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東京都杉並区高円寺駅北口からおよそ徒歩5分の場所にある昭和8年創業の老舗銭湯小杉湯は、スタッフや顧客のアイデアを柔軟に取り入れて多彩なイベントやコラボグッズを展開する、活気ある銭湯だ。3代目平松佑介氏とともにタッグを組んでいるのが、株式会社SUNDAY FUNDAY代表取締役および株式会社小杉湯のCSO(チーフストーリーテラー)を務める菅原理之氏。外資系の広告代理店などで培った豊富なスキルを活かし、既存のルールにとらわれず、理想を追求する姿勢で小杉湯のバックオフィスを支えている。インタビューではその取り組みや、転職した経緯を詳しくうかがった。
 
 

自然のものを再利用する「もったいない風呂」

 
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――小杉湯ではさまざまな企業やクリエイターさんとコラボをしてグッズや本の販売コーナーを展開したり、イベントを開いたり、また今年は現在会員制のシェアスペース「小杉湯となり」もオープンしたりと、トピックスが盛りだくさんですよね! 浴場では名物・ミルク風呂のほか、月に何度も入れ替わる豊富な種類のお風呂を楽しめるのも魅力的です。
 
菅原 僕らはこの変わり湯のことを「もったいない風呂」と呼んでいて、普通は捨ててしまうような酒造さんから出たお酒の搾りかすや、高円寺のコーヒー屋さんから抽出後のコーヒーの粉などをいただき入浴剤としてお風呂に入れることで、自然のものを再利用しています。「ぶんこのこんぶ湯」の日は地方で採れた昆布をお湯に入れるのが恒例で、番台で地方のこんぶの石鹸や入浴セットを販売することで、生産者さんの応援にもつながるような仕組みをつくっているんです。
 
――お風呂で体感した関連商品が売っていれば、お客さんの手も自然と伸びそうです。
 
 

外資系の広告代理店から小杉湯のCSOに転身

 
青山ブックセンターとコラボし、ギャラリーコーナーに本売り場を展開
青山ブックセンターとコラボし、ギャラリーに本売り場を展開
――ところで菅原さんは、小杉湯のCSOに転身する前はまったく異なる業界にいらっしゃったとか?
 
菅原 学生時代はWeb動画制作事業を行う「コミュニティTV」というNPO法人での起業や、ITのコンサルタント会社を経て外資系の広告代理店に広告代理店で10年以上勤めてチームづくりに励むなど、もともと銭湯業界とは縁もゆかりもなかったんです(笑)。
 
――そこからなぜ小杉湯さんに?
 
菅原 前職の部下からサウナを勧められたのがきっかけです。ある時小杉湯で、従業員の子の「フィンランドの公衆サウナと日本の公衆浴場が今、同じ境遇にあることや文化的な背景が似ていることを広められるようなイベントを開きたい」という主旨のプレゼンテーションを聞く機会があり、自分も携わることになりまして。そこで3代目の平松と出会い、今後も二人で一緒にできたらという話になり、自分の経験も生かして小杉湯の事業計画づくりやバックオフィスの手伝いをボランティアではじめました。そんな中、銭湯に来るお客様から直接「ありがとう」と言われることや地域のつながりを感じるこの職業にとても魅力を感じたんです。それで、ある程度、暮らせるくらいには自分にも給料を払えそうだと見込みがついた時、本格的にコミットしたいと平松に相談すると、快く引き受けてくれたんです。そこで2019年に前職を辞めて独立。同時に、正式に小杉湯にもジョインしました。
 
――なるほど。バックオフィスをしっかりされているからか、近年、小杉湯さんの魅力がどんどんパワーアップしているように感じます。
 
菅原 ありがとうございます。小杉湯が法人化する際、平松と「小杉湯は何のために存続するのか」を話し合いました。そこで出た結論は「100年続く銭湯を目指す」ということでした。そのためには、会社の基盤をちゃんと構築していくのが大事だということになったんです。今年、小杉湯の建物が国登録有形文化財に登録されたこともあって、この建物で続けることが大事だと考えています。
 
 

コロナ禍が後押しになって始めたこと

 
――昨年はコロナ禍の影響で銭湯業界への打撃も大きかったと思います。
 
浴場内に描かれた大きな富士山の絵
浴場内に描かれた大きな富士山の絵
菅原 大変ではありましたが、新しいシステム導入のきっかけにつながったことも多くありました。お客様から感染リスクの関係で「現金を触るのが不安」という声があり、キャッシュレスのairレジを導入したんです。これにより、物販の商品を気軽に購入していただける機会が増えるメリットもありました。また、一時は店内の混み具合の確認の電話が殺到していたため、このレジアプリを活用して、お客様が混雑具合を把握できるように時間帯別に、具体的な数字を伏せたレジの売り上げをグラフで示す画面をTwitterで発信するようにしたんです。その結果、問い合わせがかなり減りつつも、安心してお客様が足を運べる環境づくりができました。他にも、コロナで銭湯に来られない方のために、業務用だったミルク風呂の入浴剤を一般の方にも自宅で楽しんでもらえるよう株式会社ランウェイさんとコラボし商品化しました。チェーンストアのロフトさんなどに置いていただいていますよ。
 
 

駅伝のように、次の代にタスキをつないでいく

 
――菅原さんは銭湯事業と並行して株式会社SUNDAY FUNDAYも経営されているとか。
 
菅原 ええ。私は既存のルールにとらわれない生き方を追求することに興味があるので、新しい暮らし方をプロトタイプしていく社会を実現できるような会社にしていくことをテーマにしています。事業の一つに中にトラックの荷台にサウナを設置した「サウナトラック」があります。これもオフグリッドの取り組みの一つで、都市のインフラから切り離された時に、生活に起こる現象に興味があって始めました。
 
――アイデアを実現されているのがすごいです。
 
菅原 行動しないで後悔するより、行動して後悔したほうがいいと考えているので(笑)。廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みであるサーキュラーエコノミーやローカルの活性化など、気になる分野にどんどん挑戦していくつもりです。自分が東京出身だからこそ、地方には魅力的な地域がたくさんあると感じています。その魅力をうまく事業につなげて発信することで、社会課題の解決にも貢献していきたいです。例えば地方の生産者さんを応援できるような、普段捨てられるものに価値を与えて経済を回していける仕組みづくりなどですね。
 
――小杉湯さんの「もったいない風呂」にも通じていますよね! 菅原さんにとって銭湯の魅力はなんですか?
 
菅原 頑張りすぎないことの大事さを思い出させてくれるところですね(笑)。私も前職ではパツパツに頑張ってきて、それで伸びることの大切さも実感しました。でもそれ以上に、8割くらいの力で頑張ることで、そこに飛び込んで来る新しいことを掴む大事さもあります。人は頑張りすぎると続きません。銭湯文化を残す意味でも一時的な頑張りではなく、平松の言葉で言う“駅伝”のようなイメージで、次の代にタスキをつないでいくことが大事だと思っています。
 
――今後の目標もぜひ教えてください!
 
スタッフ紹介の新聞「わたしの湯」は湯船に浸かりながら楽しめる
スタッフ紹介の新聞「わたしの湯」は湯船に浸かりながら楽しめる
菅原 挑戦する意欲がある若い子のフックアップをしていきたいです。小杉湯では “銭湯”という枠にとらわれずいろいろなことを取り入れていまして。その一環としてスタッフがスタッフにインタビューをして制作した、スタッフ紹介の新聞「わたしの湯」も浴場の壁に貼っています。イベントは、お客様からの持ち込み企画も多いので、さらにいろんなアイデアを実現できる場所になるよう、今後もさらに小杉湯の土台を固めたいですね。そうすることで、銭湯業界全体を盛り上げることにつなげていきたいと思っています! 
 
――小杉湯さんは古き良き文化を継承しつつ、斬新な取り組みで、銭湯文化の可能性を広げる先駆者的な存在だと感じました。豊富なスキルと実行力を兼ね備えて活躍している菅原さんは、小杉湯さんだけでなく銭湯業界を盛り上げるキーマンのような方ですね。今後のご活躍も楽しみです!

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株式会社SUNDAY FUNDAY代表取締役・株式会社小杉湯のCSO菅原理之氏
 
 
(取材:2021年11月)
 
 
■住所
〒166-0002 杉並区高円寺北3-32-2
 
■アクセス
JR高円寺駅(北口)より徒歩約5分
 
■営業時間
平日 : 15:30~1:45
土・日曜 : 8:00~1:45 最終受付1:30
定休日 : 木曜日

■URL  https://kosugiyu.co.jp
 
復活する銭湯
vol.2小杉湯のバックオフィスを支えアイデアを実現する”キーマン”
(2021.12.22)

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