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◆異次元緩和の出発点

 
 2013年4月4日に発表された日銀の「異次元金融緩和」。2012年末で138兆円だったマネタリーベースを2年間で2倍に増加させ、資金供給量の拡大による期待インフレ率の引き上げを通じてデフレ脱却を狙うという、量的にも質的にもそれまでの日銀のスタンスを変えた意味で、まさに“異次元”の金融政策である。白川方明総裁時代に一貫して効果が疑問視されてきたこの策はしかし、去年2014年の10月には追加の緩和も行われ、市場に大きな驚きを与えた。あれから1年が経ち、施策判断の指標となる消費者物価指数や賃金上昇率のその後のデータが出てくる中で、「2度あったことは3度・・・」「やるなら9月か10月・・・」という推測が飛び交っている。
 
 そもそも去年の“追加第1弾”も、施行からわずか1ヶ月半後には緩和の前提だった10%への消費増税が2017年4月まで1年半も先送られるなど、要素が二転三転する中で実施された。果たして今秋の“追加第2弾”はあるのか? この1年で各判断指標やそれらをめぐる要素はどう変わってきたのか? このタイミングで整理を試みるのが本稿の狙いである。
 
 

◆追加緩和後に何が起きたか?

 
 2014年10月31日の追加緩和発表が市場および実体経済に与えた影響を振り返ってみよう。日銀・黒田東彦総裁は、「景気は順調に拡大しており追加緩和は必要ない」と繰り返し述べていたため、追加緩和が行われた際、市場は非常に大きな衝撃を受けた。日経平均は前日比で755円高と同年最大の上げ幅を記録、東証1部の売買代金は4兆1982億円と今年最高を記録した。
 
 一般に「株価が高騰すると円安が進む」と言われているが、この追加緩和の際にも、急激に進んだ株高の影響を受け、追加緩和後の1ヶ月で、1ドルは120円台に突入した。その後も円安傾向は続き、2015年5月28日は1ドル124円を突破し、2007年6月以来の円安水準となった。
 
 また 実体経済の面では、平成27年春闘の集中回答日である2015年3月19日には、自動車、電機などの主要企業で月額3000円以上のベースアップが目立つなど、過去最高水準での妥結が相次いだ。円安の影響と共に、2014年に急落した原油市況が持ち直す傾向を見せたこと、消費税増税の影響により低迷した消費が回復しつつあることなどから、各証券会社は「2015年から2016年にかけては企業業績回復が加速する」という見通しを発表している。
 
 

◆消費税10%へ、スムーズな再増税を目指したが・・・

 
 しかしここで別の要素が入ってきた。急速に円安が進んだことで、輸入食材や海外から輸入する原材料費が値上がりし、食品、日用品などの値上げが相次ぎ、実質的な賃金は19ヶ月連続でマイナスに陥ったのだ。日銀は2015年4月30日の金融政策決定会合で、物価上昇率が目標の2%に達する時期の見通しを、従来の「2015年度を中心とする期間」から「2016年度前半」に延ばさざるを得なくなった。
 
 先の追加緩和は、デフレからの脱却と景気回復の他に、消費税増税による消費の停滞という影響をできるだけ緩和し、再増税をスムーズに行えるように、という狙いがあったが、その点はどうなっただろうか?
 2015年3月31日、参院本会議で2015年度税制改正関連法が可決、成立した。それにより、今年10月に予定していた消費税率10%への引き上げが1年半延期され、2017年4月まで先送りとなった。追加緩和で狙ったことのいっぽうは、実際には再増税を先送って終わった形だ。影響のほどは定かではないが、ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマン氏が2014年11月に安倍首相と会談した際に「消費増税はアベノミクスを成功させ、デフレ脱却を確実にしてからでも遅くはない」と延期を進言したとの報道もあった。
 
 
 

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