シリーズ最終回 東京発!世界の先進モデル
「中小企業のBCP策定を個別支援」
BCP策定~演習。大手企業が半年以上かかる作業を2ヶ月間で実行
ただ、そうは言われても、自治体や商工会議所、業界団体発行のガイドラインを参考にしても、自社でBCPを策定することは難しい。それに比べ、今回はコンサルティング会社との二人三脚なので、具体的で実践的なBCPが構築できるかもしれない。
BCP策定~演習までのプロセスは以下のように進められるという。
(1) 1回目(1日)=集合研修
・ミーティングを始める前にシナリオを与えて簡単な演習を実施し、事業継続の感覚を体験してもらう(例えば、「いま事故が起きました。どうしますか」という質問に対し、チェックリストに照らしながらどこに問題があるか「まずさ加減」を把握する)。
・さらに、企業にとって重要な事業を阻害するリスク(地震、火災、水害、新型インフルエンザなど) を明確にし、次回の訪問時にキックオフ・ミーティングに踏み切れるよう、BCPの対象範囲や体制をすべて決める。
(2) 2回目(1日)=キックオフ・ミーティング
(3) 3回目(半日)=事業継続対策の立案
(4) 4回目(半日)=BCPの完成
・事業継続を脅かすリスクは企業、事業によって異なる。2回目から4回目までは、「BIA(重要業務分析)」 や「RA(リスクアセスメント)」 で自社の業務の全容を調査し、不測の事態が発生した場合に継続すべき事業の優先度を明らかにする。それに従って 「事業継続戦略」 を決定し、「事業継続計画書」 を作成する。
・BCPの策定といっても、最初から完璧なものは作れない。ここで大事なのは、それぞれのステップで必ず経営トップの承認を得ること。毎回、テーマについて議論し、どうするか決定し、経営者が意志決定を行い、経営者のサインをもらう。経営者から承認をもらうことで、社員の協力も得やすくなるという。
(5 )5回目(半日)=演習
・BCPの手順を決め、BCP文書を作っても、実際に機能しなければ意味がない。策定したBCPが有効かどうか、全員参加による演習を行い、いざという時にどの部分が大事なのか、どの部分が大丈夫か/まずいかを把握する。課題が生じたらBCP文書を改善する。
・さらに、各社がその後もBCPを継続し、維持・向上していけるよう、年間の事業計画の中にマネジメントレビューや内部監査の仕組みを落とし込む(PDCAサイクルを回す)。
これら、大手企業なら半年から8ヶ月かかる一連の作業を、わずか2ヶ月間でやってしまおうというのだから、参加企業もよほどの決意とエネルギーが必要となるに違いない。
東京発の試みを世界の先進モデルに!
すでに8月6日と25日の2回、事業説明会が行われ、数十社からの申し込みがあった。希望企業に出向き、経営者からのヒアリングなどを通して選定作業が進められ、9月スタートのグループのうち数社はすでに決定している。
「業者やリスクの種類などに偏りが出るのではと心配しましたが、製造業、建設業、IT関連、卸売業、サービス業、小売業と、業種や企業の規模、地理的な条件などがバランス良く散り、リスクの内容もさまざま。われわれも多様なBCP策定の経験ができるのではと意気込んでいます。いまのところオーナー企業のトップが多く、自社の事業への思い入れの強さが感じられます。このようなきっかけさえあれば、BCPの導入を積極的に考えようというトップが多いのだということを痛感しました」(副島氏)
取り組みの事例は、東京都の特設Webページ 「
東京発 チーム事業継続」 や
ニュートン・コンサルティングのサイトで随時紹介し、活字やWebの媒体などでも取り上げられるよう情報発信していくという。優良事例は成果パンフレットや普及啓蒙用のパンフレットに掲載し、都内のBCP未策定企業を啓発したり、他の自治体への紹介、全国のBCP促進に活用する。さらに、事業が終了する3月末には、都内で成果発表会を行い、「事業継続大賞」を選定する予定だという。
東京都庁商工部経営支援課長の吉村氏は「35社と数は少ないですが、今回の事業に参加した企業が核となって、中小企業全体へBCPが広まっていけば効果は大きい。一連の事業を通してノウハウを蓄積し、中小企業を活気づけるきっかけにしたい」と意気込む。
千里の道も一歩から。小さくても、行政が支援して中小企業にBCP導入を進める東京発の試みが、先進諸国に向けても先進的なモデルケースになることを期待したい。
(シリーズ 了)
プロフィール
古俣愼吾 Shingo Komata
ジャーナリスト
経 歴
1945年、中国生まれ。新潟市出身。中央大学法学部卒業。広告代理店勤務の後フリーライターに転身。週刊誌、月刊誌等で事件、エンターテインメントものを取材・執筆。2000年頃からビジネス誌、IT関連雑誌等でビジネス関連、IT関連の記事を執筆。2006年から企業の事業継続計画(BCP)のテーマに取り組んでいる。