学生から社会人まで、多くの人を啓発してきた教育学者の齋藤孝さん。その 「齋藤メソッド」 は具体的かつ論理的、思わず 「はっ!」 とする気付きが満載です。齋藤教授が語る、仕事品質底上げのための集中講座。連載第5回は、「チームで仕事をする」 ことについて。
現代の仕事はチームスポーツ
私は、人は 「チームの一員としてちゃんと働けた」 という経験によって成長すると考えている。現代は一人で頑張り過ぎるとかえって全体を害することが多い時代だ。仕事もしかり。職場の誰かが遅いため次の人が待ってしまって全体が滞る場合には、自分の業務を調整してその人のフォローに入る。――仕事がチームスポーツになった今、この意識が一人ひとりに求められている。
ちなみに、意識は習慣化しないと身に付かない。だから、たとえば付箋に 「今日チームに対してできること」 をいくつか書き、机の上など、自然に目に付く場所に貼り出しておくといい。その 「チーム」 も、自分の仕事を渡す次の人は社内の人間とは限らない。顧客の場合だってある。そうやってチーム全体の動きから逆算して業務に優先順位をつけ、段取りを組むべきだ。
「仕事燃費」を意識しよう
そこで出てくるのが 「仕事燃費」 という考え方だ。かつてのマルクス経済学の時代、労働は 〈時間〉 で計るものだった。現代は 〈質〉――「単位時間あたりに何を・どれだけ達成したか」 で計る時代だ。産業全般において労働強度が高まり、トータルの仕事量も増えているが、いっぽうで、効率を確保するためにみんな同じ場所で・同じ時間稼動する必然はなくなっている。
たとえば私の場合、テレビの番組づくりの仕事をメールで進めることがある。その際、チームの次の人に何かを送ったり、チェックして戻したりといった作業は、10分で次の人に送ることも、終日自分のところに抱えることもできる。では後者の人が多いほうがより手間隙をかけた(ように見える)から良い番組をつくるかといえば、そうでもない。逆に聞こえるかもしれないが、クリエイティブな仕事になればなるほど、一人ひとりは “こなす” 働き方が求められている。そんな時代なのだ。
そもそも仕事とは、他の人の役に立ち、喜ばれて報酬をもらうから仕事なのである。自己実現のために働くなどというのは本末転倒だ。さらに言えば、現代は顧客もチームに引き入れるほうが良い結果を生みやすい。消費者マーケティングは顕著な例だが、投資顧問業などでも、「現時点で一番良い投資商品は何か」 といったことを顧客と一緒に考える誠実さが求められているようだ。「今回これを選択できて良かったですね」 と後から一緒に振り返れることが、次への信用につながるのである。
「御用聞きの精神」から成果を増幅
これは 「御用聞きの精神」 とも言い換えられるだろう。私は大学に出勤して事務局に行くと、「何かやっておいてほしいことありますか?」 と聞き回るのが習慣になっている。すると 「そういえば先生、あの件・・・」 「あ、あれはこうで」 みたいな感じで、確認や調整がどんどん片付いていく。普段から気軽に聞き合える雰囲気をつくっておくことがポイントだ。直接会ったその時・その場で聞く=片付けてしまうこと。このライブ感によって相手も自分もテンションが上がり、全体の仕事がはかどるのである。期限のゆるい用件をCCメールでいくら回していても仕事は進まない。
御用聞きの精神で相手のリクエストに応えていると、互いのストロングポイントを活かしあう動きが自然に始まるのも良い点だ。チームが成果のアンプリファイアーになるのはそんな時である。私は大学の業務でも、よく 「これやっておくからこれを頼むね」 という感じで3~4人のワーキンググループを組む。細かい連絡が得意な人は連絡係、資料作成が得意な人は資料係、教授会での発表が得意な人はその係、というふうに。そうすると、もともとが苦にならないことだから、各自が量的にも“増し増し”で、しかも気持ちよく仕事を引き受けられる。結果的に成果が増幅される。まさにアンプリファイアーなのだ。
応答――活気を生むトリガー
そうやって互いの働きを認めたら、積極的に声をかけ合おう。「あれやってくれて助かりましたよ」 といった何気ないお礼や、「あのメールのタイミング、最高でしたね」 といった評価。何でもない小さなことでいいのだ。実は今、そういった前向きな応答を言葉と態度で表に出して周りを乗せられる人が、非常に求められている。大学で毎年就職活動を見ていても、そうやって周りを乗せられる学生はすぐに就職が決まっていく。
仕事でネガティブになってもしょうがないのだ。私も、テレビの番組づくりでピンチになると、「もうアイデア出すしかないね!」 と開き直るのが常だ。「ピンチの時はアイデア出るもんだから」 「だーいじょうぶ大丈夫」 と、努めて明るく前を向く。そして出てきたアイデアを褒めまくる。お互いに褒めまくる。手を叩いての拍手も忘れない。すると火が点いてきて、前より良くなって終わる。そんなケースが本当に多い。
最後に、発言の仕方について。基本は誰かが言ったことに乗っかって発言すること。絶対に 「NO」 と言わず、とにかく相手のアイデアに乗って次のアイデアに行く。違う意見が出れば、「その角度もありですね!」 「その角度だったらこれもありですね!」 というふうに展開する。これは同調しているように見えて、“沿いつつズラす” というディベートの高等テクニックでもある。相手の思う結論にされると困るような時こそ、「それもありですね」 と一度沿うようにしよう。それが職場に活気を生むことにもつながる。
齋藤先生に聞こう! ~仕事品質底上げ講座~
vol.5 チームは成果のアンプリファイアー
執筆者プロフィール
齋藤孝 Takashi Saito
明治大学教授
経 歴
1960年生まれ。静岡県静岡市出身。東京大学法学部卒業。同大学院教育学研究科博士課程などを経て、明治大学文学部教授。専門は教育学、身体論、コミュニケーション論。ベストセラーになった 『声に出して読みたい日本語』(草思社・毎日出版文化賞特別賞受賞) をはじめ、『コミュニケーション力』 『教育力』 『古典力』(岩波新書)、『現代語訳 学問のすすめ』(ちくま新書)、『頭が良くなる議論の技術』(講談社現代新書)、 『人はチームで磨かれる』(日本経済新聞出版社)など著書多数。専門の教育学領域以外にも、身体を基礎とした心技体の充実をコミュニケーションスキルや自己啓発に応用する理論が「齋藤メソッド」 として知られ、高い評価を得ている。