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京都府を拠点に、「銭湯を日本から消さない」をモットーに、銭湯継業を手がけているゆとなみ社。この集団を率いるのが、銭湯活動家の湊三次郎氏だ。これまで、2015年5月、京都府の「サウナの梅湯」を皮切りに、滋賀県の「都湯」、「容輝湯」、京都府の「源湯」、大阪府の「みやの湯」、愛知県豊橋市の「人蔘湯」を継業し、現在6軒の廃業寸前の銭湯を復活させてきた。未経験から銭湯業界に飛び込み、銭湯継業の第一人者として活躍する湊氏にこれまでの歩みや現在の活動、そして業界に対する思いなど、じっくり話をうかがった。
 
 

京都の「サウナの梅湯」の継業を皮切りに、次々に継業

 
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ゆとなみ社のロゴ
――銭湯活動家の湊三次郎さんは、2015年5月、京都の「サウナの梅湯」を皮切りに、関西圏を中心に次々に銭湯を復活させています。京都府を拠点に「銭湯を日本から消さない」をモットーとする銭湯継業の専門集団、ゆとなみ社も立ち上げられて、これほど勢いのある湊さんが銭湯に傾倒されたのは、大学進学で京都に上京後、近所の銭湯に通い始めたのがきっかけなんですよね。
 
そうですね。あと、もともとあまり人が注目していないものが好きだったんです。今でこそサウナブームなどもあって人気が出てきていますが、当時、銭湯はまったく注目されていませんでした。あとは、さまざまな銭湯に訪れることで街ごとの特色を知ることができますし、そういう巡りがいのある部分も、銭湯を好きになった要因です。
 
――どんどん銭湯にハマっていかれたんですね。最初に京都の「サウナの梅湯」を継ぐきっかけはなんだったのでしょう。
 
大学を卒業してアパレル会社に就職したものの、もともとアイデアをすぐに仕事に活かしたいタイプだったこともあり、その会社の仕事をあまりおもしろいと感じなかったんです。それで、会社を辞めることが決まっていたタイミングで、アルバイトで番台をしたことのあった「サウナの梅湯」を経営する話をいただきました。
 
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サウナの梅湯のオリジナルタオル
突然そういうチャンスが巡ってきたので、「ど素人だけどやってやるか」という流れで継ぐことを決めました。ただ、設備の老朽化の問題や集客が少ないこともあったし、地域柄クセの強い客層の多いエリアだったので、そういった問題を社会経験もろくになかった状態から素人がすべて解決しなきゃいけないというのは、単純にしんどかったですね。でもやりながらいろいろなことを学べて、この時の経験が今の活動に活かされていると思います。
 
――ゆとなみ社さんについても詳しくお聞きしたいと思います。もともと会社を立ち上げられた経緯は何だったのでしょう? 
 
最初は個人で「サウナの梅湯」一軒を継業していたものの、次第に継業を請け負う軒数や、その活動に協力してくれる方の人数も増えていったからです。また、個人事業だと銀行関係や許認可などの名義も個人名になってしまい、この先いろいろな問題が出てくることが予想できたので、最近は法人化もしました。ゆとなみ社には、20代を中心に「銭湯を継ぎたい」という思いのある約30名のスタッフが集っていて、弊社が継業した直営店で働いてもらっています。銭湯経営の修業を兼ねて来てくれている子も多いので、早く独立して経営で困っている銭湯を立て直していってほしいですね。去年は、スタッフの一人が独立して、「都湯」を継業したところです。
 
――ゆとなみ社さんが継業した銭湯はとても客足が伸びている印象があります。何かこだわっている部分はあるのでしょうか。
 
すごく大きなことをしているわけではないんです。例えば基本の挨拶や、お客さんとの他愛もない会話などを大切にすることですね。他業種にも共通するような基本的な接客サービスを徹底することは心がけています。そういう些細に思えることでも、やるとやらないとではやっぱり違いますからね。
 
 

銭湯が希少な豊橋の「人蔘湯」も未来を見据えて継業

 
glay-s1top.jpg 人蔘湯の外観と浴室
人蔘湯の外観と浴室
――昨年4月に愛知県豊橋市にある人蔘湯を継業されたきっかけも教えてください。
 
もともと愛知県東部の東三河地域には温浴施設がとても少なく、将来的に銭湯が全滅する可能性が高いエリアでした。唯一、豊橋市内には2、3件残っていたものの、その一つである人蔘湯も2020年、設備の老朽化に伴い廃業したという話を聞きまして。たまたま弊社に豊橋出身のスタッフがいたこともあり、オーナーさんとお会いして話をしたことが継業することになったきっかけです。人蔘湯はもともと集客も多かったですし、引き継ぐことができればこの街に末長く銭湯を残していけると考えて改装計画を進めていき、去年の4月から無事に営業が再スタートしました。
 
――改装の際の費用はどうされたのでしょう?
 
クラウドファンディングを実施したほかは、自費で復旧しました。コスト削減のため、基本的に配管工事や浴槽などの修繕工事も自分たちで行いまして。番台とロビーを改装し、男湯にはドライサウナ、女湯には休憩スペースを設けるなど大幅なリニューアルをしました。施設の雰囲気が変わったことで、若いお客様もかなり増えてきましたね。
 
――工事も自らなさったんですね! これまで数々の銭湯を継業してきて、それぞれの施設に共通する改善点はありましたか?
 
設備の老朽具合など、物件によって条件はまったく異なりますね。人蔘湯の改装では、追加工事などで総額1200万円程度の費用がかかりました。一方で、初期投資100万円以内で復旧可能な銭湯もあるなど、お金のかけ方もさまざまです。ただ、番台形式からロビー形式に変えたり、若者が来やすいように若いスタッフを中心に雇用したり、SNSの活用やメディアからの取材も積極的に受けるなど、工夫して取り組んでいる活動や方向性は共通していますね。
 
 

自分で継業すればその銭湯は消えない

 
――銭湯が廃業する情報はどこから入ってくるのでしょう。
 
銭湯同士のつながりで入ってくる情報もあれば、もともと自分も銭湯が好きなので直接いろんな銭湯に出向いて、オーナーさんと話をして情報をキャッチすることも多いです。もちろん廃業するすべての銭湯を引き継げるとは限りませんが、今後も現実的な条件に見合えば、積極的に銭湯を立て直していきたいと考えています。
 
――それほど情熱を持って銭湯継業の第一人者として活躍されている方は、他にあまりいないと思います。その使命感はどこから来るのでしょうか?
 
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ゆとなみ社 代表取締役・銭湯活動家 湊三次郎氏
「自分が死ぬまで銭湯の風呂に入りたい」という思いです。これからもどんどん廃業していく銭湯は増えていきます。でも自分で継業すればその銭湯は消えないので、それが最終的なモチベーションですね。ですから、今後はもっとプレーヤーが増えてほしいなと思っています。最近は銭湯好きな方が増えてブームになって盛り上がっていますし、銭湯通いは一生続けられる趣味だと思うので、利用者の定着はまだまだ続くはず。ただ、銭湯の経営者が増えなければ、この先銭湯が減っていくのは確実だと思います。銭湯の利用者さんには人気店だけでなく、ぜひいろいろな銭湯に行ってそれぞれの魅力を知ってほしいと思いますね。
 
――最後に今後の目標もお聞かせください。
 
今年の目標は、ゆとなみ社から話題になるようなインパクトのある直営店を、都内に進出させることです。出張社員として北区の「十條湯」の運営を担っている弟の研雄に東エリアは任せているので、兄弟でも協力しながら今後もどんどん銭湯業界を盛り上げていくつもりです!
 
 
(取材:2022年3月)
 
 
株式会社ゆとなみ社
URL:https://youkiyu.stores.jp
 
復活する銭湯
vol.5 銭湯継業の専門集団ゆとなみ社を率いる、湊三次郎氏
(2022.3.30)

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