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政治も注目する「ナイトタイムエコノミー」

 
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長崎の夜景。TOMO/PIXTA(ピクスタ)
今、社会の動きの大前提として、消費喚起がある。そのためのアプローチは様々あり得るだろうが、今まで消費に使っていなかった時間帯(例えば深夜)に市場を創出するという発想で注目されているのが「ナイトタイムエコノミー」という新しい経済概念だ。
 
言葉だけではわかりにくいかもしれないが、要は“夜遊びのススメ”である。仕事帰りの寄
り道も良いし、欧米のように帰宅した後に家族や親しい人と出かけるスタイルも良いだろう。そこに個人消費につながるカギがある、というわけだ。
 
2017年4月には、エンターテインメントを中心に夜の経済を活性化することを目的とした「時間市場創出(ナイトタイムエコノミー)推進議員連盟」も発足した。時間市場の創出は政治課題になりつつある。アドバイザリーボードには、渋谷区観光大使・ナイトアンバサダーでもある、ヒップホップアーティストZeebra(ジブラ)氏が就任。2016年6月にそれまでのクラブ規制を緩和することにもつながった風俗営業法の改正がされたときの立役者の一人が名を連ねたことは、象徴的な意味を持つだろう。ストリート・クラブカルチャーなどの若者文化にも造詣の深い人物を起用したとあって、民間発信の新しい文化が生まれるという期待がある。
 
 

“夜遊び”の進化を何で支えるか

 
夜遊びにも様々あるが、単純に夜のそぞろ歩きは楽しい。筆者もお気に入りの飲み屋横丁に週末となれば繰り出し、顔なじみの仲間と、それこそ年齢、性別、国籍関係なく多彩な交流を楽しんでいる。
 
映画や芝居を観に行くのもいいだろう。GINZASIX(ギンザシックス)にある観世能楽堂では、昼公演に加え、ビジネスパーソン向けに19時開演のMUGEN∞能(ムゲンノウ)などの公演を行いだしている。能楽は基本的に昼公演が多く、夜の公演を行うことは画期的な試みだ。こうした日本の伝統的な文化と、そこから波及するであろう飲食を伴う夜遊びとをつなげていく試みがあれば、海外からの観光客や、これまで伝統芸能を敷居の高いものと敬遠していた層まで取り込める機会になるかもしれない。
 
ナイトタイムエコノミーの振興のためには、まず深夜帯の公的な交通機関の運行が必要だ。終電の時間延長や深夜バスの増発などの対策を取り、家に帰れるまでの足を確保したい。
 
それに加え、安全面の強化も必要だろう。夜間帯の犯罪、特に性犯罪などは深夜に起こることが多い。これまで以上の対策強化を行わなければ、誰もが安心して夜遊びを楽しむことはできない。各地の都市部などでは2020年のオリンピック開催に向け、警視庁、自治体、民間ボランティアなどによる繁華街のパトロールが行われている。これを継続させれば安全強化にもつながる。
 
 

地方都市の個性を生かした夜の街づくりを

 
地方都市におけるナイトタイムエコノミーの現状はどうだろうか。
 
九州地方の玄関口である福岡市は、野村総合研究所がまとめた都市成長力ランキングでも常にポテンシャル上位をキープする、バランスのとれた、住みやすく遊びやすいコンパクトな街だ。空港から都市部までの距離も近く、公的交通機関も整い、バスやタクシーでの移動が簡単という、まさに地方都市キングである。
 
中州などの歓楽街には、地域の特性が生かされた個性的な店や屋台が立ち並び、地域の人や国内外からの観光客の心と胃袋を満たしている。行政と民間企業とのつながりもよく、福岡市公式のシティガイド・サイト「よかなび」では、イベント開催の知らせや観光、遊びのスポット、飲食店に至るまでが、センス良く詳しく掲載されている。官民一体で街づくりをしていく、という気持ちのこもったものであり、行政の風通しの良さを感じた。
 
また、福岡は九州旅行を楽しむ観光客の拠点にもなっている。博多駅を起点とした九州新幹線(鹿児島ルート)が2011年に全面開通したことも一因だろう。全体的に観光客は増加傾向だ。
 
同じ九州地方にある長崎市は、観光、文化、歴史の資産の多い街だ。九州新幹線の長崎ルートはまだ開通されておらず、陸の便は少し不便なところがあるが、近年では大型国際、国内客船の寄港数も増え、インバウンドや国内からの日帰り観光客数は伸びている。
 
しかし、宿泊客数は数年遡ってみても横ばいである。これは単純に宿泊施設の数が少ないことも原因の一つにはあるだろうが、夜に楽しめる“何か”が足りていない、ということも考えられないだろうか。
 
長崎市都市再生委員会の資料を見ると、歓楽街が少ないことは弱みとして書かれているが、それを求める声が市民や観光客から多く寄せられているかといえば、そうでもない。つまり長崎の場合、商業主義的に歓楽地を増やすだけではナイトタイムエコノミーは創出できない。そうではなく、長崎ならではの都市としての魅力に注目し、資産として活用するグランド・デザインが必要だ。
 
例えば長崎市の夜景は「夜景サミット2012 in長崎」にて、世界新三大夜景として認定されており、これは大きな財産である。南蛮文化と日本文化の独特な融合が味わえる「長崎くんち」や、中華街で春節に行われていた祭事が始まりの「長崎ランタンフェスティバル」、日蘭交流の記念行事である「長崎帆船まつり」など、長崎独特の祭りも開催されている。このような文化や街の財産を、土地の風土に見合った“夜遊び”につなげていくと、長崎の魅力は深まるのではないか。すると「昼長崎を観光して夜博多に帰る」という観光客の行動も徐々に変わってくるだろう。
 
 

それぞれの土地に見合ったやり方

 
ナイトタイムエコノミーで夜間経済を活性化させるには、どこかの成功例をそのままよその土地で当てはめても、うまくはいかない。東京には東京の、地方都市には地方都市の、それぞれの場所に見合ったやり方があるはずだ。本当に価値のある政策にするためには、民間の声に耳を傾け、交通インフラの整備など、必要な部分で手助けをするスタイルでの官民一体の努力が大切なのだと思う。
 
IR整備推進法(カジノ法案)はナイトタイムエコノミーの話について回る法案だが、必要とする地域は多くない、と筆者は感じている。その土地の持つ情緒、魅力を生かし、そこに住む人たちのQOL(クオリティーオブライフ)が上がるやり方を模索したい。
 
行政と地域がバランスよく連携をとりつつ、街を形成していく。それは新しいものをつくるというのではなく、今あるものの角度を変えて見直してみれば、少しの手入れでできることがたくさんあるのではないか。
 
(ライター 木村千鶴)
 
(2017.10.06)

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