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「使ってないんすか!? マジで!?」

 
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horiy / PIXTA
昨年末、恒例の「年一で集まる旧友の野郎ども3人忘年会」の席上、chatGPTの話になりました。筆者が「まだ使ってない」と言うと、最近コンサル会社に転職した旧友の一人が目をまん丸に見開いて、「使ってないんすか!? マジで!?」と、噴飯の勢いで驚きました。彼はここ10年ほど一貫してICT業界にいたので、使わないほうが理解できない感覚なのです。
 
それへの筆者の反論は、彼が1ヶ月前ぐらいに書いていた勤め先企業のインサイト記事を読んだと伝えたうえで――だから生成AIの話になったわけですが――、「あれってほとんどAIで書いたって今聞いて初めて知ったけど、すごい整ってる文やとは思うたけど、結局どこ・何を読んでほしいかが伝わってこんくて、かえって疲れた」というもの。彼は「それはぼくの指示が駄目だっただけです」と返し、筆者が「この前の芥川賞受賞作はだいぶ生成AIで書いたみたいやん」と話を展開しても、頭をフリフリしながら、「わかってない。芥川賞とか言ってる時点で何もわかってない」と、いかにもこういうときの彼らしくキッパリとした痛快な否定ぶりで、おかげで楽しいハシゴ酒と相成りました。
 
そして年が明けて1月17日。前々日から始めていた書籍原稿の続きをやろうとWordを開くと、行頭に見慣れないアイコンが付いてきます。何これ? と思って調べたらCopilot(コパイロット)。Microsoft 365にこの日から実装された生成AIでした。
 
 

株式会社インテージの調査

 
先月20日に中国のファンド企業が発表した「DeepSeek(ディープシーク)」により、生成AIの報道が急増しています。今まで無縁だった人たちも、急に生成AIを身近に感じているのではないでしょうか。
 
筆者はといえば、行頭に現われた瞬間は「ええぃ、鬱陶しい」と思って改行で消えないかenter連打で試しましたが、消えるはずもなく。その日は無視して進め、翌日、試しに使えそうな箇所に差し掛かったので指示文――プロンプトと言うそうですね――を試行錯誤しながら書かせてみて、「この項のベースはCopilotで書いています」と断りながら原稿に使いました。納品メールを送った瞬間は、なんだかちょっと悪いことをしているような、大人の階段を上ったような、ソワソワする感覚でした。
 
市場リサーチ会社のインテージが行った調査では、昨年10月時点で生成AIの利用経験がある人は全国の18~75歳の13.1%止まりです*1。調査時は筆者も最大ボリュームゾーンの「知っているが利用したことはない」41.7%にいたわけで、「その他大勢」の感覚を代表できる自負で、筆を執った次第です。
 
 

DeepSeek以後の世界線

 
それにしても、納品の瞬間のあのソワソワは、過去にも覚えがありました。「これからこっちになるだろうな」という、ある種の予知の感覚です。この感覚を確かめるべく、同じインテージの調査の「ビジネスパーソン編①」を見ると*2、自身の業務で既に生成AIを導入しているビジネスパーソンは11.6%。導入を検討中が18.7%。導入予定なしが69.7%でした。
 
ですが、これは“DeepSeek以前”の調べであり世界線です。著名投資アナリストが喝破した通り*3、また、AI業界の識者が解説する通り*4、生成AIが――その中身であるLLM(大規模言語モデル)が――本質的にコモディティ化するものである以上、DeepSeekがその口火を切った今、導入予定なしの69.7%はそのままでいられるはずはないでしょう。
 
先のインテージの調査では、生成AIを利用しない理由は「特にない」が41.8%で断トツの1位です*5。積極的に避ける理由がないなら、「ある日実装されたから」との理由で使い始める人は多いはず。少なくとも、今後デスクワーク一般が、筆者の旧友がすでにいる世界線に「働き方改革」と一緒に収れんしていくことは、確実だと思います。
 
 

指示文を磨くアプローチではなく

 
そんなわけであれこれプロンプトをいじりましたが、なかなか思い通りの文章が出せません。それもそのはず、生成AIの性能を最大限に引き出すには、プログラムの構造を理解していることと、目的分野の専門知識が必要で、プロンプトエンジニアリング(Prompt Engineering)というスキルが新たに生まれているほどです。もはや「優れた出力ができるプロンプト文がコンテンツとしての価値を持ち始めており、一般的な用途で使えるプロンプトについては、有料で販売できるマーケットプレイスが海外では複数登場してきている」という状況ですから*6、遅れて来たマジョリティーが今さら何をかせんや。
 
ただ、そこで閃きました。指示文を的確精密にしていくアプローチよりも、機械学習の原理からして、自分の過去の文を読ませて「あなたは○○○○さんです。以下の#条件を守って、指定した#内容のコラムを書いてください」とすれば、筆者の発想や物事の捉え方・考え方を学習したAIが「俺だったらこれっしょ」とばかりに思い通りの文章を書いてくれるのでは、と考えたのです。
 
幸い、本名名義で書いた文がWeb上に約54万字あります*7。そしてたまたま筆者は、同姓同名の他人は日本中にまず居ないであろう名前です。このアイデアが閃いた瞬間は、「ブロガーの山本一郎さんとかコラムニストの山田五郎さんにはできない芸当だろう。ぐっふっふ」と、一人悦に入りました(笑)。
 
それでやってみたところ・・・駄目でした。そもそもクレジット(署名)で記事を見つけさせるのってできるんだろうか。いや、それはできるだろうな。「以下のURLページの記事の内容を理解した○○○○さんならどんなことを考えるか、という視点で文章を考案する」という条件にしたけどURLは受け付けてもらえなかったから、そのせいかな。他の生成AIならそういうこともできるのかな・・・。
 
 

勉強に意味はあるか

 
そんなこんなでなおも関連記事を読み漁るうち、「謝罪メールの文案を書かせる」という使途を見つけて、ハタと気付きました。「意味ないじゃん!」と。
 
意味がないとは、そんなメールに謝罪の意味があるかということの前に、AIに書かせたコラムが自分自身に対して意味があるかという意味です。納品できて原稿料がもらえて収入にはなっても、筆者は毎回自分が勉強したくてコラムを書いている面も強いので、「AI○○さん」にそれを代行させることは、筆者の実存にとって自殺行為ではないかと。
 
これはVチューバーでよく言われる「リアルの自分との乖離がツラくなる」問題とは別です。AI○○さんが稼働すること自体は構わない。Web空間内で肥大したって構わない。ただ端的に、リアルの自分が世界について勉強する機会を失うことが惜しいのです。
 
ここからは、落合陽一さんが1月15日のNewsPicksで「知性のダイエット」という言い方で挑発的に否定してみせた「重い知性」の話*8と、岡田斗司夫さんが一昨年3月に「教育が必要かどうかを問われる時代」という言い方で指摘した「知的革命」の話が立ち上がってきます。一言でいえば、「勉強って意味あるの?」という問いです。
 
それに対しては「趣味ですから。ちょっと高尚なね(ニコッ(⌒∇⌒))」ぐらいの返しが妥当だと思いますが、はてさて――。とにかく今年は、自分の仕事に仕えるプロンプトの開発と蓄積が必須になりそうです。
 
 
*1 日常生活における生成AIの浸透実態~生成AI利用実態調査 生活者編①(「知るギャラリー」2025.01.24)
*2 生成AIの活用格差~生成AI利用実態調査 ビジネスパーソン編①(同上)
*3 AIバブル崩壊したのか?DeepSeekショックが簡単に収束しない理由(探求!エミンチャンネル 2025.01.30)
*4 DeepSeekショックがLLM業界を襲う…LLM企業は「先行者“不”利益」、特殊なテックビジネスである理由(石角友愛「TECH INSIDER」Jan 30, 2025)
*5 生成AIスペシャリストのスキル習得と事業開拓テーマ(JNEWS LETTER 2024.3.18)
*6 識者インタビュー等を除く、筆者の主観・視点だけで書いたもの
*7 「2025年に起きるのは知能の大変革」一番必要な情報圧縮スキルとは?今学ぶべき事について徹底議論
*8 25年前から俺は警告した...2025年、〇〇労働でしか食えない君たちから確実に失業します(おかだぬき夫の超解説【岡田斗司夫切り抜き】)17:25~19:00
 
 
(ライター 横須賀次郎)
(2025.2.5)
 
 

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