B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

たまには実用書的な本も・・・ということで今回はこちら。経営コンサルタントの小宮一慶氏による人気シリーズ、『ビジネスマンのための「○○力」養成講座』の最新刊です。このシリーズ、キャッチによると累計発行部数が130万部を超えるとやら。いやはやなんとも、このご時世に、羨ましい限りです。
 
この本は先に目次を紹介したほうが良さそう。下記のようになっています。
 
はじめに
第1章 リーダーに求められる10の力
1:決断力/2:情報収集力/3:観察力/4:現場力/5:実行力/6:目標設定力/7:教える力・伝える力/8:褒める力・叱る力/9:人間観・人生哲学/10:素直さ
第2章 リーダーの8つの勘違い
1:人は、肩書きで動くと思っている/2:部下に慕われていると思い込む/3:自分は仕事ができると思い込む/4:和気あいあいの組織を目指す/5:公私混同をしても問題ないと思い込む/6:守りに入る/7:自分を偉い、賢い、と思い込む/8:退職後も特別扱いされるのが当然だと思っている
第3章リーダーシップの名言たち
1:老子/2:ナポレオン・ヒル/3:アッシジの聖フランシスコ/4:稲盛和夫/5:一倉定/6:徳川家康/7:孔子
第4章 「リーダー力」を身につけるための10の習慣
1:小さなことでも決断する/2:新聞を一面トップ記事から読む/3:部下の話にメモをとる/4:肩書きにこだわらず人に会う。ちやほやされない場所に行く/5:本を読む。話題の新刊を読む。古典を読む/6:歩く/7:親孝行する/8:ニコニコする/9:毎日、反省する時間をもつ/10:夢を語る。理念を語る
あとがき
 
各節ともこの下に項目分けと短い紹介が付きますが、字数が膨らむので省略。一瞥してわかるように、普段から啓発系のビジネス書に親しんでいる読者には見慣れた内容です。書き方のスタイルも、もう少し論理的に深まりそうなところで具体例の紹介に移るのでテンポよく読めます(概念の深掘りを味わいたい人には物足りないでしょうが)。なるほど帯に示す通り「携書」であり、折にふれ手元でおさらいするのに最適な、誰もが参考になる実用の書なのです。
 
そんな本だからこそ、著者の歴史認識が前に出た箇所は強い主張を感じました。例えば「はじめに」には、90年代初頭から本質的にGDPが伸びていない国は日本だけであると指摘しつつ、2つの理由が主張されています。
 
・90年代初頭は戦前の教育をきちんと受けた人たちが政財官界から引退していった時期と一致する。
・現在のリーダーたちに「リーダー力」が根本的に欠如しているのはアメリカの戦後教育でリーダーシップや生き方の教育がなくなってしまったから。
 
また第1章「リーダーに求められる10の力」の6、「目標設定力」では、「外部環境要因で売上げが上がっても褒賞しない」としたうえで、「朝鮮戦争や冷戦という「外部環境」によって高度成長してきた日本については、どうなのでしょう。いまも比較的景気はいいですが、米国や欧州の経済が比較的安定し、さらには訪日客の消費が日本経済を下支えしている面が大きい」(p87)と戒めます。さらに第2章「リーダーの8つの勘違い」の8、「退職後も特別扱いされるのが当然だと思っている」では、大企業や銀行などの元社長や元頭取は終身秘書と運転手が賄われ、そこまで出世しなかった人にはOB談話室があてがわれ、「それもかなわないレベル」だった人は電車やコンビニで他の客や店員にキレる、と指摘します。
 
穏やかな内容の裏にひそむ、強烈な焦りと怒り。――どうやらこれが、本書のもう1つの、少なくとも書物のエネルギーに当てられる読書をしたい人なら感受すべき、著者が伝えたい思いのようです。
 
「わたしが東芝の社長をぼろくそにけなすのは、もちろん、個人的怨みがあるからではありません。日本を代表するような会社が不正を行うことは、まともに働いている大多数のビジネスマンに多大な迷惑をかけるだけでなく、日本企業や日本経済への信認を失わせるからです。」
「いずれにせよ、トップの考え方が成功からほど遠いものだったということです。「三日で百二十億円の利益を出せ」といったことがトップから事業責任者に言われていたというのですから(私が事業責任者の立場だったら「あなたこそ頑張ってください」と言ってそんなバカな社長を残して席を立ってしまいますが、そんなことは部下の方は言えませんよね)。」
(両引用とも「はじめに」p15より)
 
ここにもかなりの怒りがあります。そしてこの怒りは、歴史認識とあいまって、アメリカの占領政策にやられたままの日本の現状への憂いにつながっていると思います。そのあたりの著者の内面まで理解したければ、例えば矢部宏治氏の一連の著作が参考になるでしょう(以前に小欄でも『日本はなぜ、「基地」と「原発」を止められないのか』を取り上げました)。
 
と、ここまで読み解いたあとで、2つの点に注意したいと思いました。
 
1つは、第3章で著者の解説を聞きながらリーダーシップの名言に感動しても、自分を変えるほどの力にはならないということです。著者は原典を読んだ感動をもとに解説しているので、本当に自分を変えるほどの感動が欲しければ、著者同様に原典を読む必要がある。手間をかけずに本物の効果を得たいところではありますが、間接キスは本当のキスじゃないですからね。
 
もう1つは、リーダーの力を過信しすぎないこと。これは「リーダーさえしっかりしていれば大丈夫ということはありえない。メンバー全員がリーダーシップを持っているべきだ」という意味もありますが、そもそもリーダーシップやリーダー力に過度な幻想を抱くべきではないという意味です。
 
リーダーに任じられるのは晴れがましいものです。リーダーを目指すことで成長にもつながります。でも、ページ138にある通り、「リーダーなんて責任と権限以外に何ものでもない存在」です。決断力のないリーダーが一番困る、という著者の指摘に倣うなら、リーダーになること・リーダーであることが自己目的化しているリーダーくらい迷惑なものはない。――本書を手に取る人が一番戒めるべきことかもしれません。
 
(ライター 筒井秀礼)
 『ビジネスマンのための「リーダー力」養成講座 部下はリーダーのここを見ている』
著者 小宮一慶
ディスカヴァー・トゥエンティワン
2017/10/15 発行
ISBN 9784799321829
assocbutt_or_amz._V371070157_.png
価格 本体1000円
 
 
(2017.11.15)
 
 
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事