自然のものを再利用する「もったいない風呂」
菅原 僕らはこの変わり湯のことを「もったいない風呂」と呼んでいて、普通は捨ててしまうような酒造さんから出たお酒の搾りかすや、高円寺のコーヒー屋さんから抽出後のコーヒーの粉などをいただき入浴剤としてお風呂に入れることで、自然のものを再利用しています。「ぶんこのこんぶ湯」の日は地方で採れた昆布をお湯に入れるのが恒例で、番台で地方のこんぶの石鹸や入浴セットを販売することで、生産者さんの応援にもつながるような仕組みをつくっているんです。
――お風呂で体感した関連商品が売っていれば、お客さんの手も自然と伸びそうです。
外資系の広告代理店から小杉湯のCSOに転身
菅原 学生時代はWeb動画制作事業を行う「コミュニティTV」というNPO法人での起業や、ITのコンサルタント会社を経て外資系の広告代理店に広告代理店で10年以上勤めてチームづくりに励むなど、もともと銭湯業界とは縁もゆかりもなかったんです(笑)。
――そこからなぜ小杉湯さんに?
菅原 前職の部下からサウナを勧められたのがきっかけです。ある時小杉湯で、従業員の子の「フィンランドの公衆サウナと日本の公衆浴場が今、同じ境遇にあることや文化的な背景が似ていることを広められるようなイベントを開きたい」という主旨のプレゼンテーションを聞く機会があり、自分も携わることになりまして。そこで3代目の平松と出会い、今後も二人で一緒にできたらという話になり、自分の経験も生かして小杉湯の事業計画づくりやバックオフィスの手伝いをボランティアではじめました。そんな中、銭湯に来るお客様から直接「ありがとう」と言われることや地域のつながりを感じるこの職業にとても魅力を感じたんです。それで、ある程度、暮らせるくらいには自分にも給料を払えそうだと見込みがついた時、本格的にコミットしたいと平松に相談すると、快く引き受けてくれたんです。そこで2019年に前職を辞めて独立。同時に、正式に小杉湯にもジョインしました。
――なるほど。バックオフィスをしっかりされているからか、近年、小杉湯さんの魅力がどんどんパワーアップしているように感じます。
菅原 ありがとうございます。小杉湯が法人化する際、平松と「小杉湯は何のために存続するのか」を話し合いました。そこで出た結論は「100年続く銭湯を目指す」ということでした。そのためには、会社の基盤をちゃんと構築していくのが大事だということになったんです。今年、小杉湯の建物が国登録有形文化財に登録されたこともあって、この建物で続けることが大事だと考えています。
コロナ禍が後押しになって始めたこと
駅伝のように、次の代にタスキをつないでいく
菅原 ええ。私は既存のルールにとらわれない生き方を追求することに興味があるので、新しい暮らし方をプロトタイプしていく社会を実現できるような会社にしていくことをテーマにしています。事業の一つに中にトラックの荷台にサウナを設置した「サウナトラック」があります。これもオフグリッドの取り組みの一つで、都市のインフラから切り離された時に、生活に起こる現象に興味があって始めました。
――アイデアを実現されているのがすごいです。
菅原 行動しないで後悔するより、行動して後悔したほうがいいと考えているので(笑)。廃棄物を出すことなく資源を循環させる経済の仕組みであるサーキュラーエコノミーやローカルの活性化など、気になる分野にどんどん挑戦していくつもりです。自分が東京出身だからこそ、地方には魅力的な地域がたくさんあると感じています。その魅力をうまく事業につなげて発信することで、社会課題の解決にも貢献していきたいです。例えば地方の生産者さんを応援できるような、普段捨てられるものに価値を与えて経済を回していける仕組みづくりなどですね。
――小杉湯さんの「もったいない風呂」にも通じていますよね! 菅原さんにとって銭湯の魅力はなんですか?
菅原 頑張りすぎないことの大事さを思い出させてくれるところですね(笑)。私も前職ではパツパツに頑張ってきて、それで伸びることの大切さも実感しました。でもそれ以上に、8割くらいの力で頑張ることで、そこに飛び込んで来る新しいことを掴む大事さもあります。人は頑張りすぎると続きません。銭湯文化を残す意味でも一時的な頑張りではなく、平松の言葉で言う“駅伝”のようなイメージで、次の代にタスキをつないでいくことが大事だと思っています。
――今後の目標もぜひ教えてください!
――小杉湯さんは古き良き文化を継承しつつ、斬新な取り組みで、銭湯文化の可能性を広げる先駆者的な存在だと感じました。豊富なスキルと実行力を兼ね備えて活躍している菅原さんは、小杉湯さんだけでなく銭湯業界を盛り上げるキーマンのような方ですね。今後のご活躍も楽しみです!
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vol.2小杉湯のバックオフィスを支えアイデアを実現する”キーマン”
(2021.12.22)