第5回 ラテラルシンキングを日常に応用するには?
アントニーとクレオパトラが、エジプトの屋敷の床で寄り添うように生き絶えていた。死体のそばには割れた金魚鉢。あたりは水浸し。ただし、金魚鉢で殴られたわけでも、水に毒が入っていたわけでもない。
どうして死んだのだろうか。
わかってしまうと、頭を使わなくなる
今回のコラムでは、日常で使うラテラルシンキングについてお話しします。その前に、これまでの連載でラテラルシンキングについて「なんとなく」わかっていただけましたでしょうか?
え? モヤモヤしている? 実はモヤモヤは想定通りです。これ、あくまで私の持論ですけれど、モヤモヤしている状態でこそ、人間は頭を使うのではないでしょうか。スッキリとわかってしまうと、そこで頭を使わなくなります。
とはいえ、ずっとモヤモヤしていると読者は不満でしょう。ということでホンのちょびっとだけスッキリしてもらいましょう。
日常的にラテラルシンキングを使うための4つの段取り
ラテラルシンキングに慣れている人は、無意識に幾通りもの可能性を導きだします。これは誰もが最初からできるわけではありません。そこで今回、無意識の言語化に挑みました。本来、このような段取りは、枠(思考フレーム)を壊すはずのラテラルシンキングに枠をつくることになりますので、自己矛盾です。ですがここは、開き直ります。日常に応用するコツを掴むまでの自転車の補助輪のようなものと思ってください。さっそく、例を挙げて段取りを説明しましょう。
1.不満に気付く
2.なぜ?
3.ならば・・・
4.どうやって?
1.不満に気付く
日常にラテラルシンキングを活かす「きっかけ」は不満です。実を言うと日頃からブウブウと不満をたれている人こそ、きっかけの達人だったりします。普段から些細なことに気が付くコツを掴んでいる人とも言えるからです。
私は、コンタクトレンズを使っています。コンタクトは1日の終わりに洗面所で洗浄液に浸します。そんなあるとき、洗浄液のキャップを落としたのです。キャップはコロコロと排水口に。コンタクトを使っている人なら“あるある”でしょう。なんとか回収しましたが、再び落とすかも。この不便さに対する不満が「きっかけ」です。では、落とさないようにするには?
慎重に作業してキャップを落とさないようにする? いやいや、そもそも慎重に作業しているはずです。慎重に慎重を重ねて・・・では答えになっていません。もはや言葉遊びです。
対策には、 まずラテラルシンキングの多視点を使います。「なぜ?」を2つ以上考えるのです。
2.なぜ?
「なぜ?」は理想通りになっていない状況を明確にする言葉です。なぜ、排水口にキャップが落ちるのか? 「なぜ」が明確になると「排水口」と「キャップ」という2つの要因に思い当たります。
3.ならば・・・
「ならば」は、理想の状況を明確にする言葉です。要因が2つありますから、2つ以上の「ならば」が思い当たるはずです。
ならば、排水口がなければいい。
ならば、キャップを取り外さなければいい。
4.どうやって?
「どうやって」は、具体策を発想する言葉です。ここで存分に発想を広げます。
>> どうやって、「排水口」をなくすの?
・排水口を変えたら?
あらかじめ排水口にフタをしてから作業する。排水を捨てるのであれば、網状のフタカバーでふさげばいい。
・場所を変えたら?
発展させて、排水口がないところに行く。洗面所ではなくて、排水口のないダイニングテーブルで作業する。結局のところ、排水口がなければキャップは落ちません。
・手順を変えたら?
キャップを追いかけるのではなくて、キャップを落とした瞬間に先回りして排水口を手でふさぐ。
>> どうやって、「キャップ」を外さなくていいようにするの?
・キャップのない洗浄液ブランドに変えたら?
使い捨て洗浄液か、キャップが落ちない構造の製品を探す。あるいは、使い捨てコンタクトレンズにする。洗浄しないのなら、洗浄液のキャップは不要。
以上、排水口とキャップの要因2つから解決の具体策を導くまでのプロセスを紹介しました。
ここで終わりではありません。さらに、ラテラルシンキングではそれ以外の発想をします。そう、いま、考えた「前提を疑う」のです。
なぜ、コンタクトレンズを使うの?
ならば・・・そもそも、コンタクトレンズを使わなければいい。
どうやって? コンタクトを廃止してメガネをかける。近眼治療法のレーシックにチャレンジする。
これをずっと繰り返します。まだまだ出てきますけれど、誌面の都合上ここまでにしましょう。もちろん、唯一の答えなどありはしません。このようにいろいろな角度から、いくつ方法を見つけられるか。
ちなみに、私はキャップを落とした瞬間に排水口に先回りを採用しています。
【アントニーとクレオパトラはどう死んだ?】答え
死因は、えら呼吸ができなくなったから。
アントニーとクレオパトラという名前の金魚が死んでしまいました。
木村尚義の「実践! ラテラルシンキング塾」
第5回 ラテラルシンキングを日常に応用するには?
第5回 ラテラルシンキングを日常に応用するには?
執筆者プロフィール
木村尚義(Kimura Naoyoshi)
創客営業研究所代表・企業研修コンサルタント
経 歴
日本一ラテラルシンキング(水平思考)関連書を執筆している著者。1962年生まれ。流通経済大学卒業後、ソフトハウスを経てOA機器販社に入社。不採算店舗の再建を任され、逆転の発想を駆使して売り上げを5倍に改善する。その後、IT教育会社に転職、研修講師としてのスキルを磨く。自身が30年以上研究している、既成概念にとらわれずにアイデアを発想する思考法を企業に提供し好評を得ている。また、銀行、商社、通信会社、保険会社、自治体などに「発想法研修」を提供している。遊ぶだけで頭がよくなる強制発想ゲーム「フラッシュ@ブレイン」の考案者。著書に、『ずるい考え方 ゼロから始めるラテラルシンキング入門』(あさ出版)、『ひらめく人の思考術 物語で身につくラテラル・シンキング』(早川書房)など多数。
オフィシャルホームページ
http://www.soeiken.net/(2016.9.28)
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