同じ時間を生きている証
共演者やスタッフの方々とコミュニケーションを深めるにあたって、コロナ禍以前であれば、会話をすることが一番でした。稽古を重ねることももちろん大切です。ただ、それ以外のブレイクタイムであったり、稽古後にみんなでご飯に行ったりする時間がとても大切だったんですよ。
雑談を交わす中でお互いの人となりを知り、自然と作品の話をする。その中でアイデアが生まれることも多かったですね。何気ないコミュニケーションの大切さや、今までどのように舞台をつくり上げてきたのかをあらためて実感しています。コロナ禍の今は、感染予防のために、そういった機会はありませんからね。
とても残念だと言わざるを得ない状況ではあるものの、だからこそ、舞台を上演できるありがたさをいつも以上に感じています。「初日おめでとうございます」「千秋楽おめでとうございます」という言葉を交わすと、無事に幕を開けられる喜び、無事に千秋楽まで公演できた喜びを心から感じるんです。
特にその喜びが湧き上がるのが、カーテンコールのときですね。上演中も、お客様の空気は伝わってきています。それがカーテンコールのときになると、拍手や、スタンディングオベーションといった行動で表現してくださるので、より大きな一体感で満たされ、今を共有している実感を得られるんです。
私たち舞台をつくり上げるチームはもちろん、劇場にお越しくださるお客様も感染予防に努めて、当日を待ってくださっています。劇場に集うというのは、私たちとお客様が今同じときを生きている証のように思いますね。
インタビューの中で若村さんは、役者について「ものづくりにおいての一つのパート」だと話してくれた。そして、それに携わることが仕事の楽しみだという。
私は幼い頃から、ものづくりに携わる仕事をしたいと思っていました。仲代達矢さんが主宰する「無名塾」の演劇を観て、このものづくりに携わりたいと思い芝居を志しました。私にとって、芝居はものづくりの一環なんです。一つの演劇をつくり上げる際に、私の担当するパートがたまたま役者だったという感覚でしょうか。
今でも舞台やドラマ、映画に出演させていただく際は、ものづくりに携われる楽しさを感じています。舞台の場合は限られた空間で演じるので、出演者もお客様も想像力をフルに活用します。例えば、舞台上で出演者が「この城に入ろう」と言えば、たとえそこに何もセットがなくてもお客様は「ここは城なんだな」と想像してくださる。
能動的に物語に入り込めば入り込むほど、大きな旅ができる。それが舞台のおもしろさだと思っています。また、何よりライブであること。どれだけ稽古を積んでも、当日何が起こるのかは誰にもわかりません。そこに居合わせるお客様が変われば、芝居の雰囲気も変わります。
当日劇場に集まった人たちがつくり上げる空気感で、芝居は生き物のように変化します。同じ作品で同じセリフを言っているのに、同じ芝居は二度とない。その時間、臨場感を共有できるのが舞台の魅力だと思っています。
映像作品の場合は、編集されるので完成するまで出演者も作品の実態はわかりません。試写会で初めて完成した作品を観て全容がわかります。「音楽が入るとこんな風になるんだな」と感じたり、「ほかのシーンはこんな感じなんだ」と知るおもしろさがありますね