チーム内での競争が重要
最終予選は1年かけて戦いますから、レギュラーを脅かす選手がどんどん出てきてほしい。けが人や出場停止になる選手も出てくるでしょう。いい意味で競争を続けて、チームを新陳代謝させながら予選を勝ち抜いていけば、チーム力も増すはずです。アントラーズにも代表のレギュラーとして活躍を期待されている選手は何人もいるので、彼らにもぜひ頑張ってもらいたいです。
SNSなどのメディアを活用
――では、あらためてクラブの集客アップに向けた取り組みをうかがいます。最近はどのクラブもSNSで情報発信をしていますよね。
やっぱり時代背景もあって、利用者が多いツールですから重要ですよね。アントラーズでは、SNSというプラットフォームを戦略的に活用しています。「フェイスブックではこう、ツイッターはこういうふうに」とユーザー特性と媒体の特色などを考慮して告知する内容を変えています。クラブ創設25周年を迎えた10月1日からは、「ビジュアルコンテンツでアントラーズの魅力を世界に伝えていく」というテーマのもと、インスタグラムも開始しました。“デジタルメディア”というと、どことなく華やかな印象を与えますが、実際には日々地味な作業の積み重ねです。SNSのようにライトなタッチポイントから少しずつ興味を持っていただき、その裏側で小さなPDCAをいくつも回しながらファンベースを拡大していくことが重要だと考えています。
――『月刊フリークス』というクラブの会報誌にも力を入れていると聞きました。
フリークスは、昨夏にリニューアルしました。毎号きちんとテーマを決めて、読みごたえのある内容にしています。僕も連載コラムを持っているんですよ。単に情報を提供するのではなく、サポーターの皆さんが知りたい、聞きたいことに対してできるだけ多くの情報を詳細に伝えることを目指しています。こちらから一方的に情報発信するのではなく、サポーターの皆さんの意見も積極的に取り上げているんです。この媒体を通して、一緒にクラブをつくりあげている感覚になってもらえれば嬉しいですね。
――他にはどんな取り組みをしているんですか。
2012年シーズンから、観客増とホームタウンの認知度アップを目指して「Are you readyキャンペーンという」企画を続けてきました。ホームゲームの前日と試合当日に、ホームタウンのコンビニや携帯ショップの店員さん、市役所職員の方々らに「Are you ready」と書かれたTシャツを着用していただき、試合告知にご協力いただいております。
サッカーの試合スケジュールって変則的だから、ホームゲームがいつ開催されるのかを知らない方々がたくさんいるんですよ。それで、自分で調べなくても情報として目に入れてもらうことを狙って、いろいろなところで働いている方々に、目立つTシャツを着てもらっているわけです。また、単純に告知ということだけでなく、参加団体で働くの皆様のアントラーズへの参画意識向上にもつながっていると思います。
小さな努力が集客アップにつながる
――細かい取り組みを積み重ねることも、集客アップにつながると考えているんですね。
そうですね。大都市のクラブであれば交通インフラが充実しているので、スタジアム観戦に来てもらうための手法っていろいろあると思うんです。だけど、カシマスタジアムは1日がかりで来てもらうような場所にありますからね。チケットだけでなくバスの往復代など、お金もけっこうかかりますし。
カシマスタジアムはおよそ4万人を収容できる施設です。それに対し、ホームタウンの鹿行地域の人口は、およそ30万人。鹿嶋市だけで言うなら、7万人に満たない。そういう地域でスタジアムを満席にしようというわけですから、企業としては常に危機感を持って、地道で細かいことでもいいから、何かを打ち出し続けなければいけないんです。
地域にファミリーの輪を広げる
――地域貢献と絡めた活動もしているそうですね。これも重要なことだと思います。
地域住民の方々にクラブの存在を身近に感じてもらうことが大切ですし、地域に貢献できてこそ、クラブとしての存在価値も増しますからね。その一環として、鹿行地域の小学校訪問を行っています。これは選手が各校を訪れて、子どもたちと一緒に体を動かしながら触れ合うイベントです。子どもたちにクラブの存在を知ってもらうことも狙っています。引退してからは僕が選手を連れて行くことも多くなりました。
これとは別に行っている食育キャラバンでは、下部組織の育成コーチやスポンサー企業様を通じて紹介していただいた栄養士の方を連れて小学校に出向き、「食事」や「運動」に関する講義と指導しています。活動を通じて、子どもたちに食や運動への理解を深めてもらうのが目的ですね。
――自治体から出向してクラブで働いている人もいるとか。
去年は行方市の方、今は鉾田市の方がクラブハウスで働いています。これは人材交流の一環ですよね。皆さんが元の職場に戻ったとき、クラブとのパイプになってくれます。クラブの事情を知っている方が増えれば、各自治体との連携も取りやすくなる。こうやって、外部の方々との交流を増やしてアントラーズファミリーを増やすことも、クラブの発展には重要なことなんです。
――なるほど。様々な方面にアントラーズファミリーという輪を広げていると。最終回となる次回は、スポンサー企業との交流などについてうかがいます。
vol.5 地域社会との交流を深める
(取材:2016年9月)
著者プロフィール
中田 浩二 Nakata Koji
株式会社鹿島アントラーズFC C.R.O
経 歴
1979年7月生まれ。滋賀県大津市出身。1998年、帝京高校から鹿島アントラーズに加入。数々のタイトル獲得に貢献した。2005年にフランスのマルセイユに移籍。2006年からはスイスのバーゼルで活躍し、2008年に鹿島に復帰する。2014年に現役を引退。日本代表では1999年の FIFAワールドユース選手権で準優勝、黄金世代の1人として注目を浴びる。2000年シドニーオリンピックU23代表、2002年日韓ワールドカップ、2006年ドイツワールドカップでも代表選手として大会に臨んだ。J1リーグ通算 266試合33得点、国際Aマッチ57試合2得点。現在は鹿島のC.R.Oとして多方面で活躍している。著書に『中田浩二の「個の力」を賢く見抜く観戦術―サッカーが11倍楽しくなる!』(ワニブックスPLUS新書)がある。
鹿島アントラーズオフィシャルサイト
http://www.so-net.ne.jp/antlers/
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