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物語の中で、美咲や香織にどのような過去があったのか、詳しい説明はされていない。しかし、彼女たちの、生きることに対する息苦しさは、手に取るように感じることができる。
 
 

男たちの価値観は腐敗している

 
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この作品では、一人ひとりの人生や背景を具体的に説明し、例えば美咲の人生には、こういう過去があったから今はこういうことになった、香織はこういう人であったからこういう人生を送ることになった。どちらが幸福で、どちらが不幸か――などということは描いていません。仮にそうしてしまうと、観た人にとっては、「これは私の人生ではない」と感じてしまうかもしれないですからね。
 
コロナ禍よりも以前から、世の中を漠然とした不幸感のようなものが覆っていたと思います。そこに新型コロナという具体的な、誰にとっても共通の不幸スパイスが降りかかってきたおかげで、その不幸感だけでなく、世の中に対しての納得のいかない雰囲気が漂ってきているように、僕には感じられる。それは、『女たち』のテーマを決めたときから感じていたことで、じゃあその根底には具体的に何があるのかというと、社会を牛耳ってきた男たちの価値観の腐敗だと思うんです。
 
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卑怯なことをしておきながら事実を隠蔽し、やったことをやってないと言い続けながら、権力の座に居座っている者たち。それを糾弾する力のある抵抗勢力もなく、人間とはこうあるべきというような価値観が崩れた社会になってしまっている。そんな腐りきった男の価値観の中で生きる女性たちも、漠然とした息苦しさを感じているはず。
 
『女たち』は、そんな息苦しさを忘れて一息ついてもらえるような作品であればいいなと思います。ジャーナリストの伊藤詩織さんがこの作品にコメントを寄せてくれたように、「仲間がいる」と感じてもらえる映画であればいいですね。
 
他人とのぶつかり合いがあって、そこから感じる息苦しさや、社会から離れたところで生きていたいという思いは、誰もが心のどこかで共通して持っているはず。この作品からはその部分を感じて、共感してもらいたいです。鑑賞した人それぞれの気持ちに寄り添う何かがあって、「少し気持ちがほっとした、明日も頑張ろう」と思ってくれたら、この映画の役割が果たせたことになるのではないかと思います。
 
 
 
 
奥山和由(おくやま かずよし)
1954年生まれ 東京都出身
松竹株式会社で20代後半からプロデューサーを務め、『ハチ公物語』では大ヒットを記録。その後も『その男、凶暴につき』、『GONIN』など話題作を手がける。1998 年チームオクヤマ設立。第一弾 の『地雷を踏んだらサヨウナラ』は、ロングラン記録を樹立した。近年は『銃』や『銃2020』を企画・製作したほか、 大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館-キネマの玉手箱』でエグゼクティブ・プロデューサーを務めるなど精力的に活動を続ける、日本を代表する映画プロデューサー。
チームオクヤマ25周年
「女たち」
©「女たち」製作委員会
配給 シネメディア、チームオクヤマ
6月1日(火)TOHOシネマズ シャンテ他全国公開!
公式サイト
https://onnatachi.official-movie.com/
 
 
(取材2021.5月)

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