クラウドファンディングで1034名から支援を受ける
新保(朋) はい。もともと夫が、黄金湯から徒歩5分の場所にある大黒湯を経営する家庭の次男だったんです。私たちが結婚するタイミングで継がなければいけない状況になり、2012年に大黒湯の経営を受け継ぎました。おかげさまで次第にお客様が増え、もう一店舗やりたいと考えていた矢先の2018年、ご縁のあった黄金湯も引き継ぐことになったんです。
――黄金湯さんとはどのようなご縁が?
新保(卓) 創業以来、黄金湯はいろいろな方が代替わりしてきて、先代がご高齢ということもあって今回私たちが受け継いだという形ですね。
新保(朋) ただ、2020年にコロナ禍の影響で改装工事の延期、来客数の減少はもちろん、必要な資材なども集まらない状況で、予算が大幅にオーバーしてしまい、「どうにかしなければ」と焦る中、やるしかないという思いでクラウドファンディングで資金を募ることに決めたんです。するとありがたいことに、1034名もの方からご支援を受け、658万円の資金が集まりました。
――多くの方から愛されていることが伝わって来ます。下駄箱の鍵の木札の裏には、リターンとして支援者のお名前を彫られたそうですね。
新保(朋) 黄金湯には35年以上使い続けている下駄箱があります。黄金湯のレトロな雰囲気を残したいと、私の強い希望で改装後も残してもらったんです。私たちにとってリニューアルは、この先30年以上は営業するという覚悟のもとの挑戦だったので、支援してくれた方にも黄金湯を一緒につくり上げて、残したんだと思っていただけたら嬉しいです。
レコードを通じて世代を超えた交流の場に
――まさに奇跡的な異色のコラボですよね。店内の演出で特に感激したのはエントランスのDJブースから流れているレコードの音楽です。浴場まで響いてくる昭和の古き良き音楽が、絶妙に入浴中の気持ち良さとマッチしていて、その相性の良さに驚きました。
新保(卓) 実はレコードは改装前から設置していたんです。レコード好きなスタッフの希望で試しに流してみたら思いのほか好評でしてね。次第にご高齢のお客様が家で眠っていたレコードを持ち寄ってくれるようになり、その集まったレコードのフリマイベント「レコード市」も、先日第5回目を開催しました。
新保(朋) 改装前、レコードを通じてお年寄りと若者が楽しげに会話をしているシーンを目にして、素敵だなぁと思いました。「この当時はさ〜」と昔話が始まるなど、気付けば世代を超えた交流場になっていたんです。それで、より本格的にしようとDJブースを設置しました。
――その隣の番台バーでは、黄金湯オリジナルクラフトビールが楽しめるとか。
新保(卓) 私がビール好きなので、湯上がりに最高の一杯を楽しんでほしいという思いで設置しました(笑)。こちらも皆さんから大好評ですよ!
――SAUNACHELIN(サウナシュラン)2020では、「いま行くべき全国のサウナの上位11施設」の中で銭湯初の6位に選出されていましたよね。
地元民を一番大事に、アップデートをし続ける
新保(朋) ありがとうございます。ただ、改装前は雰囲気が変わることで、地域の方に受け入れてもらえるか不安で、とても悩みました。何度も打ち合わせを重ねて、「振り切った気持ちで行かないと!」と、思い切ってチャレンジしたんです。私たちは昔から一番に地域の方を大事に思っていて、その思いはこれまで通りまったく変わっていません。
新保(卓) 銭湯経営は、ものすごく儲かるビジネスかといったら、そうでもないんです(笑)。私は収益より人との関わりを大切にしています。常連さんと何気ない楽しい会話を交わす瞬間や、皆さんの日常にちょっとした贅沢な時間を提供できることにやりがいを感じています。
新保(朋) 私も、皆さんから第二の家のように思っていただき、ご家族で来られるお子さんの成長を見られることが嬉しいです。幼い頃から通ってくれていた子が大学生になって、初バイトに黄金湯で働いてくれたこともあって。そうやって世代を超えて、未来につながっていく瞬間が銭湯にはあるんです。
――今後の展望もぜひ教えてください。
新保(卓) 今は高齢化が進み、多くの銭湯が潰れていってしまっているので、少しでも銭湯文化を残すために貢献したいですね。そんな思いで、今後新たにスカイツリー付近にある、さくら湯の経営も担うことが決まりました。
新保(朋) 黄金湯の2階ではドミトリータイプの和室・洋室の宿泊サービスを始めたばかりで、ラウンジではカレーや私が考案したロウリュコーヒーの提供もできるよう準備を進めています。ほかにも、イベントや個展が行える場にもしていく予定ですよ。また、銭湯の新たな活用法として、情報発信の場として利用できないかと考えています。
新保(卓) 次世代に銭湯文化をつないでもらえるきっかけになるよう、夫婦でこれからも走り続けたいと思います!
――地元民の若者からお年寄までが足しげく通ってくるのは、斬新なアイデアと新しさの中にも地域の人を一番に大事に思い、新保夫妻の深い銭湯愛があるからだと思います。これからもお二人の力で、銭湯文化をさらに盛り上げていってください!
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平日・日曜・祝日 : 10:00-24:30
土曜日 : 15:00~24:30
定休日 : 第二・第四月曜日
※水曜のみ男女入れ替え日
※タトゥーのある人も入浴可
■URL https://koganeyu.com
vol.1次世代に銭湯文化をつなぐ黄金湯の夫婦
(2021.11.24)