有益で正確な情報の必要性
オーストラリアでビジネスを行うにあたって、成功するための必要不可欠な要素はいくつかありますが、そのトップ3に必ず、「正確な現地の情報を把握する」この条項が入ります。正確な情報なしで現地に飛び込むことは自殺行為だと言えるでしょう。
我々日本人は残念ながら、オーストラリアについて十分に正確な情報を手に入れているとは言えません。その大きな理由は二つ考えられます。
一つは認識の違いです。先月もお伝えしましたが、日本人はまだまだ、情報がタダだと考えてしまう場合が多く、情報を得るために対価を支払う認識が他の国に比べて少し低いと感じます。情報を提供する側からすれば、きちんと情報の価値を理解して、それに対する対価を支払ってくれるほうを優先するのが、ビジネスとして当たり前です。タダで手に入る情報は、すでに遅れた情報か、それとも重要な情報でない場合が多く、対価を払いしぶる日本人は必然的に、「ビジネスに直結する有益な情報を他社よりもいち早く手に入れる」 近年の情報戦線に遅れを取ってしまうことになります。
それともう一つの問題は、言葉の壁です。近年英語を話せる日本人が増えてきたとはいえ、まだまだ他国の人間と比べると、日本人の英語力は不十分です。もう少し正確な表現をしますと、純粋な英語力もさることながら、モノ怖じせずに現地の人間の輪に溶け込んでいく社交能力が足りません。社交をすっ飛ばしてインターネット上から拾う情報も無意味なものとは言いませんが、やはり情報はその道に精通した人間から直接耳にするのが一番です。
イチ地方工場だった本田技研を “世界のホンダ” に育て上げた故・本田宗一郎氏は、まだ第二次大戦の戦禍が残る時期に渡米し、現地の飲み屋などで、ろくに英語が話せないのに、自社製品の話をしたそうです。日本人が未だに抜けきれていない白人コンプレックスなどどこ吹く風。この行動力とモノ怖じしない性格が、今日のホンダを作り上げた原動力だと言えます。
客観的に見て、南米や南ヨーロッパの人たちも、英語が上手いとは、正直思えません。来豪当初の語学力は日本人と大差はありません。ただ大きく異なるのは、彼らはどんどん前に、前に出て現地に溶け込もうとします。現地の人間と交流を持ち、友人関係を築き上げれば、より多く、より深く、現地の人間しか知り得ない情報が手に入ります。またその際の副産物として、現地の人間とコミュニケーションを取ることにより、語学力が上達します。「有益な情報をいち早く、正確に手に入れる」――このためには、現地にいかに早く溶け込むかが、最大の鍵となります。
けちけちしては、ビジネスの成功は無理!
どの企業も予算に限りがあるので、湯水のごとくお金を使えとは言いませんが、必要な事柄にお金を惜しんでいたのでは成功もおぼつきません。これも以前に書いたことですが、日本人は情報の他にサービスも 「無料または、お金を払うべきものではないもの」 と思いがちの人が少なくありません。日本人は、モノづくりを時に盲目的に尊重することからもわかるように、目に見え、形があるものを優位に評価する傾向があります。それが良いか悪いかは別として、今後海外でビジネスを考えるのであれば、形のないもの、つまり情報の重要さを認識すべきです。
「情報は一度聞けばもう価値のないもの」 と思い込んでしまえば、確かにそれだけにお金を支払うのは躊躇してしまうかもしれませんが、「これは自分の血となり肉となる知識を得るための教育費だ」 と思えば、日本人でもお金を払うことを受け入れやすくなるでしょう。海外ではこういった柔らかな発想も必要不可欠です。
「自分の知らない知識を得るために、お金をけちらず出すかどうか」――このことをめぐって、過去に、ほんの少しの出費を惜しんだせいで、さらに多くの出費が必要になってしまったケースがありました。
とある仕事で、依頼主の日本人とお会いしました。オーストラリアの情報や法律など、矢継ぎ早に質問をされました。私も海外で同じ日本人が海外に進出するのは非常に嬉しいので、先方の質問にできるだけ回答していました。でもそのうち、専門的な知識や、通常なら料金が発生する分野まで質問の範囲が及んでしまいました。そこで 「ここからはコンサルティング契約を結んでからお願いします」 と、料金が発生する旨を伝えると、「なんで話を聞くだけでお金がかかるの」 と怪訝そうな顔をされてしまいました。私が 「情報の提供や、質問への回答にはお金が掛かりますよ」 と伝えると、「ちょっと考えさせて下さい」 ・・・それきり連絡が途絶えました。
そのまましばらく経ってから、突然その方から連絡を受けて、再度会うことになりました。私のところだけではなく、何社か回ってみたらしいのですが、どの会社でも詳しい質問をすると 「料金が発生する」 と言われたそうで、それならばと、あまりこちらのルールなども調べずに 「自分でやれる」 と判断して事業を進めたところ、どうも不具合が出たらしく、急遽私に助けを求めたというのが真相でした。
出された書類に目を通してびっくり!! どうしたらここまで酷い状況にできるのかと、驚くくらいの内容でした。私は、できればそんな仕事を受けたくはなかったのですが、本当に困っているようでしたので、力になろうと決意しました。ただ、相当話がこじれており、我々も通常の3倍は時間が取られると判断したので、労働に見合う料金を提示しました。すると、「前回の料金と違う!」 と、その方はかなりのご立腹。なぜ前回の料金と同じでできないのだと詰め寄られました。
私は、少し不謹慎かもしれませんが、病気で例え話をしました。「前回は早期がんでしたので、治療期間も短く、治療費を抑えられました。でも今回は末期も末期、全身に転移したがんです。有名な名医が手術しても、治るかどうかわからないくらいです。当然治療期間も長期にわたり、治療費も莫大なものになります。早期がんを発見した時に治療を勧めましたが、治療費が高いと言われて、断られました。その状態からはるかに悪化しているので、料金が上がるのは仕方がないことです」―― この説明でも完全には納得していただけず、その方は、また書類を抱えて数社回ったようです。そうこうする間にタイムオーバー。結局、事業を諦めて日本へ帰国せざるを得なくなりました。
最初にほんの少し出費を惜しんだがために、結局事業自体が失敗してしまい、それ以上の出費を強いられての帰国です。「安物買いの銭失い」 じゃないですが、オーストラリアは日本と異なる点が多々あります。授業料だと思って投資したほうが良い場合も、少なくないのです。
次回は、オーストラリアでビジネスをする際に、日本とは明らかに異なる点、注意しなくてはならない点を書き進めていきます。
南半球でビジネスを考える ~オーストラリア在住・日本人経営コンサルタント奮闘記~
第15回 価値観は現地に合わせる
執筆者プロフィール
永井政光 Masamitsu Nagai
NM AUSTRALIA PTY TLD代表 / 経営コンサルタント
経 歴
高校卒業と同時に渡米、その後オランダに滞在し、現在はオーストラリア在住。永住権を取得し、2002年にNM AUSTRALIA PTY TLDとして独立。海外進出企業への支援、経営及び人材コンサルティングを中心に活動中。定期的に日本にも訪れ、各地で中小企業向けの海外進出セミナーなどを行っている。
オフィシャルホームページ
http://www.nmaust.com/
ブログ
http://ameblo.jp/nm-australia/