B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

2030年には3兆円市場

 
glay-s1top.jpg
写真 / 筆者撮影
サービスロボットが増えています。サービスロボットって何でしょう?
 
検索するとさまざまな記事がありますが、「小売店や飲食店などサービス業界で使用されるロボットの総称」とする記事もあれば、「工場の製造ラインで使われる、いわゆる産業用ロボット以外のロボットの総称」とする記事もあります。
 
また、個人用および家庭用を単にサービスロボットと呼び、業務用――ただし製造業以外――のサービスロボットは別途「フィールドロボット」という言葉を当てるNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の資料のような立場もあります*1。いずれにせよ、まだ見方は定まっていないようです。
 
そんな中、富士経済グループは今年1月末のレポートで、サービスロボットの世界市場が2030年に2023年比2.3倍の4兆7100億円になるという調査結果を発表しました。同じく昨年10月のレポートでは、少子高齢化で不足する労働力を「ロボット潜在需要」とし、2030年の国内市場を2022年比7.5倍の2兆9356億円と推計しています。計算式は(不足する労働人口×労働賃金)です。
 
これはつまり、金額にして3兆円弱の労働力がロボットに置き換わるということです。では、どんな業種で置き換わるのでしょうか。
 
 

どの業種で“来る”か

 
昨年10月のほうのレポートを参考に、これから国内のどの業種でロボットが“来る”かを見てみます。
 
レポートが特に注目だとする6業種(小売、介護施設、工場、飲食店、コンビニ、宿泊施設)のうち、工場は実質産業用ロボットですから除いて、残る5業種で2030年にかけて最も伸び率が高いのは飲食店。2022年比11.4倍です。次が介護施設で同8倍。以下小売7.5倍、宿泊施設6.5倍と続きます。
 
ただし、市場の大きさで見ると、小売が1兆679億円で断トツです。2位が7250億円の介護施設。伸び率首位だった飲食店は5000億円で3位に沈みます。4位のコンビニは一気に667億円までダウンしますから、実質この3業種でロボット潜在需要の大半を占めます。
 
 

どのロボットが“来る”か

 
では次に、この3業種――小売・介護・飲食――で使われるであろうロボットを、今年1月のほうのレポートから拾ってみます。調査対象25品目のうち、該当しそうなのは下記15品目。
 
1,業務用清掃ロボット
2,業務用セキュリティロボット
3,棚管理ロボット
4,パワーアシスト・増幅スーツ
5,移乗ロボット
6,排泄支援ロボット
7,入浴支援ロボット
8,セラピーロボット
9,受付案内ロボット
10,配膳・下げ膳ロボット
11,調理ロボット
12,寿司ロボット
13,米飯盛り付けロボット
14,デリバリーロボット(施設内)
15,デリバリーロボット(屋外)
 
概念を定義するのは難しくても、具体的品目で見れば、サービスロボットがどんなものかわかります。これから2030年に向け、これらのロボットが3業種それぞれに、おのおのアレンジを加えられながら導入されていくでしょう。
 
 

業務用清掃ロボットの可能性

 
これらの品目を眺めていると、業種をまたいで活躍しそうなロボットと、そうでもないロボットがあるのがわかります。入浴支援ロボットが小売店に求められるとは思えません。同様に、棚管理ロボットが介護施設に行ってもはかばかしい仕事はなさそうです。
 
一番業種をまたいで活躍しそうなのは清掃ロボットではないでしょうか。実際に、富士経済のレポートでも注目市場に挙がっています。
 
同レポートは配膳・下げ膳ロボット、デリバリーロボット(施設内)、業務用清掃ロボットの3品目を注目市場として挙げますが、2023年時点で最も市場が大きいのは配膳・下げ膳ロボットです。規模にして555億円。次が業務用清掃ロボット270億円。最後にデリバリーロボット190億円の順です。
 
これが2030年になると逆転します。トップは業務用清掃ロボットの2000億円。伸び率は2023年比7.4倍です。次が配膳・下げ膳ロボットの1280億円。ただし、伸び幅は3品目中最低の2.3倍に留まります。最後のデリバリーロボットは伸び幅こそ配膳・下げ膳ロボットを上回るものの(3.4倍)、市場規模は配膳・下げ膳ロボットの約半分の650億円です。
 
いかに業務用清掃ロボットがこれから“来る”かということですね。
 
 

ネコ型配膳ロボットに萌えながら

 
ところで、清掃ロボットといえば、家庭でもルンバはすっかり普及しました。ルンバを見ていればわかりますが、電源コードや椅子の足の板など、割とちょっとした障害物に乗り上げて“座礁”します。あるいは、回避してぐるっと回ってきて再挑戦、を延々繰り返してなかなか掃除が終わりません。家庭なら「手のかかる子だねぇ」で済みますが、業務ロボットが頻繁に人の介助を求めていたら労働力を代替できません。
 
そこで2019年に経産省とNEDOが打ち出した考え方が「ロボットフレンドリーな環境づくり」、略して“ロボフレ”です。「ロボット実装モデル構築推進タスクフォース」が唱えるその趣旨を簡単に要約すると、「人の労働力なら遂行可能な業務レベルにこだわり過ぎず、目的によっては要求水準を多少妥協してでもロボットを受け容れよう。そのために環境もロボットを導入しやすいものに変えていこう」ということです。
 
ロボフレはサービスロボット全般についての考え方で、清掃ロボットだけの話ではありません。が、清掃ロボットの例は、サービスロボットにとってのバリアフリーと、それに対応する社会の全体的な変化とを、端的に象徴している気がします。
 
清掃ロボットにとってバリアフリーな環境とは、段差がなく、フラットで、水が浸まない床のこと。今後、オフィスビルや商業施設、ホテル、病院等のフロアーは、今以上に材質と性状の画一化が進むでしょう。同じロジックで、小売や飲食も、底辺の業態は――良くも悪くも――今よりももっと標準化が進むでしょう。
 
もちろん、標準化・規格化のいっぽうでは、画一的なサービスに満足できない利用者層に向けて、ハイレベルでアッパーバリューなサービスの市場も形成されていきます。
 
「ちょっと待て。『テクノロジーによる標準化は社会の分断も助長する』というのは科学哲学の基本じゃなかったか!?」
 
某外食グループの低価格中華レストランで、「お待たせしましたニャ~♪」と近づいてくるネコ型配膳ロボットに萌えながら、そんなことを思いました。
 
*1 技術戦略研究センター「TSC Foresight vol.29」
 
 
(ライター 横須賀次郎)
(2024.3.6)
 
 

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事