は少ない

 
新型コロナウイルスの感染拡大、いわゆるパンデミック化は、各企業に大きな影響を及ぼした。とりわけ、中小企業や個人事業主においては深刻であった。また業種別では、「卸売・小売」「宿泊・飲食、サービス業」への影響が特に大きい。現在、新型コロナウイルスは2類から5類へ“格下げ”されてはいるが、今なお変異株による感染拡大により、医療機関での患者数が増加している。
 
BCPに係る取組の現状 ©中小企業庁
BCPに係る取組の現状 ©中小企業庁
令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査©内閣府
令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査©内閣府
コロナ禍で指摘されたのは、BCPの整備と実動であった。このBCPは大企業ではかなり整備されている一方で、中小企業や個人事業主で整備率が低いことがかねてから指摘されている。もちろん大企業も感染症への対応については、適時アップデートする必要があり、柔軟性をかねそなえたBCPが必須とされている。
 
先述のサービス業におけるBCP策定状況は、やはり低い。中小企業庁の調査した「BCPに係る取組の現状」のように、従業員数が少ないほど基本的にBCP策定する企業もわずかだ。また、内閣府が発表した「令和3年度企業の事業継続及び防災の取組に関する実態調査」でも小売、宿泊、飲食といった業種でのBCP策定は他業種に比べて低い。元来、飲食や宿泊業の少なからずが、海外からのインバウンドに傾倒している。とりわけ中国からの観光客に依存することが多くなっており、国内にいながら「チャイナリスク」をまともにくらった形であった。
 
 

企業ごとに懸念されるリスクを想定し、対策をアップデートする

 
コロナ禍を経て、その教訓を今後に生かす必要がある。今なお、コロナに対する警戒をしながら、かつ自然災害や緊急事態に備えるという双方への備えが不可欠である。まず、コロナなど感染症対策に関して、感染者あるいは感染の疑いのある者が出た場合の対応手順を確立する。そして、濃厚接触者の動向が追えるようにする。感染予防に関して衛生面の配慮もしながら、万が一のサポートが必要になる場合へ備えて、地元の医療機関や自治体との連携を重視することも加味したい。
 
自然災害への備えも重要だ。さらに、最近はネットワーク関連のサイバーテロなどサーバーダウン、不審者の侵入など多様なリスクに対する内容を、BCPに盛り込む企業が多くなっている。このように、企業ごとに懸念されるリスクを精査して、外部から専門家を招聘するなどして、新規の対応やアップデートをするべきだろう。
 
もちろん、BCP策定だけを目標にするのではなく、関連した防災訓練、社員への教育など総合的なアプローチが必要になる。これらには熟練の専門家の力を借りることも推奨したい。
 
 

想定外を克服するために

 
ひとたび感染症や災害など大きなリスクが発生すれば、各企業の経営に与える影響は相当なものになると予想される。だからこそ、事前にその予防線を張るべきなのだ。これまで繰り返されてきたリスク対策にどこかで見切りをつけ、さらなるブラッシュアップをしていく必要がある。それが今、すべきことなのだ。
 
日本では今後、南海トラフ巨大地震などの発生が危惧されている。その中で、海外からの研修生や労働者も増加していくだろう。日本人の従業員はもちろんだが、外国人労働者をも企業はどう守っていくか、そこにも配慮が必要だ。さまざまな業種に外国人が採用されて、“人不足”が補われている。言語の問題のみならず、習慣、食事宗教などにも配慮した訓練や備品の整備が必要である。
 
地域によって特有の課題もある。例えば首都圏のような人口が密集しているエリアでは、大量の帰宅困難者が生じ、かつ避難所不足も指摘されている。さらに都内各所では、木造家屋が密集している地域があり、大規模な火事が発生することも予想される。
 
関連して、避難経路が家屋の倒壊や火事により利用できないことも想定される。こうした対応に、企業経営者は自社と従業員の安全に対する“情報の確保”と“適切な指示”が必要である。
 
加えて、昨今の災害対策で指摘されるのが、ジェンダーに関する問題だ。女性への配慮として、これまで東日本大震災等での意見などが挙げられている――例:災害時対応者に女性が少ない、備品に生理用品が欠品していた――など、こうした過去の事例からのフィードバックを行うべきだ。
 
安心・安全な労働環境を整備するという当たり前のことを、満足に完備できていない状態であったことを、新型コロナ禍によって多くの経営者が痛感したはず。だからこそ、経験値をあげて、想定外を克服する経営者の増加が、最終的に企業経営の強靭化へ礎となるだろう。
 
ところで、人気を博したテレビドラマの『半沢直樹』が私は大好きで(自分も名前が“なおき”であるからという勝手な思いもある)、もしこの作品内で、自然災害やチャイナリスク対策を半沢が実行するとしたら、どんな対応をするか、考えてしまう。誰より仲間を大切にし、情報戦に強い半沢のリスクマネジメントが、フィクションの話とは言え、もし示されるなら、ぜひ学びたい。
 
それくらい、企業のリスク対策には従業員との信頼関係が重要で、かつ、社員主導で積極的な対応のできる人材が必要であることを、著者は企業顧問をしながら痛切に思うのだ。こうした姿勢が、企業のトップを司る者には特に必要なのだ。
 
 
コロナ禍を教訓に、経営者のリスク対策・BCP(業務継続計画)はどうあるべきか
第1回 新型コロナウイルスによる企業への影響、また課題について精査し、それをどう生かすべきか
(2023.10.18)

 プロフィール  

古本 尚樹 Furumoto Naoki

株式会社日本防災研究センター
危機管理アドバイザー、医学博士、阪神・淡路大震災記念人と防災未来センターリサーチフェロー

 学 歴  

・北海道大学教育学部教育学科教育計画専攻卒業
・北海道大学大学院教育学研究科教育福祉専攻修士課程修了
・北海道大学大学院医学研究科社会医学専攻地域家庭医療学講座プライマリ・ケア医学分野(医療システム学)博士課程修了(博士【医学】)
・東京大学大学院医学系研究科外科学専攻救急医学分野医学博士課程中退

 職 歴  

・浜松医科大学医学部医学科地域医療学講座特任助教(2008~2010)
・東京大学医学部附属病院救急部特任研究員(2012~2013)
・公益財団法人ひょうご震災記念21世紀研究機構阪神・淡路大震災記念 人と防災未来センター研究部 主任研究員(2013~2016)
・熊本大学大学院自然科学研究科附属減災型社会システム 実践研究教育センター特任准教授(2016~2017)
・公益財団法人 地震予知総合研究振興会東濃地震科学研究所主任研究員(2018~2020)
・(現職)株式会社日本防災研究センター(2023~)

専門分野:防災、BCP(業務継続計画)、被災者、避難行動、災害医療、新型コロナ等感染症対策、地域医療
※キーワード:防災や災害対応、被災者の健康、災害医療、地域医療

 

 個人ホームページ 

https://naokino.jimdofree.com/

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