8、上場企業経営者の税金観
今までは同族経営の中小企業経営者の税金観の話でした。いっぽうで上場企業等の大企業の経営者の税金に対する考え方にも触れてみます。
上場企業経営者の税金観といっても、経営者の個人財産にかかる税金に対する視点と会社の利益に対する税金の二つの視点がありますが、まず会社そのものの法人税等負担の話。
(1)上場企業経営者の法人税等に対する税金観
私の場合、一部上場会社の社外監査役としての立場、次に、ガバナンス問題が今ほど叫ばれていなかった時代の二部上場会社の社外監査役の立場、中小企業ではあるものの上場会社等の子会社等の税務顧問の立場等から、様々な上場会社(及び関連の非上場会社) の経営者と接しています。
身近に接し得る方もいれば、遠くから拝見する場合等、様々ですが、彼らは基本的に、同族会社のオーナー経営者とは全く視点が異なります。
コンプライアンスに対する取り組み方やガバナンスのあり方を真剣に考えているこういった企業の経営者と、上述した中小企業の経営者とは、企業の社会的責任の自覚の仕方が全く異なります。金融機関等を中心にコンプライアンス部が組織として存在し、それぞれCSR(企業の社会的責任)報告書、環境報告書等を年次ごとに作成しているわけですから当然かもしれませんが、ガバナンスやコンプライアンスに対する意識・認識・知識の差は歴然たるものがあるというのが偽わらざる実感でしょうか。
ステークホルダーたる株主や債権者等のことを考えると、税金をごまかすという発想はなく、いかにして安定的な利益を上げていくかということに腐心しています。所有と経営が完全に分離している会社になればなるほどその意識が強く働きます。したがって上場会社等が税務当局と揉めるのは、意識的脱税問題ということではなく、見解の相違という場合が多いように感じています。
まず、経理担当者はサラリーマンですから、法律的に間違った処理はしたくないという意識があります。そして経営者は、税金のことより、如何に利益を上げるのかという点のほうに関心があるはずです (とは言っても、数ヶ月に及ぶ税務調査の結果をみると、同じように毎回、法人所得の漏れが出てきます。決して意識的に課税所得を少なくしようとの意識はないのですが、やはり処理ミスで結果として過少申告の場合があります)。
上場会社でも同族経営的色彩の強い会社の場合はやや色合いが異なりますが、利益を確保しなければならないという点では同じで、税金はその結果でしかありません。ですから税金をごまかすという発想はその原点にあるはずがないのです。
中小企業経営者であっても、上場企業等の子会社の経営者となると、同族会社系経営者とは基本的に考え方も違います。方針が親会社と一緒ですし、多くはオーナー型経営者ではなく、雇われているサラリーマン経営者ですから、やはり業績アップで利益を確保することが優先で税金はその結果であるという意識が強いと言えます。
(2)上場企業経営者の所得税・相続税に対する税金観
さて次に、会社の税金ではなく、経営者個人の税金の問題です。私は上場企業経営者の個人の確定申告や相続税の申告も手がけていますが、全く個人の話となると、会社の税金と違って感じ方も人それぞれです。
だいぶ前の話ですが、経営者に対するストックオプション課税が問題となりました。当時は制度の変わり目で、一時所得か給与所得かで国税不服審判や訴訟が頻発していました。
この時も何人かの経営者と関わりがありましたが、やはり自分自身の問題となると、「国の税に対する規定の仕方の曖昧さを糾弾するんだ!」 と息巻く方、「まあしょうがないでしょう」 と達観される方等、個人の性格の差がにじんで出てきました。
(3)同じ人なのに会社の税金観と個人の税金観に違いが出るのは何故?
まあ、意識的な脱税志向はないものの、会社の税金観とは全然異なるとは言えます。 それは何故なのか? 他人の目が届かない、全くプライベートな部分だからでしょう。大げさな言い方をすれば 「ガバナンスが効かない世界」 にいるということです。他人の眼は、奥さんか、会計事務所の担当者ぐらいです。むしろ奥さんも一緒になってごまかしたくなるようです。これはよくある新聞報道での情報ですので誤解なく。
会社経営の場合はステークホルダーに対する社会的責任が伴いますが、全く個人の問題だと、利害関係者は自分と家族だけになります。あとは自らの心の問題です。ここで自制できるか!自制できない方が、社会から見放されるのでしょう。
(4)お金を天下の回りものにしよう!
お金は魔物です。埋蔵金ができる仕組みを知っていたり、その生成過程を見続けている我々職業会計人も、正しき羅針盤たりえるように心がけたいものです。
「お金は天下の回りもの」 とはいうものの、どうしても溜めこむ人が出てきます。最近の使い捨て傘は、天下の回りもの状態で、黙って持っては行かないものの、「どうぞ。どうぞお使いください、わざわざ返しに来なくていいですよ」 と言ってくれているかのようです。
使い捨て傘は天下の回りものになりつつありますが、純粋に 「お金は天下の回りもの」 と言える状態にするのはまず無理でしょう。そこで、貨幣経済が発達する前の社会、すなわち縄文時代はどうだったのだろうか、こんな疑問がわき出てきました。いずれはそのテーマについても考えてみましょう。もっとも、2月号で触れた行き付けの飲み屋の常連である上場会社(株式会社ウィザス)の会長・
堀川一晃さんによる熱心なお酒を飲みながらの講義に影響されてるだけです。まあ、お金にまつわるコラムですが、種切れになったら、お金のない時代の話をしてもいいかな、なんて思っています。
執筆者プロフィール
渡辺俊之 Toshiyuki Watanabe
公認会計士・税理士
経 歴
早稲田大学商学部卒業後、監査法人に勤務。昭和50年に独立開業し、渡辺公認会計士事務所を設立。昭和59年に「優和公認会計士共同事務所」を設立発起し、平成6年、理事長に就任(その後、優和会計人グループとして発展し、現在70人が所属)。平成16年には、優和公認会計士共同事務所の仲間と共に「税理士法人優和」(事業所は全国5ヶ所)を設立し、理事長に就任。会計・税務業界の指導者的存在として知られている。東証1部、2部上場会社の社外監査役や地方公共団体の包括外部監査人なども歴任し、幅広く活躍している。
オフィシャルホームページ
http://www.watanabe-cpa.com/