何事も最初は「本気」から
あくまでも私の推測だけど、阿萬さんはこう考えたんじゃないかな。「地方の商工会議所はもっと外を向いてやっていかないと始まらない。毎回同じ参加者でやっていては馴れ合いになるし、とりとめなくいろんな種類のコンサルタントのセミナーを単発で聞いて何か勉強した気になって終わり、みたいなことだけでは、現実的に効果が現れにくい。業種も業態も、さらに商圏をも入り混ぜて、参加者同士も刺激しあいながら腰を据えてじっくり向き合わないと」って。要は、地方で頑張る小さな商工業者の発展を本気で考えているんだね。みやざき勝人塾が商工会議所の主催でやれているのは阿萬さんの熱意があったからこそだ。ありがたいよね。
ただ、じゃあこれが他の地域にも波及するかといったら、そう簡単にはいかないと思う。今までと違うこととか、誰か1人が目立つようなことは、地方ではやりにくいからね。とはいえそれが本当にその地域の商工業者の発展につながるのであれば、悪しき旧弊と闘うことも私の生涯をかけたテーマの1つだ。その時は何で闘うかはわかっている。“真・善・美”の“真”だ。
“善”より“真”が大事
“真”は「真実」であり、「真理」という意味でもある。宮崎の2週間後、青森県の八戸でとうほく勝人塾をやった時に「あなたは宮本武蔵みたいだ」と言われたのも、私が常に相手の真実にズバッと切り込んで闘ってきたことを指して言ってくれたんだと思う。
地方は倫理法人会やら盛和塾やら日創研やらの教えが浸透しているけど、勝人塾ではまったく違うことを教えてきた。だって、それらの教えのほとんどは、“真”は尊いものとして敬して遠ざけ、“善”を主体にして聖人君子を目指させるような教えだ。でも悪いけど、経営者という人種は便所掃除をしたくないから起業するんだからね。倒産して借金を負うリスクを冒してまでも起業する人というのは、一生ワーカーに甘んじるのが嫌だから自分で事業を始めるんだ。これはワーカーの仕事を下に見る、見ないということとは別の話だ。お客さんを喜ばせることが大前提として、「自分の力で立ちたい、もっといい生活をしたい」――これが経営者の本音なのに、「欲をつつしみなさい。一隅を照らしなさい。率先して便所掃除をしなさい」だなんて、ちょっと勘弁してくれよ。綺麗事でごまかすんじゃないっての!
これは経営者の例だが、従業員を指導する時だって同じだ。彼らの現実に寄り添わないと、寄り添って真実の答えを自分で考えて見つけさせないと、人は絶対に育たないんだ。
中国でカメラ販売店の中国人販売員を指導した時の話をしよう。私の前に、某大手ホテルチェーン出身の日本人講師がお客さんへの接遇を指導していた。その彼が「中国人はトイレの場所をご案内する作法ですら3日で忘れる。教えた通りやらない。民度が低い」と嘆いていた。私は疑問に感じたので現場で彼らの給与体系を聞き、歩合給制なのを確認したうえで、「民度が低いとは失礼だ! あなたが間違っている」と言ってやった。
つまりこういうことだ。彼らはお金を稼ぎたい。地方出身者であれば故郷はたいてい貧しいから、家族に仕送りもしてあげたい。そのために働いている。でも、その店では従業員に、客は値段に敏感だから値引きして売るようにと教えていた。だから例えば私が直接話を聞いてあげた若い男性の販売員なんかは、値引きするたびに「くそっ、俺の歩合給が減るじゃねえか」と思っていたという。当然トイレの案内なんか適当だし、ふてくされた接客態度だった。
私は彼に聞いた。「お前はなんで働いてるんだ?」彼は「お金が欲しい」という答え。「なんでお金が欲しいんだ?」「給料をいっぱいもらって田舎の家族に仕送りする」。私は彼に言ってあげた。「よしわかった。トイレの案内の仕方なんかどうでもいい。それより、お前は明日から一切値引きするな。1元も引くな」。彼は「ハイ!」と即答だ。そりゃ嬉しいよ。値引きしなくていいってんだから。でも私が、「バカ! 適当な返事するな! 値引きなしでどうやって客を買う気にさせるんだよ」と問うと、「う~ん」と考えてる。考えた末に「お茶を出します」という答え。私が「お茶を出すのは店で決まってることじゃないか。自分の頭で考えろ!」と言うと、また「う~ん」と考えて、「笑顔かなぁ」とつぶやいた。そこで私が「うん? 笑顔って、どういうことだ?」と聞いた。それで初めて、「くそっ! 歩合給が減る・・・」と思っているという本音が出てきたわけだ。
笑顔が足りないなんて問題はちょっと接客を観察してればすぐわかる。「もっと笑顔で!」と頭ごなしに指導することも誰だってできる。でも、それじゃ彼の答えにならないんだよ。相手の現実から出発して自分で考えさせるから、拍子抜けするような当たり前の答えでも、当たり前じゃない、彼にとっての真実の答えになるんだ。実際その彼は「笑顔」という答えを自分で見つけた翌週から笑顔の接客が身に付き、どんどん売り上げを伸ばしていった。値引きしないから稼ぎがよくなって家族への仕送りも増やせたし、会社も儲かり、結局は客も喜んだわけだ。本当の教育って、こういうことじゃないのかな。
相手の現実に寄り添わずに「接客は笑顔で!」とか「一隅を照らせ」と教えるのは“善”のやり方だ。“善”はいわば絶対安パイ。誰からもどこからも突っ込まれない。それで相手ができないことを目指させておいて、「できません先生。どうしたらいいですか」とくじけさせて、「指導にうかがいます。呼んでください。ついては料金ですが・・・」と持っていくのが世のコンサルの常套手段だ。それに比べ、自分の頭で考えて見つけた答えであれば、自分で見つけたということはギリギリやれるということだから、失敗しても「チクショーッ、次こそは!」となる。反省の仕方もわかる。私が“善”ではなく“真”を大事にするのは、善悪の基準は国や地域や立場によって変わるが、この真理は世界共通だってことを知ったからだ。
経営者には経営者の、従業員には従業員の、中国人には中国人の、現実に根差した本音がある。連載タイトルの「国々」というのはそういうことだ。それらの違いを尊重した先に真実が光るんだ。これからもいろんな国や人の真理を追求していくよ。ヨロシク!
経営者の悩みを即解決! 少人数制・公開コンサルティング形式の経営者のための勉強会「勝人塾」。3~4月は下記日程で、各地で行います。飛び入り参加、大歓迎!
にいがた勝人塾3月15日・おおさか勝人塾3月21日・ぎふ勝人塾3月22日・とちぎ勝人塾3月28日・わかやま勝人塾4月6日・とやま勝人塾4月13日・とうほく勝人塾4月14日
詳細はこちら
vol.5 あなたの真実の答えは何ですか
著者プロフィール
佐藤 勝人 Katsuhito Sato
サトーカメラ代表取締役副社長/日本販売促進研究所.商業経営コンサルタント/想道美留(上海)有限公司チーフコンサルタント/作新学院大学客員教授/宇都宮メディア.アーツ専門学校特別講師/商業経営者育成「勝人塾」塾長
経 歴
栃木県宇都宮市生まれ。1988年、23歳で家業のカメラ店を地域密着型のカメラ写真専門店に業態転換し社員ゼロから兄弟でスタート。「想い出をキレイに一生残すために」という企業理念のもと、栃木県エリアに絞り込み専門分野に集中特化することで独自の経営スタイルを確立しながら自身4度目となるビジネスモデルの変革に挑戦中。栃木県民のカメラ・レンズ年間消費量を全国平均の3倍以上に押し上げ圧倒的1位を獲得(総務省調べ)。2015年キヤノン中国と業務提携しサトーカメラ宇都宮本店をモデルにしたアジア№1の上海ショールームを開設。中国のカメラ業界のコンサルティングにも携わっている。また商業経営コンサルタントとしても全国15ヶ所で経営者育成塾「勝人塾」を主宰。実務家歴39年目にして商業経営コンサルタント歴22年目と二足の草鞋を履き続ける実践的育成法で唯一無二の指導者となる。年商1000万〜1兆円企業と支援先は広がり、規模・業態・業種・業界を問わず、あらゆる企業から評価を得ている。最新刊に「地域密着店がリアル×ネットで全国繁盛店になる方法」(同文館出版)がある。Youtube公式チャンネル「サトーカメラch」「佐藤勝人」でも情報発信中。
オフィシャルサイト
オフィシャルフェイスブック
https://www.facebook.com/katsuhito.sato.3?fref=ts
サトーカメラオフィシャルサイト
YouTube公式チャンネル
https://www.youtube.com/channel/UCIQ9ZqkdLveVDy9I91cDSZA (サトーカメラch)
https://www.youtube.com/channel/UC4IpsvZJ6UlNcTRHPgjellw (佐藤勝人)