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10月30日は「食品ロス削減の日」

 
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destillat / PIXTA
昨年10月に食品ロス削減推進法が施行され、10月30日が「食品ロス削減の日」になって一年が経った。その間、今春からは消費者のライフスタイルが“巣ごもり”に向かった。食品流通の分野でもEC化(通販化)が進み、農林水産省が生産者支援のために始めた「元気いただきますプロジェクト」の効果もあって食関連のECプラットフォームが活況を呈している。
 
ただ、一般消費者――食品ロスの問題に特に関心がない消費者――にとってはまだ、それらを通して買う飲食料品の魅力は「通常より安い」ことがポイントで、結果的に社会全体で食品廃棄を抑えることができたものの、あくまでそれは結果だった。
 
いっぽうで、食品ロスの社会問題を新たに意識するようになった消費者が一定数増えたことも事実だろう。コロナ禍以前から「食品ロス削減による社会貢献」を主眼に運営する「KURADASHI」では、月間ユーザー登録数がコロナ以前の3倍になったそうだ*1
 
仮に前者を「卸に近い価格観を覚えた消費者」、後者を「社会的付加価値をともなう購買スタイルに目覚めた消費者」として、両者を合わせれば決して少なくない数の新たな消費者層が、今春から誕生したはずだ。「EC化が進んだことで消費者と生産者が直接つながれるようになった」という流通チャネルの変化がそれを後押しする。これはおそらく元には戻らない。
 
 

アニマルウェルフェアとバタリーケージ

 
そして、特に後者に関しては、食品ロス削減の他にも社会的付加価値を感じるテーマが見つかると思う。その方面の感度が上がるからだ。そのとき期待したいのが「アニマルウェルフェア(動物福祉)」である。
 
このアニマルウェルフェア、畜産分野では「快適性に配慮した家畜の飼養管理」と定義されるが、日本はこれが非常に遅れている。世界を見れば、WTOも参照する国際獣疫事務局(OIE)の勧告もあり、今や経済動物(肉牛・乳牛・豚・食用鶏・採卵鶏)といえどもアニマルウェルフェアに配慮することが基本になっている。何よりサプライサイド(流通・小売・飲食)がほとんど必須の経営戦略的な課題として相次いで取り入れている様は、NPO法人アニマルライツセンターのキャンペーンサイト「バタリーケージの卵を食べたくない!」内、「海外の状況」のページを見ればよくわかる。
 
ここに出てくる「バタリーケージ(単に「ケージ」とも)」とは、採卵鶏の飼養方式の一種で、給餌器と給水器を備えた金属製のカゴに鶏を入れて飼養する方式のこと。鶏は一度入れられれば羽ばたきも砂浴びも、止まり木に止まることもできず、鶏の習性である土掻き・地面つつきもできないまま、20cm×20cm程度の空間で一生を終える。EUではバタリーケージは2012年から全面的に禁止されているが、日本ではまだ92%以上がこの方式だ*2
 
 

国際獣疫事務局(OIE)が示す5要件

 
飼養方式については農林水産省所管の公益社団法人日本畜産技術協会が、アニマルウェルフェアに対応した飼養の管理指針*3を出している。そのなかで、EUのバタリーケージ禁止について「鶏の行動が制約されるという従来のケージ方式の欠点を解消」と認めつつ、代って使われるようになった「エンリッチドケージ」や「エイビアリー」方式に関しては、「(鶏どうしの)闘争発生の増加と生産性の関係等の面で、まだ研究の余地がある」と、判断を逃げたと言われても仕方ない保留をしている。
 
採卵養鶏ではケージ飼養の他、「デビーク(ビークトリミング。嘴の先を切り落とすこと)」も問題視されている。長く卵を産ませるために絶食させて無理やり羽を生え換わらせる「強制換羽」も、餓死や衰弱を招きやすい。なお、国際獣疫事務局(OIE)が勧告するアニマルウェルフェアの要件は次の5つだ。
 
①飢え、渇き、栄養不良からの自由
②恐怖と苦悩からの自由
③物理的環境の不快感からの自由
④痛み、傷害、病気からの自由
⑤正常な行動を示す自由
 
20cm×20cmのケージでも鶏は本能で羽ばたくから羽は折れ、土掻きをできずに伸びた爪が網にからまるから脚は骨折する。バタリーケージは①~⑤を一つも満たしていない。指針は「闘争発生の増加と生産性の関係等の面で」などと言うが、もともと序列を形成する社会性動物である鶏が闘争するのは⑤「正常な行動」である。それを生産性との天秤にかける時点で、そもそもアニマルウェルフェアとしてはナンセンスだ。
 
 

消費者発で状況は変えられる

 
アニマルウェルフェアの議論は生産側に責めが集中しやすい。そんななか、販売場面の実態から迫る貴重な調査資料として、「平飼い卵を中心とした鶏卵販売動向の研究 アニマルウェルフェア対応の可能性」*4がある。麻布大学の大木茂教授(動物資源経済学)がまとめたこの報告書では、
 
・卵の消費量の58.4%は家計消費
・卵の消費に所得階層による違いはない
・消費者が動物福祉を充分認識しておらず、ケージ飼育はかわいそうという意識が低い
・平飼い卵の価格は一般のブランド卵に近づいており、かつ特売率が低いので(平均21.4%。一般の卵はブランド卵でも72.9%)、販売チャネルが確立すれば生産者側・小売側とも扱いに意欲的*5
 
といった調査結果が示され、総じて消費者の需要が増えれば状況が変わる可能性はあるとしている。変えられないわけではないのだ。
 
加えて言えば、冒頭で定義した「新たに生まれた消費者層」のうち前者のほうも、実は従来の一般消費者と比べて後者的な消費者になっていきやすいはずだ。生産者と近くなればそういったテーマや情報に接する機会が増えるからだ。生産者と直接つながるとはそういうことなのである。
 
ローソンとKDDIは10月2日から埼玉県内の10店舗で「スマホの位置情報を使った値引き通知」の実証実験を行った*6。位置情報をターゲティング広告に取り込むのはコンビニでは初だったようだ。ターゲティング広告はどんどん精緻になっている。
 
もしこれを、「アニマルウェルフェア感度の高い顧客に向けて付加価値型の購買スタイルを助ける仕組み」に応用すれば? それこそ場合によっては「あつ森」にリアルを取り込んで、自分がかわいがる鶏が自然養鶏の農家で「コケ―ッ!」と卵を産むたびにリアルの平飼い養鶏場に卵が注文できるようになれば、どんな良い変化が起きるだろう。
 
 
 
*1 「コロナで加速するフードロス、根本原因は食品業界の「暗黙のルール」」(ダイヤモンド・オンライン 2020/10/15)
*2 そもそも最新の実態調査も自由回答のアンケート方式で55.0%の回答率だ。把握できていないぶんを考えれば現実は調査結果以下かもしれない。
*3 「アニマルウェルフェアの考え方に対応した採卵鶏の飼養管理指針 第5版」(2020/3)
*4 独立行政法人農畜産業振興機構畜産関係学術研究委託調査平成26年度報告(麻布大学獣医学部動物応用科学科動物資源経済学研究室)
*5 ただし「平飼い」の定義に基準がないせいで健全な商品市場形成が進まない問題が残っているようだ。
*6 「ローソン、食品ロス半減へ値引き情報 位置データ活用」(日本経済新聞 2020/10/17)
 
(ライター 筒井秀礼)
(2020.11.4)
   

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