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目当ての成分が入っていれば値段は問わない

 
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jessie / PIXTA
化粧品の「成分買い」がトレンドです。メーカーも呼応して、「セラミド配合」「ビタミンC誘導体高濃度配合」というように、特定の成分を前面に出した“成分推し”の商品展開を増やしています。
 
ナリス化粧品が今年行った調査では、スキンケア化粧品を購入する際、価格の次に確認するのが成分表示。調査対象全世代(20~59歳)の46%が成分を確認しています*1
 
美容に興味がある度合いを4段階に分けた場合には、「とても興味がある」と答えた人の62%が成分を確認し、「価格」67.4%との差も5.4ポイントにまで縮まります。興味度も世代も分けない調査対象全員に聞いたときの差は23ポイントなので、美容に興味がある人たちの間では、「目当ての成分が入っているのであれば値段は問わない」傾向が強まっているようです。
 
化粧品販売大手のアイスタイルによる昨年11月の調査でも、直近半年間における意識や行動の変化として、約半数が「成分を意識してスキンケア化粧品を選ぶことが増えた」と回答したといいます。
 
 

成分買いするときの情報源

 
シャンプーや美容家電を企画販売するI-ne(アイエヌイー)の分析では、「化粧品開発者や美容外科医などの専門家や美容インフルエンサーによる成分の発信がトレンドを作った」とのことですが*2、実際はどうなのでしょうか。
 
PR TIMESで見つけた別の記事によれば、「成分買い」するときの情報源には、世代ごとに明確な特徴があるようです。
 
50代にとっての情報源1位は、メーカーの広告(テレビCMやネット広告等)。2位が知人・友人・家族等のクチコミ、3位がクチコミサイト。これが40代になると、1位がクチコミサイト、2位にYouTube、3位にSNS投稿(Instagram、X、TikTok等)が入ります。30代になるとSNS投稿がいきなり1位に来て、次にYouTube、クチコミサイトの順です。なお、20代の情報源は30代の情報源と一緒です*3
 
この結果は、もちろん、世代論で語ることも、文化論に展開することも(例;「情報技術の進化が人々の世界観に及ぼす影響」)、単にマス広告とマスメディアの衰退で語ることもできますが、なにもインフルエンサーだからマスメディアに出ないというわけではありませんし、専門家や開発者の特長解説は昔からありました。
 
では、なぜ、ここに来て成分買いがトレンドになったのか?
 
 

トレンド要因の一つは本質志向

 
二つ要因があると思います。一つは本質志向。もう一つはタグ付け文化です。
 
先に本質志向について。ヘアケアブランドの「TSUBAKI」などを展開する資生堂系のファイントゥデイ(元エフティ資生堂)によると、今、日本では「自分に必要かどうかという本質を見極め、効率的に取捨選択をする意識」が加速しているそうです。
 
分析では、「トレンドを生み出す世代であるZ/α世代を筆頭に、SNSネイティブだからこその本質への気づきや、SDGs・エシカル志向が考え方として定着」し始めており、「自分に必要なものを選択して効率的にケアしたい」が約68%、「価格に関わらず、効果の高い商品はあると思う」が約67%といったデータも出ているとのこと。
 
それらを受けて同社は、成分買いを「本質志向への入り口」と位置付けています*4
 
言われてみればなるほど。例えば、先行世代からは時にやり過ぎと感じることもあるほどの効率志向(コスパ、タイパなど。“風呂キャンセル界隈”もこの範疇?)は、見方によっては本質志向と見えなくもありません。
 
また、情報化社会の進展で、例えば著名ブランドも実はOEM生産で回している、といったようなことを一般の人たちも周知している時代に生まれ育った「情報化社会ネイティブ」である彼らは、表面的な演出や“いかにも”な情報には、案外踊らされなくなっているのかもしれません。Z/α世代に本質志向が見て取れるとしたら、そのあたりも関わっていそうです*5
 
 

もう一つの要因――タグ付け文化

 
もう一つの要因であるタグ付け文化に関しては、コトバ遊びのようですが、「文化=分化」ともじると、事の次第が見えてくると思います。
 
分化は分節。あるいは、もっと平たく、「切り抜き」と言ってもいいでしょう。
 
成分買いをするときの情報源の話に戻り、今仮に、情報源の片方の極をメーカーの広告(テレビCMやネット広告等)、もう片方の極をSNS投稿(Instagram、X、TikTok等)として両者の違いを考えると、前者に関しては「パッケージの様態で流通する」という特徴が指摘できます。
 
CMはクリエイターがゼロからつくります。かつ、被写体の動きも音声もテキストも全部そろって一つのCMです。ネットで見てもそれは同じです。
 
対してSNS投稿はUGM(User Generated Media)です。基本的に要素の切り抜きと再編集でできています。かつ、流布する際はテキストで紐づいて流布します。
 
今時SNS投稿はほぼ動画なのになぜ「テキストで」なのかは、コンテンツ自体は一つのパッケージでも、それを構成する一つひとつの要素には必ずテキストでラベリングがされているからです。つまり、タグ付けです(例;#セラミド、#ヒアルロン酸、#コラーゲン、etc・・・)。
 
成分買いはこの、「要素がテキストで断片化・分節化されており、それぞれが単独で分散・流布できる」というSNS投稿の特徴と、相性がいいのではないでしょうか。
 
 

化粧品市場の未来像

 
成分買いが定着した化粧品市場はこれからどうなっていくのか。参考になりそうな例があります。2015年から制度が始まった「機能性表示食品」の世界です。
 
ローズヒップ由来ティリロサイド、サラシア由来サラシノール、L-オルニチン―塩酸塩、グロビンペプチド、etc…等々の、余程興味がないと聞いたこともないような成分から、アントシアニン、ルテイン、グルコサミンなどの、なんとなく聞き覚えがある成分まで。さらには、中鎖脂肪酸やプラズマ乳酸菌などといった、すっかり耳に馴染んだ成分もあります。ドラッグストアに行って、意識して「健康食品・栄養食品・サプリメントコーナー」の棚を眺めてください。“成分推し”のオンパレードです。
 
機能性表示食品はまさに成分買いの世界。どんなマイナーな機能性関与成分にも、「これが入ってないとダメなんだ! なのよ!」という熱いカスタマーロイヤリティが成立しています。記憶に新しい例だと、メジャーな成分ではありますが、少し前に、“ヤクルト史上最高密度の乳酸菌シロタ株”を謳ったY1000が、コンビニやキオスクの棚から軒並み消えるほど、世の多くのオジサマ方の支持を集めました。
 
機能性表示食品はその特性上、比較的高年齢層の顧客で市場が占められており、なので情報源もCMやテレビショッピングが主流です。ネットで広がる場合も、通販サイトやクチコミサイトがせいぜいだと思います。
 
ですが、今のSNSネイティブ世代が高年齢層になる頃には――? そう考えると、機能性表示食品市場の変化も見えてきそうですね。
 
 
*1 化粧品購入時に確認すること、価格の次に成分(PR TIMES 2024年7月3日)
*2 「成分指名買い」肌ケア浸透中 ビタミンCやレチノール(日経MJ 2024年8月18日)
*3 美容トレンドで話題の「成分買い」。年代別の人気成分と、「成分買い」経験者が語る失敗体験とは?スキンケア商品を「成分買い」する際の注意点をスキンケア商品開発者が解説。(株式会社LAMELLIA JAPAN  2024年4月23日)
*4 全国発売前にすでにSNSで話題 – その投稿数は4.7万件以上に!新ヘアケアブランド「+tmr(プラストゥモロー)」 誕生!2月7日より全国で発売開始!(PR TIMES 2024年2月1日)
*5 ただし、情報を読む能力をめぐっては、リテラシーがある人とない人で二極化しているとされており、今後の社会課題だと思います
 
(ライター 横須賀次郎)
(2024.10.2)
 
 

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