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今年2020年は、長い梅雨が続いている。昨年の台風被害も記憶に新しい中、7月に入ってからは九州で豪雨に見舞われるなど、今年も各地で水害が相次いだ。梅雨が明ければ、今度はまた台風による被害にも備えなければならない。
 
そして、今年は何と言っても、新型コロナウイルスによる社会への影響も深刻だ。東京では再び新型コロナウイルスの感染者が増加しており、流行の第二波も懸念されている。どうにか第一波を乗り切った企業や事業者もその傷が癒えぬまま、もしも再び緊急事態宣言が発され、前回と同じく大規模な外出自粛がなされたとしたら、どうすべきだろうか。しかもそこへ、台風などの被害が重なってきたとしたら――。
 
このような状況下で行うべきことこそ、まさしく防災・危機管理体制の構築や、その見直しであろう。では、そのために注意すべき点や心がけるべき点は何か。これまでの連載で紹介してきた、緊急事態に対する「事前の備えや計画」、緊急事態に直面した際の「適切な初動対応」、そして実際に被害に遭った後の「復旧対応」の3つの危機管理に関する事柄について、災害対応の時系列順に沿って今一度振り返ってみたい。
 
 

緊急事態への対応をもう一度考える

 
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防災士・危機管理アドバイザーの早川大氏
まずは、これから起こり得る緊急事態を想定した、「事前の備えや計画」についてである。本連載の第2回では、防災士・危機管理アドバイザーとして活躍する、株式会社kipuka(キプカ)の代表取締役・早川大氏に事故や災害などによる被害を想定し、いかに事業を継続させていくかを策定する計画や管理体制である“BCP/BCM”の心得についてうかがった。
 
BCP/BCMは、策定さえすれば事故や災害が起きても事業が継続できる、というものではない。当然ながら、緊急事態に直面した時に、それを実際に活かせなければ意味がないのである。そのため、分厚い本のようなマニュアルにまとめるのではなく、緊急時にすぐさま活用できるよう簡潔に、かつ適切に運用できるようにまとめておかねばならないことは、特に注意すべき点だろう。また、早川氏は、日頃からの防災訓練にBCP/BCMを取り入れ、被災対応訓練としてより実践的に行うこと、そして過去の事例における反省や教訓を次に活かすことも重要であるとも語っている。
 
続いて、実際に災害が発生した際の「適切な初動対応」について振り返る。本連載の第1回では、災害発生時の最初期に起こりがちな“デマ”を未然に防ぐことに着目し、株式会社Spectee(スペクティ)が運営する防災・危機管理情報解析サービス「スペクティ」を取り上げた。
 
事故や災害が発生した際に最も重要なことは、情報収集である。いつ、どこで、何が起きているのかを把握しなければ、その後の対応もままならない。しかし、近年のSNSなどの発達により情報網が拡大した分、デマや誤報によるリスクも格段に増加した。そこで、AIによって情報を収集・分析し、事件・事故や災害などに関する正確な情報を利用者に提供する同サービスを利用するなどして、デマに踊らされない対策が必要となる。正確な情報を素早く収集し役立てることは、従業員の身の安全、ひいては企業活動の存続につながるのだ。
 
そして、3つ目に振り返るのが、実際に被害に遭った後の「復旧対応」についてである。本連載では第3回にソフトウェア面の災害復旧(DR)について触れたほか、ハード面では現在のコロナ禍などに対応する、商業施設などへの消毒サービスを取り上げた。
 
店舗や商業施設などの清掃・消毒・除菌を行う事業者による団体である、一般社団法人全国施設店舗衛生管理協会は、この度のコロナ禍を受けて業界の健全化を目的とした「新型コロナウイルス消毒作業のガイドライン」を制定し、店舗などが事業を再開するための支援を行っている。同協会の田島太郎理事長は、災害はどのように起こるか予測がつかないからこそ、何よりも慌てず冷静に行動することが企業経営者や事業者に求められると語った。事前に策定した計画・管理を運用し、初動対応を適切に行い、こうした被害からの復旧につなげるにあたっては、やはり冷静沈着な行動こそが最も基本であり、最も重要であると言えるだろう。
 
 

社会全体で危機に立ち向かっていく

 
以上のように、この連載ではさまざまな視点から、企業や事業者が災害に対応するためのポイントについて紹介してきた。ただ、社会全体として危機に立ち向かうためには、企業間や自治体・地域の組織間の連携・協力も、やはり欠かすことはできないだろう。
 
先述した防災士・危機管理アドバイザーの早川氏によれば、そのためにも利害関係者(ステークホルダー)間で情報を共有し、対話や意見交換を通じて意思の疎通を図るための、「リスクコミュニケーション」が重要であるという。さらに、リスクコミュニケーションを行う中では、担当者同士が“相互の情報を受け入れ合う”という姿勢を持ち、互いに信頼関係を築くために、日頃から関係者間の連絡や地域との交流が必要であると語る。
 
また、その取り組みとして、各社の得意分野を再度、見直すことが求められるという。例えば、運送会社であれば、行政と協定を結び災害発生時に避難所などへの物資輸送などを行えるだろうし、倉庫管理を業務としている会社ならば、続々と送られてくる支援物資の一時保管所にすることも可能であろう。さらに、保育園や幼稚園なら子どもを預かることで、被災した家屋を片付けに行く親の負担を少なくするなども考えられる。そのように、各事業者が得意な分野を活かして協力し合う支援を事前に考え、共有することも大事であると早川氏は言う。
 
来年2021年3月には、東日本大震災から丸10年を迎える。その記憶を風化させないことは、確かに重要だ。しかし、そこから得られた教訓を、今に活かせなければ意味がない。自然災害そのものを回避することはできなくても、被害をなるべく最小限に留め、その後の活動に向けてできる限り素早く復旧する。そのための手段は、国や自治体、企業といった組織・団体だけでなく、各個人もそれぞれ考えていかなくてはならない時代に来ているのではないだろうか。
 
本連載で度々述べてきたように、一度困難を乗り切ってしまえばそれで終わりではない。その次に起こり得る事態も想定して、対策を万全にしておくことが重要である。そのためにも、各組織・団体、個人同士が協力し合いながら、これからの未来を見据えた災害への備え、危機管理体制を、社会全体で築いていかなくてはならないだろう。
 
<連載了>
 
■株式会社Spectee
https://spectee.co.jp
 
■株式会社kipuka
https://kipuka.jimdofree.com
 
■一般社団法人全国施設店舗衛生管理協会
https://www.j-fha.jp
 
防災・危機管理のビジネス最前線防災・危機管理のビジネス最前線
vol.4 これからの未来のために備えること(最終回)
 (2020.07.29)

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