ITで生産性と品質を高める <其の三>
繰り返して言うが、技術・商品・品質の開発と追究は、コストとは相反関係にある。したがって、開発課題のソリューションとコスト削減のためには、業務オペレーションを仕組み化し、カスタマイズITシステムで全体最適化を図り、そのデータベースを蓄積すべきである。さらに、独自の情報処理をそこに加え、全業務を分析・解析することで、会社の弱みや強みの傾向を発見したり、予測を立てられるようにするべきだ。しかるのちに、業務・生産コストを削減し、削減分を開発に回すのである。
つまり、コストパフォーマンスと研究開発の二律背反を同時進行させなければならない。非常に難しいことではあるが、この二つの課題に真剣に取り組んでいる会社が、最後は勝つのである。
くどいようではあるが、もう一度復習しておこう。
企業が永久に存続するためには、前章 (2009年7月~11月号) で書いたように、GMのようにならない技術研究開発の手を打っていくことが重要課題である。なぜなら、ITは重要ではあるが、ツールの域を超えないからである。
合理性と人間性を磨いて両立させる
社内のオペレーションを全体最適化できるカスタマイズシステムを持つには、1月号でその必要性を説いたように、全業務を洗い出して仕組み化することが必須である。それには、プロセスの工程分析をするベテラン、スペシャリストが必要だ。
しかし、多くの中小企業がここで間違える。その作業をシステムエンジニア(SE) に求めてしまうのだ。システムエンジニアはシステムのエンジニアであって工程分析の専門家ではなく、業務を仕組み化するための知識を持っていない。知識を持っているのは各企業のトップ、もしくは担当役員か部門長である。ここを錯覚してSEや外部のシステムベンダーに丸投げしても、自社の業務オペレーションに合致・融合したITシステムは完成させられるはずがない。
この問題も、いく度となく書いてきた。導入・開発コストをかけただけでシステムがお蔵入りとなり、何の役割りも果たさずに終わるという問題である。
不完全なシステムを導入すれば、次の工程にバトンするための二次、三次入力が発生する。二次・三次入力は入力ミスを誘発し、その箇所を見つけるのは至難のワザだ。
コンピューターであるが故に一ヶ所のつまらないミスが後の工程を狂わしていても誰も気づかず、間違ったまま工程が進んでいく。ミスが発覚したときは後の祭りだ。そのような事態が重なるうちに各部門や担当者間に不信感が生まれ、社内コミニュケーションが阻害される。これを食い止めるためには入力履歴の記録など追加のセキュリティシステムが必要となるが、それもまた、完全なものである保証はない。これでは企業ガバナンス (内部統制管理) など望むべくもない。
便利である反面、ミスが起こった際の結果は非常に恐い。それがITによる一元管理システムというものだ。しかしながら、リスクを恐れていたのでは企業には進歩もなく、成長・発展もない。トップの決断と実践力が試されるゆえんである。
問題をこのように考えていくと、社内の業務プロセスとオペレーション・フローの的確なデザインが何よりも先決問題であることが分かる。それには、最高経営責任者自らが、業務オペレーションの全体最適化への取り組みに対し、果敢に挑戦する覚悟を決めなければならない。厳しいことかもしれないが、それがトップの仕事というものである。
カスタマイズされたITシステムの導入に成功すれば、見える化 (可視化) によって、すべての業務のトレースが行われて責任の所在が明確になり、次の工程を考えた仕事の仕方ができるようになる (暗黙知の排除 ボトルネックの解消)。
その結果、各自のモチベーションが確実に上がる。経営者は、それが技能力や人事考課と結びつき、正確に収入に反映されるような仕組みをつくるべきだ。つまり、誰にも分かりやすく、上司の暗黙知が介在せず、適正な評価がなされるようにすべきである。
しかしながら、こういった合理性だけを追いかけてはならないのは言うまでもない。合理性の反対側にある感性・精神性を合わせて追求しなければならない。
これらを総合して言えば、「世の中の役に立つ」 人間を目指すことである。合理性と人間性が磨かれることで、企業人として目指すべき道のりの半分以上が達成されたことになる。
なぜなら、ITシステムを設計して作るのも、使うのも、人間だからである。ITは、ツール以上にはなり得ないとして、この章を結ぶ。
次章は、ITについての内容を念頭におきながら、「知的資産経営」 のテーマへと進む。