宇都宮岩曽店で何があったか
サトカメ伝説の裏エピソード
どういうことかというと、3社の中でも一番地元のコジマが、売れる商品は手当たり次第に扱って競合店を片っ端から叩きのめすことでのし上がったコジマが、当時、カメラにだけは手を出さなかったんだ。なぜだと思う?
ある日のことだ。岩曽店に1人のご婦人がやってきた。その日私は前の晩に飲み過ぎたせいで朝から気分がイマイチで、カメラを買いに来たそのご婦人に対して、今思っても失礼な、適当な接客をしていた。で、カメラをご購入いただいて、保証書に名前を書いてもらうときに、そのご婦人が「小島**子」と書いた。
「小島」という字を見た瞬間、「ん! んんん!!!」と無意識に目が行ったのを今でも覚えてる。「もしかしてコジマの社長の奥さん?」と思ったんだよね。それから咄嗟に態度を改めて、最後の退店まで最高に丁寧に接客して送り出した。
そして翌日。そのご婦人が店に写真プリントを頼みにいらっしゃった。で、フィルムを現像して写真を見たら、雑誌で見たことのあるコジマの社長が、ご自宅で、100店舗達成のお祝いのケーキのろうそくの火を、吹き消しているところだったんだよ!
当時はコジマが一番イケイケどんどんだった頃だ。社長は宇都宮商業高校のOBで、私の大先輩。しかも下の名前が「勝平」で「勝人」と似ていることもあって、私はコジマのファンだった。憧れの小島勝平社長の奥様とわかったら、そこからはもうスケベ根性丸出しだ(笑)。背筋を伸ばして挨拶した。
「昨日は大変失礼をいたしました。私は宇都宮商業高校の出身で、小島勝平社長の後輩です! 名前も勝人で、小島社長と一字同じです! 小島社長に憧れています! どうぞよろしくお伝えください!」。奥様はうふふと笑って「言っておいたわよ」と一言。名札に「佐藤勝人」とあるのを昨日見ていたんだろう。それで家に帰って、おもしろいカメラ屋さんがいたわよ、あなたと名前が似ててね・・・みたいな話をしてくださったんだろう。それを機に時々小島社長自身も来店してくれて、家族ぐるみで上得意様になってくださった。
小島社長が来るときはおかしいの(笑)。黒塗りの超高級車が店の前に停まる。一瞬ヤクザかと思ってビックリするくらい。そうしたら後部座席の扉が開いて、ステテコ姿の小島社長がちょこんと出てきて、トコトコトコーッと店に入ってきて、カウンターにトン、とフィルムを置いて、トコトコトコーッとまた車に帰っていく。名前も何も言わない。店員は「あ、あ、あ・・・」と追っかけそうにするのを、私が「いい、いい、わかってるから」と制止して、車が走り去っていく。いつもそうだった(笑)。あそこまで偉くなっちゃうと、世間の買い物や受付の手順なんて知らないんだろうね。
コジマがカメラを扱わないのは当時「コジマの七不思議」と噂されていて、私はソニーの偉い人たちから「なんでだろう」と真面目に聞かれたこともある。そのときは「ウチの上得意様だもん。あの社長は母校の大先輩だから、ウチの店を可愛がってくれてるから」。と教えてあげたものだった。ただ、小島社長の息子さんに「カメラってそんなに売れるの?」と聞かれたときに、「すごいですよ、メチャ売れますよ」と調子に乗ってうっかり答えちゃったのは、マズかったなぁ(笑)。
それから社長が亡くなられ、コジマがビックカメラの傘下に入って経営陣がすっかり入れ替わってからは、私が知っているあの温かいコジマは、もうありません。7月31日をもって宇都宮岩曽店を閉じるにあたり当時のコジマ創業家とのことを思い出して、やっぱり、事業に関しても、巡り合わせというか、人の縁というものは、あるんだろうなあ・・・と思いました。
ただの猿真似を美化するな!
開発はプロセスに本質がある
本格始動する前だから詳しい説明は割愛するが、とにかくいい商品だ。ジャンル的には「足踏み健康器」と言えばいいのかな。社長が3年がかりで開発を進めたもので、今までつくった試作品の数も10では済まない。歩くことによる健康法の第一人者で青栁幸利さんという世界的に有名な先生がいて、その方にも非常に評価されたとのことだ。
最初は私も、「こんな単純な製品に3年もかかるの。発明ってのは大変だねぇ」と半分呆れていた。でも、和歌山勝人塾でウチの新商品である「サトーのベタ焼き」の話をしたときのことを思い出して、いや違うぞ、と思い直した。連載第20回にも登場した藤原さんに言われたことを思い出したんだ。彼は私にこんなことを言った。
「佐藤さん、ウケるからつい、目の前にアルバムが落ちてきて「サトーのベタ焼き」を思い付いたときのエピソードばかりみんなに話してしまうと思うけど、それだと生みの苦しみとか努力の部分が伝わらないよ。商品開発なんてそんな程度でできるんだ、と勘違いさせてしまうよ。だからその前の過程を、社内の反対にあったことなんかも含めて、何にどう悩んでそれをどうクリアしていったかという話もしたほうがいいよ」。
健幸ライフの商品を見て、その横にズラーッと並ぶ試作品を見て、藤原さんの言うとおりだと思った。物でもサービスでもそうだが、新たに生まれたものの本質は、完成品だけ見てもわからない。ニュートンだって万有引力の法則を発見するまでには何年も何年も物が落ちる原理について考えていた。考え続けたからこそ、ある日リンゴが木の枝から離れて落ちるのを見た瞬間に「これだ!」とわかったんだ。
だから私は、「成功例を真似るのが成功の近道だ!」とか「成功したビジネスモデルに学べ!」とかいう類の薄っぺらなセリフを聞くたびにムカつきます。学ぶことは結構。真似るのもいいだろう。が、それはコピーしろという意味じゃない。松下幸之助も欧米の先行品を大いに真似たが、常に改良して別物に生まれ変わらせた。その努力のほうがむしろその商品の本質だった。
健幸ライフの商品開発は3年がかり。「サトーのベタ焼き」も形を得るまでは数年がかりだ。物事が現象する前のプロセスの価値を無視し、無駄とか努力とか失敗の創造性を否定する昨今の風潮に、私は疑問を感じます。流行りのコンサルタントがその類の教訓をたれるたびに「そんなんじゃねえんだよ、ビジネスなめんなよ」と心の中で思うのは、皆さんもそうだと思うんだが、いかがですか。
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vol.22 スタートの店の閉店(移転統合)に思うこと
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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