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スペシャルインタビューSPECIAL INTERVIEW

名優が明かす魅力アップの秘訣
輝きを増していくための人間力

 

世情とマッチした「親しみやすさ」

 
 「マツケンサンバ II」 がヒットしたのは、2004年の頃。お笑いブームが過熱し、『冬のソナタ』 を皮切りに “韓流” という言葉も飛び交った。エンターテインメントが華やかに彩られていくいっぽう、オレオレ詐欺の多発や年金法案の強行採決、イラク戦争の余波で現地在住日本人が人質になるなど、世情の不安がぬぐえない時期でもあった。そんな中で、人は珠玉のエンターテインメントに何を求めたのだろうか。
 それは松平氏いわく 「親しみ」 だった。
 
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「僕の歌自体は、注目されるかなり前からマツケン音頭とかマツケン小唄とかいったものがあったんです。そのうちに 『マツケンサンバ I 』 ができて、90年代中頃に 『 II 』 になって舞台で歌っていたのですが、それがどうして10年後にもなってブームになったのか、自分でもよくわかりませんね(笑)。 でも、時代劇の扮装をしているのにノリがいいこと、コスチュームに意外性があること、そのあたりが原因なのかもしれません。今までは、“将軍” とか “新さん” (『暴れん坊将軍』劇中での吉宗の別名・徳田新之助) と呼ばれていた僕が、突然  “マツケン” になったのですから、びっくりしましたけど(笑)。 そこは、一つ親しみの表現としてありがたく受け止めていました」
 
 人が人に親しみを持つためには、少なくとも二つの要因が必要だ。
 まず、自分自身と近しいと感じなければならない。そして、自分が憧れる対象でなければならない。共感と憧れである。
 松平氏の場合、数多の役柄をこなしてきたが、とりわけ印象が強いのがやはり『暴れん坊将軍』だ。この作品は、江戸幕府の八代将軍・徳川吉宗が、町火消 「め組」 に居候する貧乏旗本の三男坊・徳田新之助という仮の姿で江戸の人々と交流しながら、世にはびこる悪を斬っていくという、ヒーロー時代劇である。同作で松平氏は、気さくで誰でも話しやすい徳田新之助という人間と、凛と際立つ将軍という、二つの人間性を同時に魅せている。この姿と設定が、江戸から400年後の平成の世でも、人々の心をつかんで離さない。
 
「時代劇は、韓国のドラマともよく似ているところがあるんですよね。役割がはっきりしているからわかりやすい。ともに共通するのは、善人と悪人、善行と悪行がはっきりしていることでしょうね」
 
 

師・勝新太郎の教え

 
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 「『暴れん坊将軍』 の舞台となった江戸時代は、士農工商の身分の違いがはっきりしていて、社会的な格差やヒエラルキーを自分たちの力では動かしようがなかった時代です。町人が武士にはなれなかったし、家柄で出世もかなり決まっていた。
 逆に現代はとても自由ですよね。仕事をするにも、恋愛をするにも、休みの日にどこかに遊びに行くにも、自分で取捨選択ができる時代。だからこそ、逆に現代のほうが生きるのが難しくなっている時代でもあるなと思うんです。
 あの作品は、社会的に不自由な中でも生き生きと躍動している人たちの魅力に、現代の人たちが共感してくれたのかもしれませんね」
 
 しかし、ドラマのヒットがそのまま松平氏への共感と憧れに直結するかと言えば、そうはいかないだろう。そこは松平氏でしか持ち得ぬ魅力、内側からにじみ出る魅力がなければ、別の俳優だっていいはずだ。松平氏ならでは持ち得た魅力・・・・・・ その本質は彼の人間力に他ならない。
 そしてその根本は、故・勝新太郎の言葉に見て取れる。松平氏が20歳で勝プロの門戸を叩いたとき、芸能界における一番の恩人となり、生涯の師匠となる勝新太郎にこう言われたという。
 
 「安い居酒屋に10回行くなら、その金を貯めて銀座のクラブに1回行け。そして、銀座の高級クラブにいる人間をじっくり観察しろ。映像にはその人のプライベートが出る。安い酒場にいるやつは、その色がすぐに出てくる」
 
 

徳川吉宗と松平健

 
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 師の教えを忠実に実行した松平氏は、着実に人間力の素を積み重ねていった。積み重ねられた人間力は、次第に映像を通して視聴者の感じるところとなり、松平氏を唯一無二のスターに押し上げていくことになった。映像で見て憧れる徳川吉宗と、実像としての松平健の魅力がリンクしたからだ。感性鋭い視聴者は、この “本物” を見逃すことはなかった。
 
 「吉宗の役については、最初は他の役と同じように “作っていた” んですよ。将軍だったらこう考える、将軍の所作はこうだ、とかね。だけど、長年やっているうちに、自分と吉宗が近くなっていくのがよくわかるんです。作ろうとして作ったものではなく、自分がやっていることがそのまま吉宗の行動になると言いますか。もちろん日常で吉宗のような行動や言い方をすることはありませんけど(笑) 」
 
 “本物” と一口に言っても、それを作り上げるのは簡単なことではない。ありていの表現でいえば日々の積み重ね以外にはないのだが、松平氏はどのように自分を磨き、人間力を高めているのだろうか。
 
 「いろんなものに興味を持つということと、いろんな人の話を聞いて取り込んでいく。俳優だからとか、ビジネスパーソンだからと線を引くのではなく、この二つが誰にも共通して大事なことだと思いますよ。つまり、自分の世界だけで完結させないということですね。
 僕の場合は、まず同じ芸能界のいろんな先輩の話を聞いて、真似をしてみました。その人の生き方、言われたこととか、やってきた行動とか。もちろん真似しようとしてできることばかりではありませんけど、真似をしようとしてみることが大事なのではないでしょうか。そうする中で、自分に合う方法、合わない方法が見えてくる。そして、自分だけの方法も見えてくる。これも一つの積み重ねですよね」
 
 
 
 

 

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