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OTC医薬品の区分とEC比率

 
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筆者撮影
市販薬のネット販売が伸びているようです。市販薬とは、医師の処方箋がなくても薬局やドラッグストアで買える医薬品のこと。一般用医薬品あるいはOTC医薬品とも呼ばれ、日本では2020年時点で8606品目あります。一昨年の市場規模は1兆1360億円です*1
 
富士経済が7月18日に発表した市販薬のECに関するリポートによると、EC市販薬の市場規模は904億円。市販薬市場全体におけるEC比率はまだ6.9%ですが、2029年には8.1%になり、市場規模は2023年比+24.6%の1126億円まで伸びるそう*2
 
ただ、調査はドリンク剤に関しては医薬部外品(リポビタンDやチオビタドリンク)も含むようなので、私たちが「薬(くすり)」と聞いて思い浮かべる製品にしぼれば、そこまでではないかも。同じ富士経済の別の調査では市販薬ECの4割をビタミンB1主薬製剤やシミ改善薬が占めており、発毛剤や肥満改善薬も高割合だそうなので*3、一般に思ういわゆる薬とは少しニュアンスが違いそうです。
 
一般用医薬品は三つに区分されます。副作用のリスクが高い順に「第一類医薬品」「第二類医薬品」「第三類医薬品」です。第一類は国家資格の薬剤師しか販売できませんが、第二・第三類は、都道府県が定める試験に合格した登録販売者であれば販売可能です。
 
先のリポDやチオビタも、瓶が小さくて値段が高い「ミニドリンク剤」カテゴリーの商品になると、リポビタンゴールドXは第三類、チオビタゴールド2000は第二類医薬品に該当します。いわゆる「リポDのいいやつ」「チオビタのいいやつ」です。
 
滋養強壮ドリンクの最高峰として名高いユンケルスター(50㏄で3884円!)も第二類医薬品です。特に虚弱体質でない普通の人がユンケルスターの20本入りを買って連日飲んだらどんなことになるか。そこまで行くとむしろ「クスリ」と片仮名で書くほうが正確かもしれません(笑)。
 
 

「よく効く薬」――スイッチOTC医薬品

 
――と、混ぜっかえすのはそこまでにして、一般用医薬品のうちよく効く薬、つまり、私たちが普段困ったときに「これが市販されているとはありがたい!」と感じる薬は、もとは医師の処方がないと買えない医療用医薬品だったものが、臨床で有効性・安全性の実績とエビデンスが確立したことから一般用に転用(スイッチ)された、「スイッチOTC医薬品」と呼ばれる一群だと思います。
 
有名なものに胃薬のガスター10(販売名)があります。有効成分はファモチジン。俳優の西村まさ彦さんが上着の前をガバッ! と開けると商品のロゴがドバッ! と飛び出すCMは、1997年の発売当時からかなりのインパクトでした。
 
水虫治療薬のダマリンシリーズも有名です。こちらの歴史はもっと古く、1988年にスイッチ(医療用から一般用へ転用)されました。有効成分はミコナゾール。2003年発売のダマリンエースは非イミダゾール系のアモロルフィンを有効成分に使っていましたが、現在は、ミコナゾールを使うダマリンLと非イミダゾール系で新たにテルビナフィンを採用したダマリングランデとの二本柱で展開しています。ちなみにダマリンLは第二類、ダマリングランデは第二類の中でも特に要注意な成分を含む「指定第二類医薬品」に、それぞれ区分されています。
 
直近で一番大きかったスイッチOTC化案件は2011年に市販開始の消炎鎮痛薬ロキソニンでしょう。有効成分はロキソプロフェン。痛みの素となる炎症を引き起こす成分であるプロスタグランジンの生成を抑え、炎症を抑えることで解熱作用も発揮します。解熱鎮痛薬成分のスイッチOTC化は1985年のイブプロフェン以来実に26年ぶりということで、発売当時は大きな注目を浴びました。
 
なお、ロキソニンもガスター10も区分は第一類で、薬剤師の説明を受けないと売ってもらえないので、薬局やドラッグストアに行っても薬剤師が勤務終了でいなければ買えません(2014年解禁のオンライン販売に関しては後注4を参照)。また、スイッチ直後で審査期間中(販売開始から原則3年)の薬には第一類の上に「要指導医薬品」という区分があり、こちらは2024年現在もリアルで説明を受けなければ買えません。
 
 

来年から全区分の医薬品でECが解禁

 
そこにコロナがやってきました。感染を避けるため医療機関の受診を控える人たちが増える中、厚労省は2020年にオンライン(ビデオ通話)による服薬指導を解禁。一定条件のもとで医療用医薬品もECができるようになりました。
 
そして昨2023年11月。唯一EC不可のまま残っていた要指導医薬品に関しても、オンラインで薬剤師の説明を受ければ購入できるようにする方針案を厚労省が提出。これを受け、2025年度からはすべての医薬品でネット販売が解禁される見通しです。
 
国が薬のEC化を拡大する背景には「セルフメディケーション推進」の考え方があります。少子化と超高齢化が同時進行する状況では、社会保障行政維持の観点から医療費の抑制・適正化が必須です。セルフメディケーションは「自分自身の健康に責任を持ち、軽度な身体の不調は自分で手当てすること」(WHOの定義)。ユンケルスターにはそうそう手が出ませんが、「チオビタのいいやつ」「リポDのいいやつ」を飲んで不調が治るならまずはそっちで、ということです。
 
折しも働き方改革が今春から医師にも適用になり、「勤務医の時間外労働は年960時間/月100時間まで」「連続勤務は28時間まで」「勤務間インターバルは最低9時間以上」などが義務化されました。地方の僻地では、そもそも医師がいない、薬局やドラッグストアもない事態が進行中です。セルフメディケーションと医薬品ECの拡大、またそれらを支えるオンライン診療および服薬指導は、今後需要が増すいっぽうでしょう。
 
 

薬は正しく使おう

 
ところで。セルフメディケーションは自分の健康に「責任を持て」と言いますが、筆者としてはその前に、自分の健康に真面目に向き合うことから始めませんか? と思います。コロナをめぐるさまざまな対応――個人も行政も――を見るにつけ、まずはそこからだと感じるからです。
 
痛いあまり自棄になり、その部位を無理に痛いほうに曲げる、引っ張る、押す、叩く――。気持ちはわかります。経験もあります。が、あれは一人でやるものです。イキって周りも巻き込んで防疫を攪乱して気分が上がるのはただの中二病です。
 
「日本はヤンキーとファンシーでできている」と喝破したのは漫画家の根本敬で、故・ナンシー関が感心して広めましたが、最近、それを敷衍して「日本はヤンキーとファンシーと広告代理店でできている」と書いたX(旧Twitter)の投稿を見ました。筆者的には、7月の都知事選とその後の顛末を思い出すにつけ、もう一つ追加して「日本はヤンキーとファンシーと広告代理店とYouTuberでできている」と言いたいと思います。
 
セルフメディケーションはヤンキーのノリで広告に煽られてやると失敗します。YouTuberが結果的に施策を左右するセルフメディケーションがはたして良いものになるかも甚だ疑問です。
 
いずれも失敗は我が身に返ってきます。薬は正しく使いたいものです。
 
 
*1 NIKKEI COMPASS「一般用医薬品」
*2 プレスリリース第24065号
*3 プレスリリース第24004号
*4 第一類は2014年にネット販売が解禁されましたが、薬剤師がオンライン(ビデオ通話)での説明を勤務地以外からすることは許されていないので、結局は店舗に薬剤師がいないときは買えません
 
 
(ライター 横須賀次郎)
(2024.9.4)
 
 

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