理性じゃなくハートで対応
閉店間際の現像プリント
ん? ・・・これ、もしかして感謝状ってやつか、ってわかったら、なんとなく私もそのときのことを思い出してきた。
私がまだ1号店の店長だった頃だ。24か25歳頃かな。忙しくてねぇ。ヒーヒー言いながら店を回していたある日、お客さん対応に困っている雰囲気のスタッフがいた。何々、どうしたの、と近寄ったら、「こちらのお客様がどうしても現像プリントを今日中に仕上げてもらいたいらしくって」という。でももう閉店数分前で、「あ、お客さん、ごめん。ホントごめんなさい。もう機械も電源落としちゃって、今日は現像はもう無理だ。仕上がりは明日になっちゃう。そのかわり朝一番で仕上げるから、ごめんね」と私もお帰りいただこうとしたが、お客さんの彼が「結婚」とか「新婚旅行」とか言っている。よくよく聞けば、今日結婚式を挙げてきたばかりで、明日の早朝、新婚旅行に出発するというじゃないか。新婚旅行前に式の写真を2人で見たいという話だったんだよ。
私は「よっしゃ! わかった。おい電源入れろ。受付時間終了? いいから入れろ!」とスタッフに指示して、お客さんには「お客さん、じゃあ1時間後に来て。それまでに現像しとくから、店は閉まっているけど開けとくから」と伝えた。スタッフは「特別扱いじゃないですか」と言って不満そうだったが、ここはもう理性とか決まりじゃない、ハートで動く場面だった。そして仕上がった写真を取りに来たお客さんに「結婚おめでとうございます! 新婚旅行気を付けて行ってきてね!」と駐車場で手を振りながら笑顔で見送ったことを思い出した。
それから20数年後。手紙を渡されたアソシエイトが聞いた話によれば、お客さんのほうもあの夜のことを今でも鮮明に覚えていたらしい。だからそれ以来20数年間、家族でずーっとサトーカメラを利用してくれていた。あの夜のほんの一瞬だが私たちの対応が心に届いていたんだろう。ありがたいことだ。
新人看護師616人に送ったエール
「人のために」と言ってくれ!
よしわかった、そういうことなら――と壇上に上がって、私は中学生3年のときの自身の自殺未遂の体験から話し始めた。
「宇都宮の駅前のマンションの屋上で、手すりの外側で身を投げ出した瞬間、手が無意識にパッと後ろに伸びて、私は死なずに済みました。あのとき手が伸びたのは、怖かったからではない、自分が愛情をもらって育った子どもだったからだと思います。私が幼い頃にもらった愛情は3つありました。1つは親の愛情。2つめは通っていた幼稚園の先生の愛情。そして3つめが、当時の呼び方をさせてもらうけど、看護婦さんの愛情でした。」
「私は幼稚園に通っていた頃に入院したことがあります。大部屋で周りは大人の患者ばかり。そのときに看護婦さんがすごくよくしてくれて、かわいがってくれました。それがうれしかったし、寂しかった気持ちが救われました。人間はことわざに“三つ子の魂百まで”とある通り、子供の頃に受けた愛情が大きくなってからもその人を支えています。私が受けた愛情の1つでも欠けていたら、あのときの看護婦さんの対応次第では、私は今こうやって皆さんの前で話をしていたかどうかわかりません。」
「今の時代は働くことの意味が、自分の生活を充実させるためとか、仕事を通じて自己成長やキャリアアップを図るためとか、全部自分中心になっています。でも、悪いけどここにいる皆さんには、嘘でもいいから「人のため」と言ってほしい。人を助けるために働いていると思ってほしい。医者は理性で患者を診るのが仕事です。患者は基本的に我儘で感情的です。両方と付き合わないといけない皆さんはこれからたくさん理不尽な思いもすると思います。でも、看護師は絶対に医者の使いっぱしりなんかじゃありません。医者は体は治しますが、患者の心を救うのは看護師です。弱っている患者さんに愛情を注いで生かしてあげられるのは看護師だけです。現に今私が生きているのはあのときの看護婦さんのおかげです。看護師というのはそういう特別な意義のある職業なんです。そのつもりで、誇りを持って、これからそれぞれの職場で仕事をしてほしいと思います。」
――という話を90分。終わると満場の拍手だった。協会の常任理事も喜んでくれた。
万引き犯かお客様か
店は性善説を貫け!
十数年前の話だが、サトーカメラで万引きを捕まえた店長がいた。万引きしたのは中学生で、その日は家族と一緒に店に来ていた。店内でお父さんお母さんと離れてからの様子がなんとなくおかしい。怪しいぞ、やるぞやるぞ・・・と思って当時の店長は棚の陰に隠れて見ていたそうだ。そのうちにその子は万引きをし、両親と一緒に店を出たところで店長がとがめて捕まえた。その一部始終を手柄のように話す店長に、私はこう言いました。
「お前はなんということをしてくれたんだ。そのご家族はもう二度とうちの店に来ないだろう。また、お前はその子が怪しいと思ったときになぜ近寄って声をかけなかった。『これいいでしょ』とか『触ってみる?』とか、いくらでも言いようはあっただろうに。うちは『8つの行動指針』の第一に『お客様はいつも正しい、お客様から学ぶこと』と定めているだろ。“お客様”というのは地域にいる全ての人たちのことだ。万引きをしそうにしていたら客じゃないのか? その子に万引きをさせたのは誰だ? 店だろう。その子を『地域に住む大事なお客さんの一人』から『万引き犯』にさせてしまったのは俺たちなんだよ。勘違いするんじゃない。」
読者のなかには店を経営されている方もいるだろうから、こんなお恥ずかしい話も何かのヒントになればと思って、あえてしました。私は、地域に根ざす店というものは何があっても性善説を貫くべきものだと思っています。皆さんはどう考えますか。
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vol.21 ハートで動くこと。心を動かすこと。心に向き合うこと。
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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