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11月、ラン(Run)がシーズンイン!

 
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ABC / PIXTA
各地であまりに遅くまで続くので、みんな感心するやら呆れるやらだった夏日もようやく終わり、季節は秋。11月に入り、涼しくなってきました。ラン――「マラソン」と言うと少し違うらしいですね――愛好家の人たちにとっては、待ちに待ったシーズンの始まりです。
 
一般的に、走ること――移動目的でない、走る行為そのもの――は、健康増進活動です。医療方面からは、生活習慣病や、サルコペニア、フレイル、ロコモティブシンドロームなどの加齢症候群に対する1 次予防とも位置付けられます。近年はメディカルフィットネスという概念も提唱されています。
 
好きな人にとっては趣味以外の何ものでもないでしょうし、趣味以外の何ものにもされたくないでしょうが、ランは、現在国が推進中の国民健康づくり運動――「健康日本21〈第三次〉」においても主役となる活動のひとつです。都内では皇居まわりや荒川端の土手で、地方でもきっとそこかしこで、息を弾ませ気持ちよさそうに走る彼ら彼女らの姿が、目につくようになりました。
 
 

セルフヘルスケア市場の未来は?

 
健康づくりは産業分野では「セルフヘルスケア」と呼ばれ、一大市場を形成しています。経産省の調査によると、日本のヘルスケア産業の市場規模は2020年時点で18.5兆円。内訳は、サプリメントや健康食品、OTC医薬品(いわゆる大衆薬)などの〈食〉関連が3兆4000億円、フィットネス用品やフィットネス施設、マシンなど〈運動〉関連が6000億円*1、といったところです。
 
これが2050年には全体で59.9兆円まで伸びるとされています。伸び幅トップは衛生用品や予防接種等の〈予防〉関連で、実に約20倍(0.4→7.8兆円)。次が健診事務代行やメンタルヘルス対策等の〈健康経営を支えるサービス〉で、6.16倍(0.6→3.7兆円)。また、がん保険や介護保険、傷病保険等の民間保険(いわゆる第三保険)も、伸び幅こそ2倍未満ですが、額は7.9→15.7兆円で初手から別格です。
 
「なんだ結局保険か」と言いたくなるのをグッとこらえ、もう少し人の汗を感じるジャンルを探すと、個人が取り組む健康増進活動で伸び幅・額ともに大きいのは、2050年に4.44倍(2.9→12.9兆円)になる〈遊・学〉関連。具体的にはヘルスツーリズム(健康志向旅行)です*2
 
フィットネスなどの〈運動〉関連も2050年に4.5倍で、伸び幅だけなら個人で取り組む活動の中で一番ですが、額が0.6→2.7兆円とやや小粒なのが惜しいところ。経済へのインパクトはヘルスツーリズムに負けますが、日常生活で続けられる点において健康増進効果は勝るとも劣らないはずなので、ラン好きの皆さんにはぜひ頑張っていただきたいと思います。筆者もプールで泳いで頑張ります。
 
 

その活動と運動、強度は何メッツ?

 
日本では、行政が初めて一般国民向けに身体活動・運動の基準を定めたのが今から35年前。1989年に「健康づくりのための運動所要量」を策定したのが始まりでした。それが1993年に「健康づくりのための運動指針」に変わり、2013年には「健康づくりのための身体活動基準」になり、今年は「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」が発布されました。
 
名称が「基準→ガイド」に変わったのは、より個人差(健康状態、体力レベルや身体機能等)に配慮して運動の強度や量を調整してもらおうという狙いから。また、今年のガイドでは、従来の【身体活動】――下位概念の「生活活動」と「運動」から成る――という項目と別に、【座位行動】が追記されました。
 
定義は「座位や臥位の状態で行われる、エネルギー消費が1.5メッツ以下のすべての覚醒中の行動(例えば、デスクワークをすることや、座ったり寝ころんだりした状態でテレビやスマートフォンを見ること)」です。メッツとは活動の強度の単位。安静座位を1とし、その何倍のエネルギーを消費するかで示します。座位行動の強度は1.5メッツです。
 
なお、「身体活動」の定義は「安静にしている状態よりも多くのエネルギーを消費する、骨格筋の収縮を伴う全ての活動」となっています。“骨格筋の収縮を伴う”の部分がミソで、例えば歩行は3メッツに相当します。
 
ガイドでは、高齢者を除く成人に対し、強度3メッツ以上の身体活動を週に23(メッツ×時)以上と、同じく3メッツ以上で息が弾んで汗をかく程度以上の運動を週に4(メッツ×時)以上、行うよう勧めています。ガイド39、40ページに各活動・運動の強度一覧表があるのでチェックしてみると良いでしょう。「こどもと遊ぶ(歩く/走る、活発に)」が5.5メッツ、「ピラティス」3メッツ、「ランニング(134m/分)」8.3メッツなどと結構細かく示されているので、自分が普段馴染みのある活動・運動の強度を確かめると、なかなか楽しいです。
 
 

メッツを燃やせ! コスモを燃やせ! 

 
今後、ヘルスケア産業はPHR*3の浸透とともに、さまざまな材やサービスが総じてパーソナライズの方向に向かいます。今はまだ、例えば健康食品(機能性表示食品)も、ユーザー自ら機能性関与成分をチェックして、主観的使用感に基づいて選んでいますが、やがては遺伝子検査キットとバイタル‐アクティビティログの組合せでレシピ(≒商品)をレコメンドされるようになるでしょう。
 
パーソナライズの方向に関しては費用対収益性のハードルが決まって指摘されますが、流通コストはDtoC化で極力吸収するでしょうし、そうでなくてもこのまま格差社会化が進めば、所得格差が健康格差に現れるだけの話です。健康的で美しい人はより美しく健康的に。不健康でみすぼらしい人はよりみすぼらしく不健康に。それで何の問題がありましょうや――
 
――と、やさぐれて終わりにしないためにも、自分次第でお金をかけずにできる健康増進に、今から勤しみたいと思います。
 
まずはストレッチから・・・。お、2.3メッツありますね。
 
外ではエレベーターやエスカレーターじゃなく階段を使おう・・・。ゆっくりだと4メッツ、速く上がれば8.8メッツか。速くってどれくらいだろう?
 
プールは普通の速さのクロールでもランニングと同じ8.3メッツか。まずまずだな~。
 
皆さんも、生活の中に活動・運動を取り入れて、いつまでも楽しく元気に、暮らせますように。
 
 
*1 ただし、コロナ禍の影響がまだ少なかった2019年は8600億円ありました
*2 似たものとして、旅先でレジャーやスポーツを楽しむスポーツツーリズム、ご当地の温泉や自然に触れてリフレッシュを図るウェルネスツーリズム、特定の医療サービスを受けに行く医療ツーリズム(メディカルツーリズム)がありますが、あえて区別する必要はないかも。「保養地で静養してきてください」が医師の処方なら、ウェルネスツーリズムでありながら医療ツーリズムです
*3 パーソナルヘルスレコードの略。ウェアラブル端末やIoTの普及で個人のバイタルやアクティビティログデータが集められるようになり、医療・ヘルスケア産業と社会厚生の分野で利活用が期待されています
 
(ライター 横須賀次郎)
(2024.11.6)
 
 

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