それは節税なのか?脱税なのか!
―税金に対する経営者のタイプの違いと考え方の変遷 前編―
個人所得の確定申告も無事終了し、個人事業者やそこに関連する様々な職業の方たちもほっとしている時期かと推察しています。とはいうものの、申告期限間近の3月11日に東日本巨大地震が発生し、原稿執筆時点から現在に至るまで、電気等を中心とした生活インフラもストップしている地区さえいまだにたくさんあります。被災された地域並びに皆さまに、心からお見舞い申し上げると同時に、様々な困難に対して一人一人が知恵を出し合い、日本再建に立ち向かわなければと考えます。(
申告期限の延長措置については、拙稿、税理士法人優和「得する税務・会計情報124号・3月16日号外」を参照)
確定申告時期の多くの経営者から生のお話を聞かされるにつけ感じ入る部分があります。まず同族経営の中小企業経営者の話からしましょう。上場会社等の、社会的責任を自覚し、コーポレートガバナンス感覚もしっかり持ち、コンプライアンスの認識も従業員一人一人が自覚している会社の役員等の税金に対する感覚とは全く異なるからです。
1、 ハチャメチャ型経営者
決算作業も終了間際になり、いきなり担当者に対して「この領収書、今頃出てきたので、追加で入れといて」。・・・いかにも胡散臭そうな領収書です。企業ではさすがにこの手の経営者は少なくなったものの、個人事業者だとまだいるのかもしれません。個人事業者の場合は家事関連費で、本当に必要経費なのだろうか?と疑いたくなるようなものもあるやに聞きます。領収書一枚一枚には、購入動機と仕事との関係の使用目的が実に事細かに説得力を持って記載されているものです。我々はその領収書が出てきた経緯が分かるので否認しやすいのですが、事後的に税務調査官がこの説得力のある使用目的と購入動機の記載された領収書を見たら、見抜けない可能性も否定できません。しかしさすがに、このようなハチャメチャ型経営者は現在は姿を消しています。
2、 力まかせ型経営者
架空経費の計上というハチャメチャなことまでは、さすがにやらないまでも、少し税法の知識が経営者側に身についてくると、悪知恵を働かせたくなるらしいです。
取得価額が10万円以上の消耗品となると固定資産計上しなければならず、一時の損金とならないということを知り、無理やり領収書を10万円以下に分割させたり、決算日後に購入した消耗品やパンフレット等の請求日を決算前に直させたりして、未払費用の計上を力まかせで行う経営者も見かけます。
また、期末近辺の締め日後の売掛債権等を翌期にずらして売上を減少させたりもしたくなるようです。これらの小細工して分割計上した消耗品費とても、税務調査の現場で領収書を見られれば、すぐに判ってしまうことです。数百万円のパンフレットの印刷代の納品書の日付を期末前に直させたとしても、大量のパンフレット類を期末までに一気に使い切ることは不可能なはずで、在庫があれば貯蔵品勘定処理しなければなりません。つまり損金に全額算入されないのです。力まかせの悪知恵を働かせても、意味のないことだと後から気がつくことになります。
3、 軽率型経営者
悪知恵を働かせても駄目だとなると、業者が勧める節税商品が目に留まってしまいます。
節税商品なるものは世の中にたくさん存在します。生命保険利用節税、レバレッジドリース物件節税、借入利用の不動産投資節税、海外投資物件節税、自動販売機設置による消費税節税、立体駐車場節税等々様々です。これらの多くは大手業者が消費者の節税心理をうまくついて考えだす商品ですが、実際の利用にあたっては 「税理士の先生にお聞きください」 とのコメントが付され、業者側は第一次責任を回避しようとしていますので、多くは税理士が相談を持ちかけられます。
この場合は陰に隠れているリスクをお話しできるからまだいいのですが、勝手に自分の判断でやられる場合が困ります。土地価額が暴騰していたバブル期には、相続税評価額と実際の時価の乖離率を利用した相続対策が横行しました。その結果、後々土地や取引相場のない株式評価にあたっての 「
三年縛り(リンク先 「純資産価額」 の項参照)・ 旧措置法第69条の4の規定(いわゆる取得価額課税)」 のような規制ができてしまっているケース(その後一部改正・
平成8年の上述規定の廃止) や、レバレッジドリース取引に関する税法改正で泣きを見た経営者も多かったはずです。これらの話に軽く乗ってしまう、というより、そそっかしいと言ってもいい経営者がいます。平成の初め、金融機関の行員が間に入って行なった逓増定期保険問題などは前提が崩れて大きな損失を被り、裁判沙汰になった事件が多発しました。
4、節税オタク型経営者
ハチャメチャなことをして懲り、力づくでやらせたことが無駄となり、合法的節税商品を購入したものの、その後の税法改正や 「土地は値上がりする」 という前提が崩れて無駄な支出と化し、むなしさを感じつつも、税金は払いたくないらしいのです。そして会社経営も20年近くなると、税務調査体験も十分に積み、税法知識もそこそこ詳しくなり、手口もだんだんオタク化していきます。
ケース1
―― 利益が出すぎたので在庫を圧縮したいのだが、期末日近くの仕入商品等の在庫を圧縮すると税務調査で見つかりやすいことを経験値から分かっているので、決算日数ヶ月前の在庫を圧縮する。
ケース2
―― 期末日近くになると利益圧縮のため、2年で償却できるような中古のベンツ等を取得して2年にわたり多額の減価償却費を計上する。
ケース3
―― 期末日近くだと目立つので2-3ヶ月前に大量の印紙や切手やJRのスイカカード等を購入する。
ケース4
―― 家賃等の支払いは1年分前払しても短期前払費用となり、継続適用すれば、支払った期の損金に算入されるので、巨額の1年分家賃を借金までして払ったりする。
ケース5
―― 得意先との飲食代が一人5千円以下なら会議費等になり交際費課税から免れることを知り、一人平均5千円以下になるように、人数の水増しをする。
まだまだあげればきりがありませんが、今期だけの短期的な利益増加現象への短絡的対応で無駄な購入をし、その後の資金繰りがめちゃくちゃになって後悔したりします。
ことほどさように、経営者は税金を払いたくないようです。節税対策(というほど立派でもない小手先の工夫) も手詰まりになったところで、来月号は 「それは節税なのか?脱税なのか!」 の後編、
5、悟りを開いた経営者
6、体力のある会社とその経営者
7、中小企業経営者が職業会計人に求めるもの
8、上場企業経営者の税金感
をお送りします。
執筆者プロフィール
渡辺俊之 Toshiyuki Watanabe
公認会計士・税理士
経 歴
早稲田大学商学部卒業後、監査法人に勤務。昭和50年に独立開業し、渡辺公認会計士事務所を設立。昭和59年に「優和公認会計士共同事務所」を設立発起し、平成6年、理事長に就任(その後、優和会計人グループとして発展し、現在70人が所属)。平成16年には、優和公認会計士共同事務所の仲間と共に「税理士法人優和」(事業所は全国5ヶ所)を設立し、理事長に就任。会計・税務業界の指導者的存在として知られている。東証1部、2部上場会社の社外監査役や地方公共団体の包括外部監査人なども歴任し、幅広く活躍している。
オフィシャルホームページ
http://www.watanabe-cpa.com/