日本サッカーの「ハードワーク」と「献身性」に
中小企業が大手に勝つためのヒントを見た
それが今大会では強豪ドイツに勝ち、スペインにも勝ち、大金星を二つも上げた。もちろん、多少は相手の傲りに付け込んだ部分もあったかもしれないが、今までだったらリードされて本気になった相手に必ず逆転負けを喫していた。今回はそうならなかったところに、私は日本サッカーの可能性を見た気がした。
その可能性とは、一言でいえば「ハードワーク」と「献身性」だ。欧州や南米の強豪国みたいにFWはフォワードの仕事しかしない、DFはディフェンスしかしない、というんじゃなく、全員が守備にも攻撃にも参加する。それで前後半フルに走り回るんだから選手にとってはとんでもないハードワーク。だけどそれをやった。やり通したのが偉かった。
この「全員が守備も攻撃も両方」というのは中小企業の経営にも通じるものがある。この連載の読者はほとんどが中小企業の社長さんだったり社員さんだったりすると思うからよく聞いてほしいんだけど、今回のサムライジャパンの戦い方は皆さんにも大いに参考になるはずです。
というのは、今は大企業はほとんど全部、「システム化・分業制シングルタスク・効率最優先」に偏っているけど、我々がそれをやっちゃ駄目なんだよね。中小企業がやるべきは、システム化と効率化はある程度進めるとしても、人の活かし方に関してはあくまでマルチタスクで、ハードワークでやってもらうしかないんだよ。だってしょうがないじゃない。サッカーと一緒で、個々のレベルがエリートたちと全然違うんだから。
じゃあそれで通用しないかというと、立派に通用することを、今回の日本チームの選手たちが事実で示してくれた。もちろん、一部では「戦術で勝っただけだ。中身の収穫は何もない」という辛辣な批評があることは私も知っているが、まずは勝つこと――つまり実績――が自信につながるという意味で、大金星二つというのはものすごく価値があると思う。それがあったからこそ、決勝リーグで当たったクロアチアも、試合開始の笛が鳴った最初から本気で戦ってくれたんだと思うしね。
「俺が俺が」の選手たちが一つにまとまった瞬間
国としての日本の強さを思い出させられた
だけど、今回はそれがもう一つ上の次元に行っていた。表現がなかなか難しいけど、「一体化する」と言えばいいのかな。個々のハードワークが監督のもとで一体化していて、本当の意味で一つになった感じだった。確か堂安律選手だったと思うけど、「僕たちは26対11で戦っている」とハッキリ言ったからね。控えの選手が「自分たちもイメージの中で戦ってるぞ!」という意味でそういうセリフを言うのは過去にもあったけど、スターティングメンバーの、それも攻撃的な選手の口からその言葉が出るのは聞いたことがないよ。
あれはチームをまとめる監督の手腕が言わせた一言だったと思う。選手たちは何だかんだ言ってトッププレイヤーなわけで、基本の性格は全員、「俺が俺が」だ。ブラジルとかアルゼンチンとかみたいに個人が超一流であれば「俺が俺が」のままでも全体がうまく回るが、日本は持って生まれた素質からしてそのレベルまでは行かない人の集まりだから、やっぱりどこかで「俺が俺が」を捨てて、チームの勝利のために献身的にならないといけない。
森保一監督はだいぶ選手たちと話し合ったと思うよ。「お前のやりたいことはわかる。ただ、チームを勝たせるために今回はこれで行ってくれ」というふうにね。南野拓実選手とか鎌田大地選手なんかはもっとふてくされてもおかしくなかったのに、必死になって監督の要求に応えていた。堂安選手が「(相手はフィールド上の11人だけど)僕らは26人で戦っている」と言ったのは全員が同じ気持ちだったと思う。あれができるのが日本人の良さであり、スポーツに限らない日本の国としての強さなんだ。ちょっとウルッときたね。
まとめる能力とビジョンを描く能力の違い
皆さんは来年はどんな経営を目指しますか
さてそれで、日本の試合が全部終わったこのタイミングで話題にされるのが「次期監督は誰にするか」だ。「森保さんをそれだけ高く評価するのだから、当然森保さん推しですよね」と思われるかもしれないが、私は変えたほうがいいと思う。森保さんは、選手たちをまとめる手腕はすごいが、世界と互角に戦っていけるほどの技術を持ってないから。
これもやっぱり企業経営と同じで、社内をまとめる能力とこれからどういう会社にしていくかのビジョンを描く能力とは、別なんだよね。森保さんは監督就任から本大会まで4年間、どういうサッカーを目指したいのかわからないと言われ続けてきた。それに比べると2006年ドイツ大会のときのジーコ監督なんかは、「個の力で勝負できる南米スタイルのサッカーを目指す」というビジョンが明確だった。だから見ているほうもワクワクできたんだよ。最後は結局「日本に南米スタイルは無理」という現実を突きつけられて終わったけどね。
ただ、森保さんも世界トップの技術を仕込んでくれば大化け間違いなし。勝負勘が鋭い人なのは、目指すスタイルがわからないと言われながらも本大会までの戦績は歴代監督中随一だったのを見てもよくわかるし、土壇場で選手の進言を取り入れて互角の勝負に持ち込んだスペイン戦での柔軟性も勝負師ならではだ。だから、もし引き合いがあるのであれば今のうちに、日本の次期監督は強豪国を指導した有名な監督に任せて自分は海外のどこかのクラブの監督になって、もっと経験を積んだらいいと思う。頭のいい人だから、きっといろんな技術を仕入れて大きなビジョンを持って帰ってくるだろう。
そんなわけでワールドカップも全日程が終わり、今年も残すところあと少し。皆さんは来年のビジョンをどんなふうに描いているでしょう。直で会ったらぜひ聞かせてくださいね。
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vol.74 サムライブルーの今大会の戦いぶりから中小企業が学べること
(2022.12.21)
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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