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◆締めくくりの準備は一大事業

 
  「一休さん」としてアニメなどでも親しまれる一休禅師はかつて、髑髏を掲げて正月の街を練り歩き、「正月や 冥土の旅の一里塚 めでたくもあり めでたくもなし」という狂歌を詠んだとされる。当時は数え年だったため、正月が来ると皆一様に一つ齢を重ねた。まさに「冥土の旅の一里塚」だった元旦を迎えるにあたり、人生の締めくくりを意識して気を引き締めるべし、と勧告をしたのだろう。
 
 ことほどさように、人生をうまく終えるのは難しいことなのだが、2015年の元旦からはその難易度がさらに高まる。改正相続税法が施行されるためだ。
 従前、相続税は富裕層のものであり、大半の人には無関係と考えられてきた。実際、改正前の相続税法下では、課税対象とされるケースは死亡者のうち4%程度にすぎなかった。しかし、改正相続税法の施行により基礎控除枠が大幅に減額されることから、国税庁ではこの割合が6%程度に増えるものと予想する。専門家の見方はさらに厳しく、「都心では15%を超える」とする声もある。
 
 思いがけず相続税が課税され、納税資金に困れば、減少した相続財産をめぐって相続人同士の争いも起きやすくなるだろう。人生をうまく締めくくるにはそういった相続に対する備えの他、葬儀の手配や指示、認知症になった際の備えなど、入念な準備が欠かせない。
 
 

◆かつてはあった「終」のモデルと相互扶助

 
 かつての日本人は現代に比べて「終(つい)」の局面で悩むことが少なかった。どのように老い、どのように資産を継承していくかのモデルが身近にあり、支えとなる相互扶助のシステムもあったからだ。
 
 心身の衰えを感じれば家督を譲って隠居する。相続は長男の総取りが原則で、住まいはもちろん、田畑や事業などの一切合切を承継した。その代わりとして、長男は老親の世話や親族のとりまとめ、墓の管理などの責務を負った。企業経営でいえば、資本の獲得と福利厚生の義務がセットだった。相続でトラブルが発生することが少なかったのは、良し悪しは別にして、権利と義務が一体となったシステムに公正感があったためだ。
 
 また地域には寺を中心とする「檀家」というコミュニティーがあり、誰かが亡くなった際には近隣が集まって葬儀を手伝うのが一般的だった。
 
 

◆新しい市場と活況のビジネス

 
 そういった「終」に関わる経済および社会のモデルは、戦後の民法改正と個人主義の台頭により、急速に失われてきた。民法の改正により相続は均等割が基本とされ、個人主義の台頭により、特に都市部では、それまで機能していた地域のコミュニティーが瓦解したためだ。
 
 その問題を補うべく、新しく出てきたのが「終活ビジネス」である。前述の通り、「終」の局面で必要とされる知識や手助けが得られにくくなっている今、それらをビジネスとして提供する企業が増加しているのは自然な流れだ。いわゆる「終活市場」の規模は年間1兆~2兆円とされており、最近では異業種からの「参戦」も増えている。
 
 もっとも注目を集めた例は、イオングループの葬儀ビジネス参入だろう。葬儀業は価格設定など不明な点が多いが、流通大手が手がけることで消費者は安心感が得られる。熟年層の顧客が多い大手旅行会社・クラブツーリズムも、終活市場に浸透しつつある。介護や葬儀、供養などの勉強会を開く他、遺影を準備するための撮影会や、樹木葬の霊園をめぐる旅行など、本業と絡めた終活ビジネスが売り上げを伸ばしている。その他にも、中小企業や個人事業主などにより終活市場に提供されるサービスや商品は日々多様化している。
 
 また、相続増税対策として利用が急増している生命保険や信託商品も、終活ビジネス活況の一翼を担っている。生命保険には相続人1人あたり500万円の非課税枠があり、信託利用にも大きな節税効果があるため、関連金融機関は積極的な売り込みを進めている。
 
 
 

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