第7回 ビザの悲喜こもごも
何をするにもビザは必要
我々が日本以外の国、外国に渡航する際には、基本的にビザというものが必要になります。細かく分けるとそれこそ何千種類ものビザが存在します。ビザはその渡航目的によって、それに応じたビザを取得する必要があります。
オーストラリアの場合には、観光目的の観光ビザ(ETAS)、就学目的なら学生ビザ(Student VISA )、就労目的なら就労ビザ(Business VISA)が必要になります。この他にも、オーストラリアには30歳までに申請すれば観光と就学、それに就労も経験できる素晴らしいビザ!ワーキングホリデーがあります。これらは期限付きでオーストラリアに滞在できるビザなので、条件さえ満たせば比較的容易に取得できます。
もし 「ずーっとオーストラリアで仕事をしたい、在住したい」 と希望するならば、ビザではなく永住権か市民権を得る必要があります。しかし、市民権の取得はオーストラリア国籍を選択することになり、二重国籍を認めていない日本の法制では、それは自動的に日本人ではなくなることを意味しています。そのため、現実的には市民権を選択する日本人は少ないようです。
国際的に恵まれた日本人はビザに疎い
このように見てくると、実際のところ、ビザという言葉を聞いてはたして何人の日本人が正確な意味を理解しているのだろうと考える時があります。
一部の海外居住者を除けば、恐らく日本人は世界で一番ビザに対しては無頓着というか、ビザと言われてもぴんとこない国民なのかもしれません。私も今でこそ、永住権を取得してオーストラリアになんら制限なく居住できる権限を得ましたが、この永住権なるものを取得するまでは、それはそれは血を吐く思いでした。永住権取得までの経緯や、苦しんでいる私の状態を日本の知人、友人に伝えると、皆が口をそろえて 「それは大変だね」 「がんばってね」 などなど励ましの声を掛けてくれましたが、ビザを取るのに具体的に 「今こんな問題を抱えている」 と話すと 「はあ~???」 クエスチョンマークが3つくらい並んだ声を上げられてしまいました。
なぜか? それは日本人があまりにも恵まれた環境にいるからです。日本人は世界で一番ビザに無頓着な国民と言いましたが、それは日本の恵まれた環境が影響しているようです。
戦前の日本は貧しい農業国でしたので、農家の二男、三男は親から譲り受けられる土地はなく、食べていく手段として、海外への移民を選択した人々も多くいました。ただ、今の日本では、私を含めて 「日本国内で食べていけない。だから海外に移住した」 そんな理由の人は皆無です。また、日本人が海外に旅行に行く時には、ほとんどの国で、ある一定期間(3ヶ月~6ヶ月)であれば特に観光ビザを取得する必要がなく、必要だとしても、簡単な事務的処理で支給されます。
ビザの壁――「国を代表しているのに?」
これがたとえば中国国籍になると、手続きが容易ではありません。
我々がヨーロッパのとある都市に旅行に行くとします。その都市は残念ながら日本から直行便が乗り入れておらず、どこかの大都市でトランジットをしてから目的地に向かいました。この場合、我々日本人は特にビザを取る必要がなく、極端な話パスポートを保持していればスルーパスです。しかし中国国籍の人の場合には、最終目的地の国に入国するためのビザの他に、わずか2~3時間しか滞在しないトランジット目的であったとしても、トランジットビザを要求される場合があります。計2回、しちめんどくさい申請書に必要事項を記入し、滞在日数や目的など事細かく明記しなくてはなりません。
また、帰国時の航空券も保持していないとビザが発給されない場合もあります。私の中国人の知人はとある研究施設から招聘状をもらい、国際学会へ参加する目的で入国しようとしましたが、ビザを申請しても許可が下りず、結局学会に出席することができませんでした。当時の国際情勢など、上のほうでごちゃごちゃした関係があったとはいえ、民間ではなく国を代表する研究機関からの招聘状を持っていてもビザが下りなかった経緯を聞いた時は、正直かなり驚きました。
移民国家でビザあるいは永住権を取得するということ
オーストラリアは移民で成り立っているので、日本とは異なり移民省が設置され、さまざまな移民法が制定されています。その中に、ビザが取得されやすいランキングみたいなものも存在します。つまり、国際的に信用がある国籍の人はビザが支給されやすく、反対に、このランク付けが低ければ低いほど、国際的な信用がない(不法滞在が多いなど)と判断され、ビザの発給が難しくなります。試しに日本国籍の人が学生ビザを申請したとして、健康診断証や学校側から発行される公式の授業料支払済のレシートなどがあれば、割と早めに学生ビザが支給されますが、これがランク下位の国籍だと、預金残高証明書だ、移民局の担当官と面接だ、などなど、日本人と比べて圧倒的に、求められる書類&提出しなくてはならない書類が増えます。しかもビザ受領の時間も、日本人と比べて、長時間待たされることになります。
もっともこれが永住権になれば話は別で、ランキング上位の日本人だとしても、他の国籍の人と同様に、えら~い長い時間結果を待たされる羽目になります。待たされるだけならまだしも、あれを出せ、これを出せはもちろんのこと、ひどい場合には提出したはずの書類を一から全部出せと言われる場合もあります。私は幸運にもそのような目に遭いませんでしたが、実際に移民局から要望された人を何人も知っています。書類の再提出について、もっともらしい言い草を先方はしていますが、我々の間では 「書類をなくしてしまったので、もう一度出せと要求しているのだ。絶対そうだ」 とみんな言っています。
ビザの申請は慎重に
オーストラリアで就職したい。私はそんな相談を頻繁に受けます。繰り返しますが、オーストラリアで働くには何らかのビザを取得しなくてはなりません。学生ビザやワーキングホリデービザでも、規定内でなら就労ができますが、やはりフルタイムで就労できる就労ビザや、永住権を希望する人が後を絶ちません。
「どうしたらビザが取れますか」 「ビザを楽に取る方法はありませんか」。近年は就労ビザや永住権を取得するのが困難になっているので、気持ちはわからなくもないのですが、残念ながらビザ取得には近道がありません。ただその代わり、移民局が求める条項を一つひとつ潰していけば、必ず手に入れることができます。楽しようとしていくつかの手順をスキップしようとすると、後からそのツケを支払わなくてはならない面倒な状況に陥らないとも限りません。取得が困難なビザになればなるほど、それまでのビザがごちゃごちゃしていると、はじかれてしまう可能性があります。「ビザ申請は慎重になってなりすぎることはない」 これが経験者として私が言えることです。
次回はオーストラリアの移民政策を参考にした、日本経済の起爆剤になる移民ビジネスについて書いていきます。お楽しみに。
南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第7回 ビザの悲喜こもごも
執筆者プロフィール
永井政光 Masamitsu Nagai
NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント
経 歴
高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。
オフィシャルホームページ
http://www.nmaust.com/
ブログ
http://ameblo.jp/nm-australia/