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コラム もういっぺん、作ってみようや! vol.12 誰もやってないことをやる もういっぺん、作ってみようや! 岡野工業株式会社

コラム
 
1年余り語り続けてきて、いよいよ最終回になった。ここまで読んでくれた皆さん、ありがとうございます。今回は、どうしたら先が読める、成功できる人間になれるか。これまで語り残したことを含めて話します。
 
 
 

「まじめな人ね」 よりも 「何だ、こいつは!?」

 
 仕事で成功する人間としない人間がいる。ズバリ言ってしまうけど、ほんとにまじめなだけの人では成功しないんだよ。
 まじめを自称している人は、「まじめはいいことだ」 と思い込んでいるから始末が悪い。そんな人たちにとって 「まじめ」 の反対は 「人受けがいい」 とか 「付き合って楽しい」 とかだ。ようは、人づきあいを、価値が低いものと考えているんだね。だからコミュニケーションの機会が少なくて、人への配慮、サービス心が足りない。これじゃあ、その人の神輿を担ごうという人が出てこなくて当たり前だよな。
 
 まじめな人間より、「なんだこの野郎は!?」 なんてびっくりさせるようなやつが成功するんだ。人を驚かせたり、くつろがせたり、遊ばせたり、喜ばせたり。リズム感が良くて、アドリブのセンスがあって・・・・ 周りからかわいがられる人は、みんなこういう要素を持ってるよ。だから、その人の人間性みたいなものがうまく表へ出るんだろうな。
 
 おれなんか自慢じゃないが、至る所にスキあり、破れ目ありの人間だ(笑)。 だから人が寄ってくるし、八方破れの発想ができるんだ。おれの人寄せの力は親のDNAのおかげだと思う。親父はまったくの口下手だったけど、お袋がバリバリの江戸っ子でね。パッパパッパと洒落が飛び出す人だった。おれは自然とお袋に学んで、人としゃべくりあって交渉していく力を身につけたんだろうね。
 
 

「すごい」 「かわいい」 だけで片付けるな

 
 しゃべりといえば、今の子供たちはそろって声が小さいよな。メールだのケータイだの、声が小さくても通じるシステムが普及してるせいかな。でも、だからこそ、もっとでかい声で話さないとね。そうすれば 「おれはここにいるんだ」 って周りから認めてもらえるし、声のニュアンスを聞いて 「こいつはこういうやつなんだ」 とわかってもらえるじゃないか。運動選手はみんな大きな声を出してるだろ? 存在がわからないとゲームが成り立たないからだよ。だから、極端な話、勉強ができるやつよりも声がでかいやつのほうが、社会に出てから偉くなる。
 
 最近の若い人は語彙も少ないよな。世の中には物事を表現するための膨大な言葉があるんだ。なのに、何でもかんでも 「すごい」 とか 「ヤバい」 とかで片付けちまっていいのか。何かにつけ若い女の子が 「かわいい」 って言うあれも、何とかならんかね(笑)。
 
 人づきあいでも仕事でも、しゃべれなきゃ話にならないんだよ。おれがガキの頃は、「え~っと」 とか 「あのぉ」 なんて口ごもろうもんなら、「おめぇはバカか? しっかりしゃべれ!」 と周りの大人に喝を入れられたもんだ。おれがお袋から習ったように、週に3時間でも4時間でも、親子で話す時間を持ったらどうだろう。友だちが 「すごい」 「かわいい」 で済ましてるときに自分の言葉で話せたら、気持ちいいぞ。
 
 何? 親子で話すときもケータイ使ってる? ダメだ、こりゃ。
 
 

落語は世渡りの 「知恵袋」

 
 自分の気持ちを伝える言葉を増やすための、とっておきの方法を教えようか。落語を聴いてみな。
 落語には昔の言葉も今の言葉も、いろんな言葉がぽんぽん出てくる。ほんとは寄席で噺家のナマの表情や身振り、手振りを見ながら聴くのがいいんだが、CDで耳から聴いてるだけでも、噺家のハッキリした物言いや、畳みかけるような展開で、話の情景がありありとイメージできるはずだ。そうやって聴くうちに言葉の中身や意味がわかるようになってきて、語彙が豊かになる。おれは子供の頃からラジオで暗記するほど落語を聴いてきたから、商談でも取材を受けるときでも、言いたいことをちゃんと言葉にできる。「え~っと」 なんて口ごもったことはないね。
 
 落語はしゃべりだけじゃない、発想やアイディアのヒントもぎっしり詰まってるぞ。おれのおすすめの演目は 「付け馬」 だ。付け馬ってのは、昔の吉原で、無銭飲食をした客の家までついていって勘定を取り立てる役目の、若い衆のことだ。客の男はさんざん付け馬を引っ張りまわして、騙して逃げようとする。その、あの手この手の騙しテクニックが面白いし、洒落っ気のきいた発想は仕事でも絶対に役立つね。
 
 落語ってのは過去の芸能と思われてバカにされてるだろう。とんでもない話だよ。落語を聴き込んで、そこに込められている発想や知恵を身につけてみなよ。商売観や仕事観、発想法が間違いなく変わるね。古典落語を聴かないヤツに、いい発想なんてできっこない。これ、おれの持論。おれ自身が落語からいっぱいヒントをもらっているんだから確かだ。落語はおれが世渡りするための 「知恵袋」 なんだよ。
 
 

これからは 「ローテク」 にかけろ

 
 最後に、日本の製造業のことについて話させてくれ。
 今、日本の工業技術が海外に流れていってしまわないか、心配されている。おれも 「岡野さんとこはだいじょうぶですか」 とよく聞かれる。
 確かに、日本で産業が減ったのは、海外の影響もある。東南アジアや中国で安く生産できるからな。でも、かつては日本の製品が輸出されてアメリカの製造業がピンチに陥った。こうしたことは避けて通れないんだ。じゃあ、どうすればいいか? 簡単だよ。外国で作れないものを作ればいい。日本の技術でしかできないものをやればいい。
 今うちに来るのは、ほとんどが 「他ではできないから岡野さんに頼む」 という仕事、いわばローテクだ。機械を使って誰でもできるようにするのはハイテクで、そいつの技術がないと何も始まらない仕事がローテクとするなら、これからの時代、日本がもういっぺん世界でのし上がっていくためには、ローテクにかけることだ。日本のみんなが、誰にも真似できないブランドになっちまえばいいのさ。
 
 「先を読む」 ってのは、つまるところは、「まだ誰もやってないことをやる」 ってことだ。それにはもちろん失敗もある。俺は、失敗するたびに言う言葉があるんだ。絶対元気になれるから、騙されたと思ってみんなも言ってみな。
 
 

「もういっぺん、作ってみようや!」

 
 
1年間、ご愛読をありがとうございました。ここでしゃべったことが、みなさんの仕事や生き方に少しでも役立っていたら、ありがたいです。
 
〈了〉
 
 
 
 もういっぺん、作ってみようや! ~町工場最強オヤジ!岡野雅行の直言~
第12回(最終回) 誰もやってないことをやる

 執筆者プロフィール  

岡野雅行 Masayuki Okano

岡野工業株式会社 代表社員

 経 歴  

岡野工業株式会社代表社員。十代初めから、実父が営んでいた岡野金型製作所で職人修業を開始。勤勉に仕事にいそしむかたわら遊び仲間も多く、仕事と遊びの双方で「向島の岡野雅行」の名を上げ始める。1972年、製作所を引き継ぐと 「岡野工業」 と社名を変更。金型だけでなくプレスも導入し、高い技術力を持って大手との取引が増え始める。インシュリン用の注射針で主流になっている「ナノパス33」をはじめ、ソニー製ウォークマンのガム型電池ケース、携帯電話のリチウムバッテリーケース、トヨタプリウスのバッテリーケースなど、世界的な躍進を遂げた製品はどれも岡野工業製作の部品が支えているとすら言われている。

 
 
 
 

 

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