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ヤンキー×マネーの虎=ヤンキーの虎。秀逸な命名です。本書は、衰退久しい地方経済で逆に力を得つつある勢力「ヤンキーの虎」の生態と可能性を探った、ファンドマネージャーの藤野英人氏による一冊です。
 
2014年、精神科医で評論家の齋藤環さんが『ヤンキー化する日本』を出版しました。同じ頃、博報堂のマーケッターの原田曜平氏もヤンキーと経済の関係に光を当て、『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』という本を書きました。他にも一連の本が話題になり、「マイルドヤンキー」なる概念はすっかり定着した感があります。あれから2年、この本はマイルドヤンキーと社会の“その後”を知る定点観測の意義があります。
 
第1章――「ヤンキーの虎」はなぜ生まれたか――に、小泉改革でボロボロになった地方経済の現場で何が起こっていたかが書かれています。ページ34の一節――「ヤンキーの虎たちは、地元のマイルドヤンキーたちと地縁・血縁で繋がっていますから、人材の確保もそれほど難しくなかったのです。マイルドヤンキーたちは不況によって仕事を失ってしまった。一方、ヤンキーの虎は人手が必要だった。両者の利益が一致して、すぐに新ビジネスの体制を整えることができたのです」。また、24ページ、序章の中の一節――「ヤンキーの虎にも様々なタイプがいますが、割と多いのが、元々ヤンキーをまとめていたような統率力のある人です。人を使うのが非常に上手で、リーダーとなる資質があります。彼らがコンビニや携帯電話ショップなどのフランチャイジーになり、店舗数をどんどん増やして行くことに成功しているケースが多く見られます」。最後に再び第1章、45ページの「一般的には、マイルドヤンキーは「情報弱者」だと言われていますが、ヤンキーの虎は正反対です。情報にかなり価値を置いていて、積極的にお金を払って情報を得ようとするのです」。
 
これらからわかるのは、「マイルドヤンキー」と一括りにされる一群も「虎」と「その他大勢」に別れること。そして虎がその他大勢を使ってビジネスを伸ばしているということです。ただし、「使って」のニュアンスに注意すべきです。虎たちの「使う」は「面倒を見る」に近い。ページ34の一節はまさにそれです。また、第2章――「ヤンキーの虎」の実像に迫る――に虎の例として紹介されている奈良県天理市の株式会社ファーストグループ藤堂社長は、父親から継いだ会社で進めた社内改革についていけず内外で社長の悪口を言いふらしていた社員らに、追い出すどころか成長機会を与え、彼らが気持ちよく働ける環境づくりをします。その結果ちゃんと業績も上がり、当時悪口を言っていた社員たちは今もほとんどが残っている。これも「面倒を見る」の例です。
 
さらに第3章――「ヤンキーの虎」のビジネス手法――にはこうあります。「育ってきた環境が同じですから、ヤンキーの虎は、マイルドヤンキーに近いメンタリティを持っています。(略)決定的に違うのは、リーダーシップがあって、情報収集力があって、情報収集のために東京に行くことはやぶさかではないという点でしょう。/だから、ヤンキーの虎は、割と目線の低いコミュニケーションもできます。(略)だからこそ、マイルドヤンキーたちを積極的に雇用していますし、上手くコミュニケーションをとって活用するのです」。
 
虎が東京に来るのは“ミニタイムマシン経営”のため。ミニタイムマシン経営とは、「東京で流行っているものや人気の出そうなものを探して、地元に持ち帰って」ビジネスにすることです。これ、ある意味、地方の首長が永田町に陳情に来て地元への助成金を取り付けて帰るのと同じではないでしょうか。そうやってリーダーが収穫した果実に、日本人の8割がそうだとされる「動かない人」「受動的な人」がぶら下がり、時々社長の悪口を何の気なしに言いながら、それなりに勤勉に働き、ほどほどに富を分け合い、まったりと暮らしていく・・・。
 
本書を読みながら「アジア的」という言葉が何度も頭をよぎりました。批判でもなんでもなく、このいかにもアジア=ポリネシアン的な、地方の豪族ごとにまとまった土俗共同体のエコシステムは、最終的に1人の勝者しか許さないグローバル資本主義に拮抗しうる数少ない本格派ではないか。そのつもりで民俗学や文化人類学に照らして読むと、おもしろさ倍増ですよ。
 
(ライター 筒井秀礼)  
 
『ヤンキーの虎 新・ジモト経済の支配者たち』
著者 藤野英人
株式会社東洋経済新報社
2016/4/28 初版第一刷発行
ISBN 9784492396186
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価格 本体1400円
(2016.5.25)
 
 
 

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