荒川線ストーリーズは、電車を借り切り、都電荒川線・東池袋四丁目駅から三ノ輪橋駅の間、およそ45分間の乗車中に行われる演劇です。公演の準備時間は、出演者が乗車する早稲田駅から、観客が乗車する東池袋四丁目駅までのおよそ10分間。観客が乗車すると同時に演劇が始まります! 観客は電車内の指定された座席に座り、目の前で行われる舞台を楽しむことができます。
座席に座ってすぐに聞こえる「ちょっと、なに見てるのよ!」という怒声に観客はきっと驚くはずです。怒声をあげたのは、席に座っている桜という女性です。桜をじろじろと見ていたのは、目の前に立つ、雪と名乗る女性。雪は桜のことをもとから知っていたようで、桜を終点の三ノ輪橋まで連れて行くために、「ウルトラスーパーロイヤルプラチナパス」という電車の走行に自由に指示を出せるチケットを使い、終点まで乗客を電車から降ろさないように車掌に言います。
突如として始まる、おかしな電車の旅。周りの乗客を巻き込みながら、徐々に桜と雪の因縁が明らかになっていきます。終点の三ノ輪橋に着くとき、桜と雪の関係はどうなっているのか・・・。2人や乗客のやりとりを見ているうちに、観客は夢を諦めない大切さに気付けるはずです。
そんな、電車全体を舞台にした荒川線ストーリーズ。どのようにしてこの舞台が生まれたのか、作・演出を手がける劇団・CAPTAIN CHIMPANZEEの藤原思さんと、出演者の池上映子さん、宮下真さんにお話をうかがいました。
限りなくリアルなセットで行う舞台を

藤原 そうですね。東京都交通局に許可が必要だったのですが、最初に提出した企画内容では許可が下りず、想定していた内容と変わった部分も多いです。ただ、走行中の電車内で芝居をするというのは、前々から挑戦したいと考えていまして。ずっとあたためてきたものだったんですよ。
――どのような経緯があり、電車内での公演を考えるようになったのでしょうか。
藤原 私共のような小さな劇団は、舞台セットにかけられる資金も人材も多くはありません。試行錯誤を繰り返し、良いセットをつくれないかと悩んでいたときに、走行している電車で行われている演劇を観まして。本物の電車の中で、電車内の物語を演じられるなら、それ以上リアルなものはないと衝撃を受けました。さらに、外の風景も芝居に盛り込むことができれば、街全体を舞台にすることができる。それを実現したいと考えたのです。
電車だからこそ起こるハプニングも

宮下 正直、なんで電車? と思いましたね(笑)。事前に、こういう構想をしている、と聞いていたならすぐに納得できますが、突然言われたので。でも、うちの劇団は突然珍しい演出を聞かされることが多いんですよ。稽古が始まるときに、人形劇をしますとか、影絵を使いますって教えられる。毎回、なんで? と思いますが、実際にやってみると効果的な演出で、納得させられますよ。
――いろんな珍しい演出の中でも、電車の中という状況では、予想できないハプニングも起こりそうです。
池上 電車のダイヤが乱れ、予定よりかなり長い時間、アドリブで演技をしなければいけないことがありましたね。荒川線ストーリーズの中で一番大事と言っていいシーンは、ある場所を通過するときでないといけないのですが、電車が止まってなかなか着かない。その場所に着くまで、宮下くんが精一杯間をつないでくれました。
舞台に馴染みのない人にこそ足を運んでほしい
取材協力
CAPTAIN CHIMPANZEE
https://twitter.com/capchim
池上映子
https://twitter.com/ikeike_Eeko
宮下真
https://twitter.com/ShinMymt