B+ 仕事を楽しむためのWebマガジン

トピックスTOPICS

オルタナティブビジネスの形

 
glay-s1top.jpg
このところ「ダイレクトトレード」という言葉を耳にするようになった。以前よりあった「フェアトレード」のカウンターカルチャー的に出現した、主にコーヒー業界で多く見られる動きだ。いささか強引にフェアトレード認証団体を“世界農協”とするならば、ダイレクトトレードは“農家直取引”であろうか。品質を追い求めた結果、卸業者や販売店が個別に生産者と直取引するに至った取引方法の一つだ。
 
だが、取引対象が開発途上国に多いため、日本で以前から行われてきた農家直取引とはまた違う、様々なテーマが絡んでくるようである。
 
 

フェアトレードという仕組み

 
理解を助けるために、まずはフェアトレードから見てみよう。フェアトレードは開発途上国の農産物や工芸品を公正な価格で取り引きし、生産者や労働者に正当な対価と人間らしい生活を保障することを目的とした仕組みだ。第2次世界大戦後に発足し、1960年代頃からヨーロッパを中心に広まった。それまでばらばらにあった団体が1997年に国際フェアトレードラベル機構という名称の国際組織となり、今日に至る。
 
フェアトレードの役割として大きいのは「監視」だろう。開発途上国には絶対的貧困の問題、安定しない政治、天災に見舞われやすい地域性など、解決が難しい事情が山積している。その中で、公正な取り引きという概念も、労働環境や人権についての意識もなかった、ましてや生産の持続可能性など思いも及ばない地域にそれらの概念や意識を育て、それが守られていくよう認証制度などを通じて監視する。そのことにより、地域の人たちに仕事と教育の機会を与え、生活の保障をするという意味では大きな役割を担っている。
 
ただ、認証を受けた団体や商社がフェアトレード認証商品を扱うには、機構をはじめとして各国の関連機関や組織に費用として払うものも多く、認証マークが高品質を約束するものでもない。消費者にとっても価格に見合う満足感が得られない場合もある。また、貧困の状況などは知らされるが、フェアトレードにより開発途上国での生活が改善されたという広報がされていないことが何か不透明であり、腑に落ちないところでもある。
 
 

ダイレクトトレードというやり方

 
それに対しダイレクトトレードは、高品質なものを生産者から直接買い付ける。中間業者を挟まない分、生産者の利益が増え、生活の質が上がるというものだ。海外ではコーヒーショップのブルーボトルなどがこの方法で取り引きしているが、日本でも実現している企業がある。
 
大阪府東大阪市にある田代珈琲は、スペシャルティコーヒーの製造、販売などを行う、コーヒー関連の総合企業だ。ダイレクトトレードではサステナブル(継続的)な取り引きができているかどうかがよく議論されるが、それについて田代珈琲では、農園に対し
 
1、収穫したコーヒー豆に適正な報酬を支払うことで、良質な豆をつくるインセンティブ(誘因)を与える
2、栽培から収穫、豆の精選、乾燥に至る各工程の技術を向上させるための提案をし、商品に対する評価などを積極的にフィードバックすることで、高品質な豆を生産する体制づくりを支援する
 
などの取り組みを行うことで継続的な取り引きを可能にしている。それにより生産者の収入が増えれば生活の質が向上し、仕入れる田代珈琲の側も、安定的に高品質な豆が確保できるようになるというイメージだ。
 
田代珈琲が行うダイレクトトレードとフェアトレードとの決定的な違いは、生産者にも消費者にも、コストを全て開示する点である。柔軟でオープンな取り引きをすることにより信頼関係が生まれ、そのことが、農園と相談しながらより良い豆をつくるという取り組みにつながっている。
 
 

ビジネスパートナーという発想

 
また、チョコレート製造販売のMinimalにも注目だ。同社ではフェアトレードやダイレクトトレードといった制度や言葉にこだわらず、理念に賛同し信頼し合える現地の生産者を端的にビジネスパートナーと呼んでいる。Minimalのチョコレートを初めて食べた人は、その舌触りと、カカオそのものの香りに驚くことだろう。原料のカカオ豆の産地によってチョコレートの味と香りが全く違うのだ。
 
それというのも、各産地のカカオの特性を生かした製造方法を開発したからだ。カカオ生産は、これまで大量生産型が中心で、豆の品質や特性、多様性については話題に上がることさえなかった。そんな状況で、各工程で配慮すべき点も手間も増える高品質なカカオをつくることに賛同してもらうのは容易ではない。そこでまず現地に赴き、豆に求める質やその地域でつくれるカカオの特性などを生産者に知ってもらうため、生産者と一緒にカカオからチョコレートをつくるワークショップをするところから始めた。それにより、自分たちのつくるカカオの価値を理解し、世界中に届けようという気概を持つに至った生産者のカカオを、“可能性”に投資するつもりで買い続ける。その中でまずは経済的に向上・安定するように栽培面のアドバイスをし、並行して商品販売時の消費者の意見もフィードバックをしながら、一緒に品質を上げる取り組みをしている。
 
Minimalのチョコレートが世界的にも評判になった現在では、そのことが生産者の自負につながり、さらなる品質向上に役立っているそうだ。最近では若い世代の中に「カカオづくりはかっこいいんじゃないか」という意識が生まれ、現地で作業工程である発酵や乾燥についての勉強会を開くと、以前より多くの人が積極的に参加する地域も出てきているという。
 
Minimalのビジネスにはフェアトレードに見られるような「支援」という概念はない。生産者と対等な立場の「フェアな商売」があるだけだ。コスト面から、全ての地域でダイレクトトレードができているわけではない。だが経済合理性のないところにフェアはあり得ず、ビジネスのルールもフェアでなければ、パートナーとして続かない。それらをクリアした先でビジネスを成り立たせるのがMinimal流なのだ。
 
ダイレクトトレードでは、良質なものを提供することが大前提となる。おいしいという事実の向こうに商品ができるまでの物語が見えることが、ダイレクトトレードを行う意義であり、顧客がつく理由の一つであろう。そして喜ばれること、評価されることでダイレクトトレードを展開する企業側も生産者側も自分の仕事に誇りを持つことができる。今後様々な地域でこの取り組みが増えていくことに期待したい。
 
 
 
(ライター 木村千鶴)
 
(2017.6.2)

関連記事

最新トピックス記事

カテゴリ

バックナンバー

コラムニスト一覧

最新記事

話題の記事