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アベノミクスによる円安の恩恵を受けて、自動車メーカー各社が活気づいている。日本自動車工業会の豊田章男会長 (トヨタ自動車社長) が、「『失われた20年』 の間に喪失した利益360兆円の約半分を取り返した」 と語るなど、回復への実感は強いようだ。かつて日本経済を牽引した自動車メーカーの好調に、「車社会万歳」 「車メーカーに引っ張ってもらって経済再建を」 と期待する声は高いが、安易に楽観視できる状況ではない。
少子高齢化や若者の車離れが止まらない中、トヨタ自動車の国内販売台数は1990年をピークに一貫して右肩下がりの状況が続いている。金融政策のみで20年にわたる凋落が止められるほど、事態は甘くない。維持管理コストの高さ、高齢者には運転が難しいこと、安全性、環境負荷などを考えると、4人~8人程度を乗せられる 「大箱」 を個人が所有し移動手段とすることは、すでに社会のニーズと乖離し始めているためである。
それを象徴するのが、カーシェアリングサービスの台頭だ。駐車場ビジネスを全国展開する 「パーク24」 のカーシェアリングサービス 「タイムズ カー プラス」 では、28都道府県で3619ヶ所に貸し出しステーションを設置。登録台数も5234台と前年比1.4倍に増加している(2013年2月末時点)。新しいビジネスの興隆は喜ばしい。が、所有からシェアへの移行は自動車販売台数の低減を意味する。車をめぐる消費経済は変わりつつあるのだ。
円安による自動車メーカーの好決算を耳にしても、何となく手詰まり感がぬぐえないのは、生産工場の海外移転により国内経済への波及効果が以前ほど見込めないことに加え、こういった 「日本社会の車離れ」 を肌で感じてしまうからだろう。
先行きに不安を持つ自動車メーカーが新たな乗り物として開発を試みているのが、「パーソナルモビリティ」 である。主に電気などを動力とする1人もしくは2人乗りの移動ツールだ。軽自動車をさらに小型化した 「ミニカータイプ」、電動車いすのような 「歩行支援タイプ」、セグウェイなどの 「未分化型」 がある。
総じて、自動車や自転車など既存の交通手段と比較すると、「高齢者でも操作が簡単」 「環境負荷が小さい」 「安全・安心に利用できる」 などの利点があるが、それぞれ用途が違うため、利用者の年齢やライフスタイル、利用する状況や地域などによって、求められるタイプが異なる。たとえば都市部に住む高齢者では、バスや電車にそのまま乗り込むなど、シームレスに利用できる電動車イスタイプに対するニーズが高い。郊外に住む若年層では、法整備さえ整えば、自転車代わりに利用しやすいセグウェイタイプのニーズが伸びるのでは、と予想される。さらに、速度や航続距離の長いミニカータイプは、国土交通省が今年2月から新たに 「超小型モビリティ」 として認定制度をスタート。自動車や原動機付き自転車からの乗り換え需要が期待されている。
現在、自動車メーカー各社ではパーソナルモビリティの開発が急ピッチで進められている。中でも最も盛り上がっているのが、トヨタの 「i-ROAD」、日産の「NISSAN New Mobility CONCEPT」 などのミニカータイプだ。後者はすでに現行法規で軽自動車としての認可を受け、各地で公道走行実験も行われている。このまま普及し、車社会の一翼を取り込んで成長するのでは、との見方もあるが、果たしてどうか。
性能面や利便性において、これらミニカータイプはまだ、既存の軽自動車や原動機付きバイクを圧倒するには至っていない。運転には、原付免許に比べ取得に時間とコストを要する普通免許が必要。速度や航続距離などの走行性能で劣るのに加え、窓がない(i-ROADは幌窓オプション)、エアコンやヒーターがないなど、車内の快適性でもまだ軽自動車に及ばない。
それでも、電気を動力とするため環境負荷や燃料コストが小さいこと、必要充分な走行性能は備えていること、車体が小さいため駐車場所を選ばないこと、維持管理が安く済むことといった利点は、パーソナルユーズ=スマートユーズの要請に合っている。現行の道路交通法規、道路事情で走るなら、爆発的なニーズが生まれるアドバンテージはまだ見つからないが、時代の要請に応じて社会インフラもまた変化するなら、新しい車社会の一翼を担うポテンシャルを秘めていると言えるだろう。