ボストンで再確認した
単品突破戦略の正しさ
いいんだよ、やっぱり。丘の上の、日本武道館ぐらいの広さの店内を、「そうだよこれだよ! うわ~やっぱいいなあ~」と感動して歩き回ってました。そうしたら、一緒に行った視察の参加者の1人が、「佐藤さん、ここ家具屋ですよね。なんでソファしかないんですか」と聞いてきた。
言われて初めて気付きました。そう、ソファしかないのよ。テーブルとかダッシュボードとかキッチンシステムとか、10年前は陳列していたものが、今はない。ひたすらソファ。一番下の価格帯以外の全価格帯の、ありとあらゆるソファを置いてある。
「なるほど!」と思ったね。ソファは革や布を使うから、木や金属だけでもつくれる他の耐久家具と比べたら消耗品で、個数が出る。「売れ個数が出るもので単品勝負」――私が口を酸っぱくして言ってきた戦略だ。そう、つまり、10年ぶりに行ったジョーダンズはソファで単品突破戦略をやっていたんだ。
いまどき総合化戦略でキッチンシステムから何からって並べても、ネット上のショッピングモールには敵わない。その点ソファなら、いくら画像で見ても自分の体で座った感触を確かめるまで買いにくい。ネット販売とも勝負ができる。だからリアル店舗はソファに特化して、単品で集中的に展開した。私の戦略と同じだ。これは嬉しかったね。聖地の店に自分のやり方を保証されたようで、あらためて自信がつきました。
ニューヨークで聞いた話
「世界がこれから中国化」!?
いつもながら刺激的なお話をうかがう中で、今回は特に「世界はこれから中国化する」とおっしゃったのが印象に残った。「中国化」というのは中国が世界の覇権を握るという意味じゃなく、全世界的に、エンドユーザー向けのビジネスが、単一ブランドの専門業態が並ぶ形になっていくということのようだ。一例をあげれば、今だってアップルストアはアップル製品しか置いてないよね。その代り店内は小物から什器から何から全部アップルの世界観で統一して、さながらアップル好きのサロンになっている。中国はベースが統制経済なせいか、言われてみれば確かに昔からこの形態だ。同様にソニーならソニー、ナイキならナイキ、プラダならプラダだけを売る店、要は総合化から専門店化への流れが世界的な主流になりそうだ。
これ、昔は日本もそうだったよ。日立なら日立、ナショナルならナショナルの電器屋が街にあって、みんなそこで買っていた。いつのまにかヤマダ電機やヨドバシカメラのような総合業態が当たり前になっているけど、あっちがむしろ後発だ。
ということは、昔取った杵柄で昭和に回帰すればOK? そうじゃないよね。
情報環境が変わった、消費者が変わった、支払いモデルも変わった。でも、供給側がそれに対応する新しい業態をまだつくれていない。仮に形だけつくったとしても、そこから細かいノウハウの蓄積が必要だ。世界観の演出は細部のつくりこみの積み重ねだから、アップルストアみたいに思い切って専属契約を結ぶぐらいの投資をしてマーケティングから鍛え直さないとこれからの消費者には届かないだろう。つくづく時代の変化を感じます。
“中国のシリコンバレー”深圳で
これからの労働価値について考えた
深圳すごいよ。新しいものがどんどん生まれてる。現地の飲食チェーンの話なんだけど、客が入店したらセキュリティカメラの顔認証で個人を特定して、購買履歴や好みの傾向はもちろん、その日の顔色とか全体の雰囲気とか、画像でわかる情報を総動員して接客しているんだって。本部に分析をする人がいて、「体調がよくなさそうだからコーラじゃなくてお茶を勧めろ」というようなことをタッチパネルなりインカムなりで店員に指示するそうだ。
今はまだ人間が分析して本部から指示を飛ばしているようだけど、いずれこれはAIに代る。しかもビッグデータとディープラーニングで指示の質が上がれば、新人がいきなり中級レベルの店員並みに売るようになることだってありうる。こういう変化に対して、みなさんはどう思いますか?
「ロボットじゃないんだから・・・」と思う人もいるでしょう。でも私は、「それでできちゃう部分はやっちゃえ」というスタンスです。
だって、そろばんと手書きの勘定帳で仕事を覚えた世代の商人は電子計算機が出たときに「こんなものを使ったら商売に魂がこもらなくなる」と言ったそうだが、みんなが会計ソフトを使うようになった今、魂のある商売が全滅したかい? してないんじゃないかな。単に事務が楽になって、人間の感性が活かせる業務なり仕事なりに労働価値が投下されるようになっただけじゃないかな。
時代が変われば私たちの価値観もそのままではいられない。アメリカと中国、それぞれの変化し続ける街で、そのことを感じました。
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vol.19 変化し続ける国の街で
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
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