高齢社会への理解を促す高齢社会検定事業など、高齢化に伴う課題の解決や豊かな高齢社会の実現に向けた数々の取り組みを行う、一般社団法人高齢社会共創センター。今回は、同センター長で東京大学名誉教授の秋山弘子氏、高齢社会検定事業を担当する前田展弘氏のお二人にお話をうかがいました。
現役世代が高齢社会を理解するための知識
秋山 当法人は高齢社会の課題解決に向けた研究のために東京大学内に2009年に設立された、高齢社会総合研究機構を起点としています。その取り組みの中から、高齢社会への理解や知識を一般にも広く認知することを目的として、2013年3月に当法人の前身となる一般社団法人高齢社会検定協会が設立されました。この検定は2013年9月に第1回を実施して以後、毎年開催しています。その後、同協会は高齢社会共創センターとして改組しました。現在は、活力と魅力ある高齢社会をつくることを目指す団体として、検定事業を中心にさまざまな取り組みを行っています。
前田 当検定事業で行っているのは、簡潔に言えばジェロントロジーの基礎を学ぶための検定です。ジェロントロジーは老年学とも訳され、健康や福祉、社会参加や生活の質など、個人に関わる領域だけでなく社会全体の仕組みを含めた広範なテーマを研究分野とする学問なんです。ただ、日本国内で専門的に学べる大学や教育機関は、東大を含めごくわずかしかありません。しかし、学生以外からも学びたいというニーズが多く、我々も一般への理解をいかに広めていくか議論を重ねてきました。そこで、公式テキストである『東大がつくった高齢社会の教科書』を出版するとともに、検定試験を開始したのです。今年2019年7月現在、これまでに6回の検定を実施し、合格者の数は延べ2100名を超えています。また、今年は10月19日に東京と大阪の会場で、第7回の開催を予定しています。そして、合格者には当センターが認可する、高齢社会エキスパートの資格を付与しているんですよ。
――資格を取得した方はどのような活躍をしていらっしゃるのでしょうか。
前田 福祉の分野をはじめ、企業のマーケティングなど、非常に多種多様な分野で活躍しています。高齢者に向けた商品やサービスをつくるにしても、高齢者のことを正しく理解しないといけません。当検定は、現役世代が高齢社会の本質を理解し、基礎的な知識を身に付けるためのものなのです。最近は人事プログラムの中に組み込み、推奨資格としている企業も少しずつ増えています。
――高齢社会を理解するための知識として、その一例を教えてください。
前田 一概に高齢者と言っても、必ずしも皆さんが介護を必要としているわけではありませんよね。人生はマラソンのように、前半は一斉にスタートしてしばらく横並びでも、折り返し地点を過ぎた後半は、走るペースにばらつきが出てくる。それと同じで、いかに多様性を理解するかが大事なんです。高齢者市場は多様なミクロ市場の集合体と言われています。その理解がないままに「高齢者はこれが好きだろう」という漠然としたイメージで高齢者向けの商品をつくっても、望んだ結果が得られるとは限らないわけです。
秋山 企業が「自分たちの持っている技術で何をつくれるか」という考え方ではなく、「ある高齢者が抱えている問題を解決するためには、どんな技術が必要か。実際の生活者が何に困っていて、どんなもの望んでいるか」を考えないといけません。その理解を広めるのが、この高齢社会検定の持つ意義だと思います。
柔軟な働き方ができる雇用制度
秋山 ただ単に「75歳まで定年を引き上げる」というように一律に扱うのではなく、それぞれが柔軟な働き方ができるような雇用制度を社会全体でつくっていかなければなりません。例えば、一人ひとり異なる特長を持ったシニアが3人1組となって働くというようなモザイク型就労も働き方の選択肢の一つであると思います。
前田 先ほども言ったように、一口にシニアと言っても多様な方々がいます。シニアそれぞれが持っている能力やスキルを、それを求める企業とどのようにうまくマッチングさせるか。雇用する側にとっても、働く側にとっても、双方がいかに満足を得られるようにするかも課題です。
秋山 そこで現在、私たちはAIを活用してシニアそれぞれの持つ個性や能力に適した仕事とマッチングさせるシステムを開発しています。また、将来的に仕事自体もAIなどのテクノロジーで補完できると考えています。例えば、重いものを運ぶのは体力的にシニアには適さないとするのが従来の常識ですよね。しかし、それをロボットスーツで補うといった技術が徐々に実用化されはじめているんです。最近はAIの進化が雇用を減らすのではないかと危惧する声も聞かれます。しかし、高齢者にとってはむしろ有益なんですよ。
生涯にわたり学びを得るための社会を
秋山 ただ、そのためにはシニア自身にも努力が求められますね。最先端のテクノロジーを用いるためには、相応のリテラシーも必要になります。ですから、常にエンプロイアビリティ、つまり雇用される能力を高めていかなければなりませんし、そのための学習・教育環境も整えていかなくてはいけません。学生時代に勉強したら終わりではなく、生涯学べるような場を提供していくのも社会的に必要だと考えています。
――少子化によって若い世代の学生も減少する中、社会人が学習する場へのニーズも高まっていくように思います。今後の展望についてもお聞かせください。
秋山 先ほど申し上げたように、将来的にはAI技術を活用したマッチングや研修などの事業展開も見据えています。また、個人的には大学も、もっと学びのための門戸を開くべきだと考えています。私はアメリカの大学でも教鞭を執っていました。そこでは、全体の25%ほどが、社会人経験を持つ学生だったんです。一方、日本では社会人経験のある学生は10分の1の2.5%ほどしかいません。今後はそのような社会人の学び直し、いわゆるリカレント教育は次第に増えていくでしょう。そこには、民間企業が教育産業などのビジネスに活かせるチャンスも、数多く存在すると考えています。
http://www.cc-aa.or.jp
■高齢社会検定公式テキスト『東大がつくった 高齢社会の教科書』(Amazon)
https://www.amazon.co.jp/dp/4130624180/
■第7回 高齢社会検定試験 申し込み締め切り:2019年9月27日(金)
https://shiken-center.jp/koreishakai/top.html
vol.2 高齢社会を理解するための基礎知識
(2019.7.5)