富士山とパンダが描かれたペンキ絵
その日に勤務しているスタッフが趣味の音楽を準備中に流しているんです(笑)。私はラジオを流すのが好きですね。気分やモチベーションを盛り上げられますよ。開店前は朝7時45分から3時間、清掃を徹底して行います。カランは男湯が24個、女湯は22個設置しているので、椅子や桶も前日から半日薬品に付け置きをしてぬめりや汚れを除去しています。
――そこまで徹底されているんですね! 浴室で目を引くのは富士山のペンキ絵ですよね。麓にパンダの絵が描かれているのは、上野の街にちなんででしょうか?
上野にはパンダで有名な上野動物公園があり、お子さんにも人気ですからね。この絵は、日本で巨匠と言われる3名の銭湯絵師のうち、唯一女性である田中みずきさんに2021年に描いていただきました。男・女湯ともに双子の赤ちゃんのパンダの親子に加え、女湯にはゾウ、男湯にはペンギン、あと私が元ボクサーなので、ボクサーの絵もリクエストしたんです。疫病退散のご利益がある妖怪で有名なアマビエもいますよ。
――壁絵にも描かれていたように、長沼さんは元プロボクサーでいらっしゃるんですよね。どういった経緯で寿湯の店主に?
――長沼さんは、ご兄弟3人とも銭湯を経営しているんですよね。
はい。現在は長男の秀三が薬師湯を、次男の雄三は鴬谷の萩の湯を営んでいます。寿湯は1952年の創業で、1959年に祖父が前のオーナーから買い取り、祖父の弟に経営を任せていたんです。のちに次男が寿湯に入り、経営を立て直してきました。長男はサービス業、次男は経営面に長けているので、兄たちから良いものを学べて事業に活かせていると思います。
寿湯の自慢の一つが、男湯の露天風呂の広さ!
――寿湯さんの男湯の露天スペースの広さには驚きました! 休憩椅子もかなり多いですよね。
そうなんです。男女ともに遠赤外線サウナを設置したほか、男湯には塩サウナや、その横に洞窟水風呂もあり人気です。特に男性のお客様も多いので、広いスペースを設けていますよ。
――内風呂の薬湯では、9種類の日替わり風呂を毎日実施しているとか!
はい。そのほか、不定期でチョコレート風呂やザボン湯など限定風呂の日も設けていて、「次は何風呂かな」と皆さんから好評です。薬湯の予定は、ホームページや浴室に貼っている「寿湯だより」で確認できます。次男の代から毎月連載していたのを私が受け継いでいて、雑学などのトピックもあるので、暇つぶしに楽しんでくれると嬉しいです(笑)。浴室には商品の宣伝や長沼兄弟が営む銭湯だけで読める新聞なども貼っていますよ。
銭湯を馬鹿にした人を見返したい
――廃業してしまう銭湯が多い一方、最近はブームもあり銭湯が注目されていますよね。
そうですね。サウナなどは健康的ですし一過性の人気では終わらないとも思う一方、ブームはいずれ去ります。最近はありがたいことに遠方から電車で来ていただくことも多い中で、私が一番大事にしているのは、いかに近隣の方に来ていただくかということ。例えば、近所の銭湯が廃業してしまい「一人勝ちだね」と言われたこともあります。でも、決してそんなことはありません。一時的に来ていただけても、結局はその内の10%のお客様が残ってくれればいいほうで、やはり皆さんの生活圏内でいかに立ち寄っていただけるかが大事だと思います。お客様の生活スタイルやニーズに合うよう、営業時間も11時~25時半までと、長めに設けています。
私は人見知りせず(笑)、地域のコミュニティや同業の集いなど、来るもの拒まずで横のつながりも大切にしています。といっても、以前は人見知りがコンプレックスでしたが、高校時代に克服しました。ボクシングでメンタルも強化されましたね。
――最後に今後の目標をお聞かせください。
より多くの方にお越しいただけるように、今後も古き良きものを残しつつ、新しいものを取り入れていきたいです。また、ゆくゆくは海外に進出して日本が誇るべき銭湯文化を広めたいと考えています。裸の付き合いや、おもてなしの心を伝えていきたいですね!
――地域から愛される理由は、清潔な施設だけでなく、お客さんを楽しませてくれる店主の気さくな精神にあるのだと感じました。今後も上野のオアシスとして健在し続けてください。心から応援しています!
■住所
〒110-0015 東京都台東区東上野5-4-17
■アクセス
銀座線「稲荷町」駅を出て、清洲橋通りを入谷方面に徒歩2分
JR「上野駅」入谷口を出て、浅草通りを浅草方面に徒歩7分
■営業時間:11:00~25:30
休業日:第3木曜日
■URL:http://www7.plala.or.jp/iiyudana/
vol.11 パンダの壁絵に癒される東上野のオアシス、寿湯
(2023.3.8)