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日本郵政株式会社と、傘下のゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の3社が、2015年11月4日、東京証券取引所第1部に上場する。
日本郵政は、ゆうちょ、かんぽの他に日本郵便も子会社に持つ日本郵政グループの持株会社で、政府が全株式を保有してきた。2005年の“郵政国会”で民営化法案が可決されたのは、巨大な資産を持つ郵政公社を民営化することで、それまで政府の財政投融資に使われていた資産を民間部門に流せるようにすることが目的だった。道路公団などの特殊法人の延命と官僚の天下り先確保にもつながっていた財政投融資をなくし、ファミリー企業を淘汰し、税金も民間と同じように払う。国家公務員97万人のうち30~40万人を占める郵政事業従事者が全て民間人になれば、大幅な国家公務員の削減、行政のスリム化になる。これは大きなメリットだった。――そして2007年10月、「郵政民営化法」で持ち株会社である日本郵政と、その下に日本郵便、郵便局、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の4つの株式会社が発足した。
実は現在まで、郵政関連ほど政治に翻弄され、政治を翻弄してきた政策もない。流れをたどってみよう。
2005年の「郵政民営化法」では、日本郵政株の政府持ち分は全体の3分の2としてできる限り早く処分すること、金融2社の株の日本郵政持ち分は2017年9月までに全て処分することが決められた。
しかし、2009年には民主党政権が見直しを行い、「郵政株売却凍結」を決定。金融2社が民営化後に採算のとれない地域から撤退してしまうと、住民が貯金や保険などのサービスを受けられなくなると危惧したからだった。その後、東日本大震災が発生し、2011年11月には「復興財源確保法」が成立、売却収入を復興財源に充てることになった。
ところが、2012年に自民党政権が復活。政権は「改正郵政民営化法」を制定し、凍結を解除。完全民営化の期限も撤廃した。そして2012年10月1日、郵便局と郵便事業が統合されて日本郵便となり、ゆうちょ銀行、かんぽ生命と日本郵政の4社からなる「日本郵政グループ」がスタート。現在は純資産15.4兆円、グループ時価総額13兆円超の巨大企業になっている。
気になる今回の売り出し価格は、日本郵政は1400円、ゆうちょ銀行は1450円、かんぽ生命は2200円。3社は7月に1株を30株に分割しているので、最低投資金額は売買単位が100株になると3社合わせても100万円を超えない。つまり、個人投資家がNISA(少額投資非課税制度)を使って購入できる額だ。
株主比率に関し、政府は海外の機関投資家が2割、残り8割の国内向けのうち95%を個人投資家が占めると想定。初回の株式売り出し額は3社合計で1兆4000億円程度になる模様で、2014年に新規上場した企業による資金の調達額は9800億円だから、3社だけで昨年の年間調達額を大幅に上回る。
時価総額は約12兆円とソフトバンクグループを超え、株主数は3社合計で100万人とトヨタ自動車の2倍。市場に与えるインパクトは実に大きい。「21世紀最大の新規上場案件」との呼び声がかかる所以である。
上場後の成長戦略は描き切れているのだろうか。金融の専門家は上場に当たっていくつかの課題があるという。
第一は、ガバナンス(企業統治)体制だ。東証は2015年6月に「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」を導入した。東証のコードは上場企業にROE(自己資本利益率)の改善、増配、自社株買いなどの株主還元策の拡充、社外取締役の複数選任、中長期的な経営ビジョンなどを求めるが、日本郵政グループはコードが求める水準に達していないという声がある。実際、日本郵政の15年3月期の決算を見ると、ROEは3.4%。合格の最低水準である5.0%を下回る。