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JR総武線平井駅南口より徒歩6分の場所に佇む吉野湯は、大正12年から代々受け継がれてきた歴史ある銭湯だ。2020年9月7日、デザイナーズ銭湯を手がける今井健太郎氏によって設計され、“レトロポップ”をコンセプトにリニューアルオープンを果たした。古き良き下町情緒が残されたモダンな施設内では、最近の銭湯では希少となった“坪庭”を眺めながら四季を感じられるのも醍醐味の一つ。インタビューでは、そんな近代的かつ昔懐かしい銭湯を運営する番頭・岡部洸樹氏に、吉野湯の歴史を辿りながら、現在に至るまでのお話をじっくりとうかがった。
 
 

2020年今井健太郎氏の設計でリニューアルオープン

 
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――江戸川区平井の吉野湯さんは、2020年9月にリニューアルオープンされたばかりとあって清潔感にあふれ、白色の外観が目を引きます。施設内のいたるところに癒しポイントが散りばめられていて、モダンでかわいらしい雰囲気が漂っていますよね。
 
ありがとうございます。設計を依頼した今井健太郎さんは、木材を活かした施工をされることが多く、吉野湯の雰囲気にぴったりだと思ってお願いしたんです。古き良き下町銭湯の良さを残しつつ、モダンで“レトロポップ”なデザインをコンセプトに、お客様にゆったりくつろいでいただける空間づくりを大切にした設計にしていただきました。リニューアルに際し、新たに高濃度炭酸泉、電気風呂、天然に色づいた地下水を楽しめる水風呂も導入したんですよ。
 
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モダンにリニューアルされた館内
――浴場の床には女湯はホワイト、男湯にはブルーを基調とした花柄のタイルが敷かれていて、従来の銭湯のイメージとは一線を画した、爽やかで明るい印象に驚きました!
 
実は、浴槽ごとに葉っぱ柄や三角形が組み合わさったものなどデザインが異なり、お湯の温度が熱くなるごとに青色が濃くグラデーションになるような工夫も施されていまして。こちらはリニューアル前からお世話になっているタイル職人さんに手がけていただきました。浴場の壁は、あえて凹凸にして光の反射でキラキラ光るように施工されています。雄大なペンキ絵の富士は、銭湯絵師の中島盛夫さんが描いたものです。
 
――細部までデザインのこだわりを感じますね。
 
 

四季のうつろいが感じられる吉野湯の坪庭

 
――やはり吉野湯さんの一番の特徴といえば、ロビーから見えるこの坪庭と池ですよね。
 
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夏の坪庭
この坪庭は創業時からあるもので、当初は予定していなかったものの、新たに株式会社颯水月の職人さんにプロデュースしていただいたんです。もとは女湯側にあった坪庭ですが、今井さんの設計でロビーにつなげていただき、男女ともにくつろげる空間になりました。湯上りに、店頭で販売しているビールや駄菓子を縁側の椅子でのんびり楽しんでいただける、皆様の憩いの場になっています。時期によってはサルスベリのピンクの花や椿の花が咲いてとてもきれいなんですよ。あ、ちょうどメジロが2羽、椿の蜜を吸いに飛んで来ましたね(笑)。
 
――かわいい! 坪庭を眺めているだけで四季のうつろいを感じられて、一年中訪れたくなりそうです。
 
夏は提灯を取り付けたり、クリスマスにはツリーを飾ったり、ハロウィンに合わせて飾り付けするなど、季節ごとの装飾にも力を入れています。池では地下水を利用して、金魚も飼育していますよ。
 
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女湯・涼み処の金魚の装飾
――脱衣所の洗面器や女湯の涼み処、販売されているオリジナルグッズのTシャツにも金魚が描かれていましたし、金魚は吉野湯さんの一つのシンボル的存在のように思います。ところで、そんな吉野湯さんの歴史や、岡部さんが銭湯の運営に携わるようになった経緯もぜひ教えてくださいますか。
 
吉野湯は大正12年、初代の吉次郎が創業しました。私はもともとほかでアルバイトに励んでいて、継ぐつもりはなかったんです。ただ、長男ということもあって、最初はお風呂掃除などを手伝いながら、気付いたら後継ぎになっていました(笑)。運営に携わるようになってからは、かれこれ4、5年になります。3代目の父が早くに他界してから、吉野湯は母をはじめ、父の兄弟や親戚、祖母が助け合って運営してきました。それで20年、30年先を見据えて自分も経営に参画することにしたんです。現在は、主に私と母で経営しています。
 
 

高齢者の安全に配慮した設備も充実

 
――吉野湯さんは、ご家族やご親族で協力しあって受け継がれて来たのですね。
 
はい。あまり手を広げすぎず、家族だけで運営できるような規模で営んできました。ただ、現在は自分一人で浴場の掃除なども担っているので、ゆくゆくはアルバイトさんも雇えたらと考えています。
 
――お一人でとなると、かなりハードワークですよね。
 
中島盛夫氏が描いた富士のペンキ絵
中島盛夫氏が描いた富士のペンキ絵
天然に色づいた地下水の水風呂
天然に色づいた地下水の水風呂
営業日は毎朝8時から3時間ほど掃除の時間に費やしています。女湯のタイルは汚れの目立つ白色なので、特に力を入れていますね(笑)。昔は閉店後の夜間に風呂掃除をしていましたが、翌日に太陽光のもとであらためて見ると、結構汚れていることもあったんです。それに、夜だと掃除の際の機械音でご近所迷惑になる可能性もありますし、何より朝に行ったほうが健康的にも良いですからね。昔は「濡れているうちに掃除しないと」という風潮もありましたが、最近では洗剤やタイルも汚れが落ちやすいように進化しています。なので、夜は水気を取るなど最低限の掃除のみ済ますようにしていますよ。
 
――そこまで徹底して掃除されているとなると、お客さんも気持ちがいいですよ。実際の客層はいかがでしょう。
 
最近は若い方が増えて、中には江東区や墨田区などから車でお越しくださる方もいます。子連れのファミリー層のお客様も多いですね。改装前からの常連さんもいらっしゃるので、お年寄りのことを考えて休憩できる椅子を多く設置したり、浴場では手すりを備え付けたり、風呂椅子は座面がカーブになっている前滑りしにくい安定感のある座り心地のものを置いています。
 
――行き届いた配慮があるからこそ、皆さんが安心して訪れることができるのですね。
 
 

下町ならではの親しみやすさ、笑顔を大事に

 
――ネット上の口コミでは、吉野湯さんの施設の満足度の高さはもちろん、「接客が素晴らしい!」という声も多数上がっていました。何か秘訣はあるのでしょうか。
 
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これといって意識していることはありませんが、下町ならではの親しみやすさや、笑顔とあいさつ、またお客様とのコミュニケーションを大事にしています。お子様には風船をあげることもあります(笑)。そうしている中で、お客様に感謝された時や、「いつもきれいにしているね」と褒められた時はとてもやりがいを感じますね。また、Twitterではいつも店のオープン時にツイートしていて、投稿する施設内の写真もきれいに映るようにこだわっていまして。そういったSNSでの反響をいただけたり、ツイートを見て来てくださったりすると嬉しいです。
 
――最後に、今後の展望も教えてください。
 
コロナが落ち着いたら、より多くの方にお越しいただき、銭湯業界全体がさらに盛り上がっていったら嬉しいです。単にブームで終わるのではなく、今来てくれている若い方も飽きずに来てくれて、世代を超えて末長く愛される銭湯になっていきたいですね。
 
――吉野湯さんは雰囲気が明るくて癒されますし、ある意味パワースポットのように、人を元気にしてくれるような場所だと思いました。これからも優しさ溢れる岡部さんの爽やかな接客で、お客さんから愛される存在でいてください。心から応援しています!
 
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番頭・岡部洸樹氏
 
 
(取材:2022年2月)
 
 
吉野湯
■住所
〒132-0035 江戸川区平井4-23-2
 
■アクセス
総武線平井駅下車、徒歩6分
 
■営業時間
15:00~24:00
定休日:月曜日
 
復活する銭湯
vol.4下町風情漂うレトロポップな銭湯・吉野湯
(2022.2.25)

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