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流通の雄セブン&アイホールディングスと服飾業界の巨人ファーストリテイリングが提携を図っている。両社が狙うのは流通の完成形とも言えるオムニチャンネル化――実店舗とEC販売(インターネット通販)の融合だ。すでにセブン&アイはこの10月からオムニチャンネルの統合サイトを本格稼働する予定で、提携が成ればユニクロの衣料品がセブンイレブンのサイトでも購入できるようになると予想される。
EC市場の拡大には近年めざましいものがある。経済産業省が発表したデータによると、2013年の売り上げは約11兆1700億円となっており、全商取引に占める割合は3.67%。2008年の約6兆800億円、1.79%と比べ5年間でほぼ2倍に増えている。
いっぽうで日本の小売業全体に目を移すと、長く続く低迷状態は深刻だ。経済産業省が発表している商業統計速報によると、2009年には135兆円あった小売業(卸を除く)の売り上げが2014年には128兆円に減少。少子高齢化や景気の停滞といった社会的な押し下げ要因を受け、やせ細りゆく状況に歯止めがかかっていない。
減少するパイの中でインターネット通販の割合が伸びている状況を受け、これまでは実店舗での販売に軸足を置いてきた流通企業の中にも、より積極的なEC展開を図る動きが見られるようになってきた。オムニチャンネル化はその最終進化形とされており、セブン&アイホールディングスとファーストリテイリングの提携も進化へのステップと見られる。ただ一般に認識されている以上にオムニチャンネルの本質は複雑であり、企業に大きな変革を求めるとともに、消費者の消費行動そのものを刷新する可能性を秘めている。
小売業は長く、実店舗での相対取引のみを販売機会とするシングルチャンネルで成り立ってきた。これに対して、実店舗とEC店舗などを並立させるのがマルチチャンネル。EC市場の急成長を受けて小売企業がまず指向するのがこの形態だ。オムニチャンネルはマルチチャンネルをさらに進化させ、実店舗とECの溝をなくしてサービスを一体化させた形態である。
消費者にとって実店舗で購入してもインターネット店で購入しても同じサービスを受けられるというマルチチャンネルのメリットは大きい。具体的には顧客データの統合により好みに合う商品を推奨してもらえたり、購入した商品と同時購入することで利用価値が上がる商品についてアドバイスしてもらうなど、実店舗でもECでもきめ細やかなサービスが受けられようになる他、チャンネルをまたいで在庫を探せることやポイントをまとめて使えるようになることなどによりショッピングの利便性が高まる。さらには時間や場所を選ばずにショッピングを楽しめ、受け取り方も自由に選択できる。百貨店などがない地方でも様々な商品が購入できるようになるため、消費活動における地域格差を埋めることにもつながる。
オムニチャンネル化への進化を各小売企業が模索する背景にあるのは、スマートフォンの普及を受け消費者の消費行動が変化しつつあるという環境の変化――、一種の「自然外圧」だ。
ECを利用する消費者は全国はおろか世界中から、より条件のよいショップを選んで商品を購入することができる。その結果、百貨店や家電量販店で実物を確認してネットで購入する「ショールーミング」が増加したため、巻き返し策としてマルチ化、さらにはより消費者にとって使い勝手のよいオムニ化を指向せざるを得ない状況にあるのだ。