B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

ブロック玩具の硬と軟

 
glay-s1top.jpg
Wellphoto / PIXTA
私事から始めさせてもらうと、幼児の頃はブロック遊びに夢中だったそうだ。伝聞形にするのは夢中だった事実を自身は覚えておらず親の証言に頼るしかないからだが、「あれ? 声がしないな」と思ったら部屋の真ん中でブロックを広げて、放っておけば何時間でも黙って一人でいろんな形を組み立てていたそうである。
 
ブロックといっても「レゴブロック」のような硬質プラスチックのピースタイプのそれではなく、今調べてみれば学研ステイフル社の「ニューブロック(旧称ユニブロック)」のような、ブロー成型の柔らかいパーツタイプのそれだった。硬質プラスチックのブロックは角も辺も基本的には出荷時の形・寸法が維持されるが、ブロー成型のものは使ううちに角は鈍り、辺はたわんでくる。あろうことか時々は角が歯で噛みつぶされていたりする*1
 
なので当人が思い描くイメージを精巧緻密に再現するには不向きなのだが、逆に言えばある程度の“遊び”を許容するわけで、幼児の頃に硬質プラスチックのブロック玩具を与えられるか柔らかいプラスチックのブロック玩具で遊ぶかは、後年まで当人のクリエイティブ性向に影響を及ぼすのではないかと密かに思っている。
 
 

ロボットSIerの世界と産業用ロボットの分類

 
子どものブロック遊びと違い、ロボットシステムインテグレーター(ロボットSIer)の世界では、「精巧緻密」および「再現性」と「角を歯で噛みつぶすような創造性」との両立が求められるようだ。「ものづくり太郎チャンネル」のYouTube動画からは*2、産業用ロボットに対して一般の人が思い浮かべる「決められた一つの作業を正確かつスピーディに延々続ける」という単純なイメージの先に、「無限に考えられるそれらロボットの組み合わせで当該現場における最適解を導き出す」という極めて創造的な多元的世界が広がっていることがわかる。
 
また、経産省の「ロボットによる社会変革推進会議」が2019年にまとめた資料によると*3、ロボット産業の市場動向(世界)は産業用ロボット販売台数ベースで2013年から2017年の間に2倍に増えており、今後も年平均14%増が見込まれている。労働人口減少に伴う産業現場の自動化=省人化ニーズの高まりは先進各国の趨勢だ。そうでなくても自動化して生産性≒収益性を上げることは資本主義経済下ではエンドレスな課題だ。ロボットへの引き合いは増えることはあっても減ることはない。
 
工場内や人が入れない過酷環境で稼働することが多い産業用ロボットは一般の目に触れることが少ないが、形状ないし構造だけで区別しても下記のようにさまざまなタイプがある*4
 
◆単軸ロボット
スライダとモータ、ボールネジによって構成。直線的な動きをするため主にワーク(対象物)の搬送・移動に使われる。組み合わせて直交ロボットにも。
 
◆水平多関節ロボット(スカラロボット)
回転軸の動作でワークの真上にロボット先端を移動し、先端のZ軸を用いて作業を行う。一方向からの単純作業を人の作業からロボットに置き換えるのに最適。軸が垂直方向についているため上下方向へ強度がある。
 
◆垂直多関節ロボット
 現在の産業用ロボットの主流。3つ以上のアームと4つ以上(通常は6つ以上)の軸を持ち、人間の腕のような動きをする。汎用性が高く、障害物の裏側に回り込めるような7軸以上のロボットや可搬重量1t以上の大型のものもある。
 
◆パラレルリンクロボット
多関節ロボットは各関節を順番に動かして最終出力先(ロボット先端部)を制御するが、パラレルリンクロボットは複数の関節が同じ最終出力先に接続されている(=順番に動かす必要がない)ため、基本的に縦方向の出力に限られるものの、多関節ロボットより高速度・高精度で稼働できる。
 
 

協働ロボットという新潮流

 
そんな産業用ロボットの世界にあって近年注目されているのが協働ロボット(Collaborative Robot)、通称コボットだ*5
 
ロボットSIer企業の日本サポートシステム株式会社の説明によれば、協働ロボットとはその名の通り、「人と協働作業ができるロボット」*6。従来の産業用ロボットは自動車工場や機械製造などの製造ラインで使われる大型・大出力のものが多く、人と同じスペースで稼働させることは労働安全衛生法が定める出力基準からもできなかったが、協働ロボットは比較的小型・小出力で、人と接触すれば即停止するなどセンシング技術にも優れており、人と同じスペースで稼働させることができる。そのため、人の作業を完全に置き換えるのではなくサポートするロボットとして、近年急速に導入が進んでいるのだ。
 
協働ロボットの導入現場でポイントになる作業の一つとして、「つかむ・つまむ」といった把持系の作業がある。これらの動作には対象物の形状および表面状態を認識する画像解析技術と、対象物に触れながら力加減を判断・実行する力触覚技術が必須だが、前者に関してはAIが、後者に関してはリアルハプティクス技術とバイラテラル技術が可能にした。
 
力触覚とは、力の感覚である「力覚」と「触覚」を合わせた概念だ。対象に物理的に触れて働きかける――例えば「押す」――ときの作用反作用の感覚情報をデバイス⇔操作者間で即時かつ双方向で伝達し、遠隔で力加減を制御する。これがロボットに実装されれば、特に労働集約型産業の現場は自動化が飛躍的に進むとされる。
 
「協働」の語義に照らせば外食チェーンの厨房で回っている自動チャーハン調理器も協働機械の一種ではあるが、目下導入が進む協働ロボットは最早あのレベルにはなく、人間と同等かそれ以上の繊細さで、人の作業を人と同じ空間で補完できる。協働ロボットは省人化・省力化の観点からも、付加価値領域への人的資源集中の観点からも、産業用ロボットの最先端と言えるだろう。
 
 

ブロー成型のブロック玩具再び

 
先の日本サポートシステム社が説明で引用するTBS Newsの動画では、立命館大学理工学部ロボティクス学科の平井慎一教授が協働ロボットについて、「“柔らかい”が一つのキーワードになる」と解説している。*7
 
機体の外装の曲面の多さと柔らかさ。つかむ、あるいは押し込むといったワークを行う際のぐにゃりとした感覚。――それらを思うにつけ、筆者は幼児の頃のブロック遊びの感覚を思い出す。ある程度の“遊び”を許容し、角を歯で噛みつぶすがごとき創造性も受け入れてくれる、ブロー成型のあの柔らかいブロックだ。してみれば、“柔らかい”制御は協働ロボットでまかないつつ、“硬い”制御は従来の産業用ロボットに担わせたロボットシステムこそが、ロボットシステムインテグレーションの究極解だろうか。
 
実現を待つ産業現場としては、現状大量のマテハン(マテリアルハンドリング)業務で回っている倉庫物流業を筆頭に上げておこう。増え続けるEC荷物は物流の小ロット化を促し、製造現場にも小ロット自動製造のニーズとなって現れている。今後もロボットシステムの最先端に、要注目だ。
 
 
 
*1 噛みつぶされた角に我が子の癇癖を見るか創造性の萌芽を見るかは親次第だ。
*2 「需要が「急増」し続けている「ロボットSIer」のお仕事を紹介します‼」(2021/03/17)。特に7:00~
*3「ロボットを取り巻く環境変化と今後の施策の方向性~ロボットによる社会変革推進計画~
*4 日本サポートシステム株式会社ページ「【動画付き】産業用ロボットとは?4種類の形状と5つの用途を解説」とLocus Journalの記事「産業用ロボットの基本と世界4強メーカーを初心者向けに解説」と産業用製品メーカー比較サイト「Metoree」の記事「【2022年版】パラレルロボット9選 / メーカー8社一覧」を元に再編
*5 パソコン入力などの定型業務を自動化するRPA(Robotic Process Automation)のソフトウェアで同名のものがあるため要区別。
*6 協働ロボットとは?定義や導入事例、厳選メーカー3社を紹介
*7 人手不足解消の切り札?「協働ロボット」(TBS NEWS DIG Powered by JNN 2019/07/25)
 
(ライター 筒井秀礼)
(2022.11.2)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事