3年間言えなかったことが言えた日
みやざき勝人塾には酒販店店主の吉村さんという人がいる。吉村さんは3年前に脳梗塞で倒れてから左半身が不自由になっていて、身体障がい者だ。酒屋の現場は力仕事が多くて彼の体の状態だと満足には務まらない。だから私も、前回10月の指導までは、現場のことが多少おろそかでも成り立つ商売の仕方を探していた。吉村さんはワインに強くてソムリエの資格もあるから、それで売り出してネット販売をメインにすれば、体のハンデもないことにできるだろうか・・・みたいなことを考えていたわけだ。3年間、ずうっと。
でも、今月の勝人塾の翌日、3日に彼の店に行ったときに、私は言った。
「店が汚れてるよ。健常者のように掃除ができないのはわかるけど、このままじゃダメだよ」言ってから自分でハッとした。「やっと言えた!」と思った。それからこう続けた。
「店をちゃんとできるように人を雇おう。そうだ、障がい者の方に働いてもらおう。それで“障がい者の店主と障がい者の店員がバリバリ働く酒屋”として地域に売り出そう。いいじゃん、本当のことなんだから」
そうしたら、彼が嬉しそうにしたんだよね。彼本人はわからなかったかもしれないが、顔がパッと明るくなったんだ。それで私も安心した。3年もかかっちゃって申し訳なかったけど、ゴマカシじゃない、本質的な解決策を、やっと彼に示すことができた。自分の弱みを隠すんじゃなくそのまま受け入れて強みに変える商売のやり方に、彼を導くことができた。ほんと、ホッとした。
どんな相手とも対等に、普通に向き合えるようになった
と同時に、「誰に対しても根本原因に突っ込んで解決する」ということが、できているつもりでまだできていなかったんだなあ、やっとできるようになったんだなあ、と思った。根本原因に突っ込んでいくためには自分が相手のことを対等に見ていないといけない。「障がい者だから」とか「女性社長だから」かわいそうと思う気持ちが少しでもあると、相手を下に見てしまう。だから、思っていることを吉村さんにはっきり言えた瞬間は私自身も嬉しかった。相手に同情するんじゃなく、ハンデを違いと受け止めて普通に向き合えたというのは、自分がその壁を突破し成長したということだからね。
これが4連チャン続いた出来事の4つ目。成長を明確に自覚した出来事だ。1つ目はその半月前、1月16日の「にいがた勝人塾」で鬱病を患ったことのある社長に「病気に逃げるな!」とはっきり言えたのがそう。このときも言った瞬間に自分の中で変化を感じたが、まだよくわかっていなかった。
次がその1週間後、1月23日の「とうきょう勝人塾」だ。参加者のなかに免疫系の病気で一時は日常生活もままならなかった社長がいて、その方にも「病気を表に出したほうがいいですよ」とはっきり言った。このときは「9割の人は同情するから大丈夫。かえって商売になる」と、冗談めかしてアドバイスすることもできた。
3つ目はその翌々日の25日、地元の宇都宮の障がい者施設で、社会福祉法人の理事長に挨拶したときだった。その理事長の息子さんも障がい者だった。以前からサトーカメラのお客様で、私は息子さんとは馴染みだけど親父さんは初対面。だから挨拶したわけだが、「障害がある息子と良くしてくれて・・・」と言われたとき、すぐに「いやあ、普通ですよ」と答えた。答えながらどこにも不自然な感じがなかった。本心から言えた。
そして仕上げが、その8日後の「みやざき勝人塾」と吉村さんの店での出来事だ。たった1つの内的変化をめぐって、私を試すような場面が、3週間ちょっとの間に連続して起きた。まるで変化の完成をうながすように。不思議だよなあ。
こういうことに出合うたび思うんだけど、みんな必ず、日々少しずつ成長しているんだよ。違うのはそれに自分が自分で気付いて定着させられるかどうかなんだ。
やっぱり自分のことを見つめ直して勉強する時間を持つことも必要だね。この歳になると叱ってくれる人もいないから勉強といえば本を読んで勉強するしかないんだけど、それで「内観」という言葉を知ったんだ。内観というのは自分の心の動きや変化をつぶさに感じとろうとしたり、物事のとらえ方の癖を洗い出したりしてみることなんだが、これは「自我✕打算✕調和」をはじめとして私が以前から言ってきた「振り返り」や「自問自答」することにも通じる気がするから、しばらく意識してみようと思っています。
「好きなこと」より「好きなように」
今回は最後にもう一つ。内観つながりで編集部から質問が出たからその話もしよう。「若い人で自分が本当は何をやりたいのかがわからないという人がいますが、佐藤さんの答えは?」ということなんだが――。
そんなの、若いうちからわかるわけないっての(笑)。今や人の寿命は100年。80歳まで働く時代だ。だから変に焦らず、本当に自分がその仕事が好きかどうかなんてことはいいから、自分がやれそうなこと、得意だと思うことをやればいいよ。
だって、これは3月初旬に同文館出版から出る本にも書いたたとえだけど、自分が中学生だった頃を思い出してごらんよ。同級生で女子が100人いたとして、自分が好きな子は1人か、せいぜい2人。ちょっといいな、ぐらいの子が3人で、あとの95人は好きでも嫌いでもない子だっただろ?
私のような商業者はこの95人にいかに売っていくかが勝負だ。だって、マーケットはそっちにあるんだから。仕事もある意味それと同じ。何が将来モノになるかなんてわからないんだから、「好き」に当てはまる1つか2つのことに人生を賭けるという発想はとらなくていい。
ただし、年代ごとで課題はある。20代は「何の技術で人より優れるか」だ。やれそうなこと、自分が得意そうなことを人よりも上手になっておけ。そして30代になったら「どうしたらもっと上手くできるか」を追求しろ。あるいは、自分はどの部分が、どうして人より上手なのかを説明できるようになれ。そうやって技術と知識が身に着いたら40代で人脈を広げろ。で、50代と60代が人間の賢さのピークだから、そこでやりたいことをやりたいようにやればいい。そして70代になれば後進に譲っていくことを考えて、80代で仕上げだ。
若い時から好きなことだけやって成功できる人は余りいない。自己満足で終わってしまう人がほとんどだからだ。仕事は「好きなこと」をやるより「好きなように」やれるほうがおもしろい。そうなれるように頑張ってほしいですね。
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お問い合わせ
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e-mail:t-katsuhitojuku@business-plus.net
vol.16 1年の変化を棚おろしして考えた
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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