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高い市場成長率と正の相乗効果

 
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ABC / PIXTA
新しい時代の始まりを、曇りなき眼で、見るッ! と、気負ったわけではありませんが、年の始まりにあたり、コンタクトレンズを調べてみることにしました。
 
真っ先に見つかったのは、昨年11月12日発表の「日本コンタクトレンズ市場は2032年までに4億9002万米ドルを達成、CAGR7.93%で拡大へ」という記事*1。CAGRとは年平均成長率です。
 
ちょっとふっかけすぎでは? と思いつつ、一般社団法人日本コンタクトレンズ協会のデータを見てみると、2014年の2056億円から2023年は3018億円まで市場が伸びています。年平均成長率は4.35%。2020年からの直近4年で見れば7.89%を記録しています。数字は製造販売業者・卸売販売業者の出荷額ベースなので、「これは・・・(マジだ)」という気がしてきます。
 
先の記事は日本のコンタクトレンズ産業について、「最先端技術を製品に取り入れる最前線にいる。快適性と酸素透過性を向上させたシリコーンハイドロゲルレンズから、UVカット機能を備えたレンズまで、市場は技術革新に満ちている」と書きます。こちらはプロダクト側からの市場拡大要因です。
 
また、マーケット側からは「1日使い捨てレンズの人気の高まりと、カラーレンズや美容レンズの受け入れ拡大は、市場の成長に大きく貢献する注目すべきトレンドである」としています。プロダクトとマーケット、片方だけならトレンドは定着しないでしょうが、両方そろえば話は別です。マーケットの拡大がプロダクト側に設備投資を促し、価格をこなれさせ、それにより利用シーンが広がり、さらに多くのユーザーを獲得していく――。どうやら、コンタクトレンズの世界には正の相乗効果が現れているようです。
 
 

近視人口の増加とスマホ老眼

 
違う記事も見てみます。「業界動向サーチ」2023年9月のレポートはコンタクトレンズ業界の売上高&シェアランキングと一緒に、近年、日本や中国や東南アジアで近視人口が著しく増加し、特にスマホやゲームの普及に伴い若年層の近視が進んでいることを報告しています。
 
「やっぱりそれか・・・」と、スマホから目を放さず往来を前から歩いてくる若者――自制が利かない点で精神年齢が幼稚な大人も含む――を思い出して嫌な気分になりつつ、それで近視が増えること自体はどうしようもない、時代の、あるいは社会の必然だろうと思います。その昔、グーテンベルクの活版印刷が広まって人々が最初に気付いたことが「自分たちがいかに遠視だったか」だったというのは、何かの本で読んだ雑学です。当時の生活にとって手元の物は、それが何かがわかれば充分であって、細かい性状とか形とかは視覚的識別の対象ではなかった。現代はそれが逆転しただけであってみれば、近視人口の増加そのものに眉をひそめる筋合いはないでしょう。
 
ただ、それが単なる屈折異常にとどまらない障害を引き起こすとなれば話は別です。例えば、メガネスーパーの公式サイトは、20~30代の若い層が「手元の文字が見づらい」「近くのものにピントが合わず、視界がぼやける」といった老眼と同じ症状で眼科やメガネ店に来るケースが急増しているとして、「スマホ老眼」に警鐘を鳴らしています。
 
眼の水晶体や毛様体筋の老化=硬化で近くの物が見えにくくなるのが老眼、毛様体筋の収縮が戻りきらなくなって遠くの物を見にくくなるのが近視ですが、スマホ老眼は目のピント調節機能そのものが攪乱され、遠くも近くも見えにくくなる症状です。ほとんどは一時的だそうですが、そもそもスマホを見続ける行為が依存行動であってみれば、先にそちらを解決しないと再発を繰り返すでしょう。
 
また、カラーレンズやサークルレンズといった美容系コンタクトレンズも、使い方を間違ってはいけません。きちんと眼科を受診し、粗悪品でない正規流通品を、使用方法を守って使えば、今はもう素材の問題(酸素透過率等)で眼障害を起こすことはほぼなさそうですが、ほんの一昔前までは、視力低下を起こす角膜浸潤・角膜潰瘍の過半はこれらのレンズによるものでした*2。せっかく築いた今日の評価を、ユーザー側の不始末で当時の水準まで落としてはいけません。
 
 

スマートコンタクトレンズの可能性

 
冒頭の記事は、技術トピックとして「最近の開発には、涙液の成分を分析して糖尿病などの健康状態をモニターするセンサーを搭載したスマートコンタクトレンズも含まれる」と書きます。「これらの技術革新は、‥略‥コンタクトレンズが単なる視力矯正を超えて達成できることの限界を押し広げている」と続くこのくだりは、Googleの撤退ですっかり下火になったスマートグラス(眼鏡)がやろうとしていたことをコンタクトレンズで目指す一連の動きを指しているようです。
 
この分野はアメリカのMono Visionが先行しているように見え、日本のコンタクトレンズ最大手メニコンが共同開発契約を結んでいますが、Mono Vision のアプローチはコンタクトレンズ内にマイクロLEDディスプレー(発光器)とレンズを埋め込んでコンタクトレンズ上に映写する方式のようで、結局は「角膜ぐらい近い距離にあるものにはピントを合わせられない」という問題をクリアできない気がします*3
 
その点、東京農工大学の高木康博教授を中心としたチームが研究を進めるホログラフィックコンタクトレンズディスプレイは、外の空間にピントを合わせて像を認識できるので、材料工学および電気工学的な技術課題さえクリアすれば、こちらのほうが実現に近そうです*4
 
 

眼内コンタクトレンズを選ぶ理由

 
コンタクトレンズは角膜の上に載せるものですが、眼球内に入れるタイプもあります。レーシックに替わる恒久的視力矯正法として普及しつつある、眼内コンタクトレンズ(Implantable Contact Lens;ICL)です。
 
重度の乱視や強度近視で眼鏡やコンタクトレンズでは矯正しきれなかったり、角膜の厚さが足りなくてレーシック適用外だったり、他にも、ドライアイやアレルギーなど、何らかの理由でコンタクトレンズが使えない人たちは一定数います。その人たちに眼内コンタクトレンズが選ばれています。
 
健常視力の方は「眼鏡を使えばいいじゃないか」と思うでしょうが、眼鏡の矯正力には限界があります。度を入れすぎると、視界が圧迫されて気持ち悪くなったり、目がものすごく疲れたりします。審美性以外の理由でコンタクトレンズを使わざるを得ない人もいるのです。
 
また、これはレーシックを選ぶ理由ともかぶりますが、地震――首都直下地震と南海トラフ地震――に備えて眼内コンタクトレンズを入れる人も、結構いると思います。本邦ならではの理由ですが、生き抜くための投資と思えば、レーシックよりやや高額なくらいは安いものです。
 
いずれにせよ今回の調べでわかったことは、「コンタクトレンズの進化はすごい」。これに尽きます。筆者も、もう20年近く同じ商品を買い換えながら使ってきましたが、次は新世代型の商品にしようと決めました。マル。
 
 
*1 Report Ocean株式会社(TOPVIEW 2024/11/12 16:05)
*2 『化学と教育』60巻2号(2012年)p79
*3 個人的見解です。可否判断に際しては専門家の解説を仰いでください
*4 眼に装着する究極のディスプレー─ホログラムが可能にする未来とは(Optronics Online 2023年09月27日)。なお、メニコンはMono Visionと組んでいますが、ホログラフィックコンタクトレンズディスプレーはシードが共同開発チームに入っています。それぞれのBetが今後どうなるかも気になるところです
 
 
(ライター 横須賀次郎)
(2025.1.8)
 
 

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