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 昨年12月からの第3章では、生産性と品質を高めるうえでITが果たせる機能と限界について、3回に分けて考えてきた。それを踏まえ、第4章からは 「モノからコトへ」という経済の潮流において「知的資産経営」がいかにイノベーションを推し進めるかを述べてみたい。
 
 

カタチのない「コト」に取り組まなければならない

 
 アメリカの象徴と言えるGMが、なぜ、経営破綻に追い込まれたのか。これまでの章で、経営は研究開発分野が重要な根幹をなすことを説いてきた。
 ところが、行政刷新会議が、無駄遣いをなくすという大義の元に研究開発費まで削減するという・・・。確かに無駄遣いは締め出さなければならないが、すべてを無駄として、「ためのため」の削減をやるとGMのようになってしまわないか、新しい技術やサービス、さらには人材の育成も憚られるのではないか・・・と私は危惧している。
日本のモノづくり、つまり「技術立国」たるゆえんである得意分野が崩壊すれば、日本経済は大きな痛手を被る。メイド イン ジャパンは商品・技術品質において、今なお世界ブランドの頂点に立っているのであり、この基盤が揺らぐと国家存亡の危機に陥ると言ってよい。
 
 ところで日本国内を見回してみると、無いモノはないというくらいに商品が溢れかえっている。豊穣であり、豊満かつ豊潤である。しかしながら、心の豊かさという側面においては貧弱であり、脆弱であり、薄氷を踏む思いで歩いている感がしないでもない。心の豊かさを計る尺度もなければ定義もないことが、よりいっそう不安を掻き立てているのは言うまでもないだろう。
 戦後60年、我々はモノという物質文明を追いかけて、一目散に、脇目も振らず、走りに走りぬいて来た。そろそろ立ち止まって、日本の未来の「あるべき姿」をジックリと見直すところに達している。
 たとえば、文明を物質的な繁栄と見ることができ、文化は心=精神的な進化と捉えることができる。そのような意味で、心のありようが幸せ感を生み、その幸せ感は、美術や音楽という芸術に表現されて発展する。
 文化は、時間軸を縦軸、空間を横軸として、互いに磨きあいながら地域に根ざしていく。そして地域の文化は、より以上の時間の経過によって、空間を大きく超えて地球規模的にグローバル化していく。
 こう考えていくと、そろそろ、マスマーケットによるマスプロダクション、すなわち大量生産から大量消費に流れる経済を卒業して、地球環境保全と相まった「次の・新しい経済」が始まっても不思議ではない。
 時代は「上質なものを・大切に・長く愛用する」方向へと移り変っていく。その際は、本当に個人の嗜好に沿うものであるかどうかがこれまで以上に大切な要素になるだろう。それが新文化価値の創出につながると予測することができる。今はマスからパーソナルへの曲がり角であるかもしれない。
 このことを前提に社会の動きを考察していくと、「モノからコト」に重点が移されていくのは決定的である。つまり、次の時代の経済を支えるには、その中心において、サービスというカタチのない「コト」に取り組まなければ、「日本の未来はない」と言ってよい。
 そのような意味で、「モノからコト」という流れは別々に考えるのではなく、「モノとコト」のコンバージェンス(融合)として考えることが必要である。モノを販売するうえにおいても、カタチのないサービスである「コト」が必要不可欠になる。
 では、「コト」のサービスとは ・・・・具体的に何を指して言うのか?サービスの本質を見極めてサービスを定義づけ、サービスの「コト」を考察・検証できるようにするためには、サービス産業がもっと法的に整備され、国のサービス産業指針が明確にされなければならない。したがって、経済産業省でサービス産業の強化施策は行なわれているものの、実際に業を営むにあたり生活関連サービス業のほかサービス産業の多くは厚生労働省や国交省、文科省など、経済産業省以外の管轄(監督・管轄)下にある。このために、サービス産業の経済的効果や実態を調査し、考察・検証する有効な手段を見つけることができない。
 しかし、この課題をクリアするために法整備ができれば、サービスの付加価値を数値表現できる可能性が生まれる。そうすれば、暗黙知を可視化(見える化)して形式知に変えて、定量・定性表現が可能になる。
 カタチのないサービス商品であっても、科学的・工学的に捉えられなければ産業になりえない。この点を見直さない限り、サービス産業の本質的な課題解決は見えてこない。
 
 
 

橋本英夫 ハッピー イノベーション基礎学

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