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「油断大敵」。これはまだ電気のない時代、照明にしていた灯明の油を断ってしまうと、たちまちあたりが真っ暗になり危険だということから生まれた四字熟語です。語源には諸説ありますが、その時代、油が日常に欠かせない大切なものだったことが伺えます。
京都市上京区にある「山中油店」は、かつて平安宮のあった歴史ある土地で文政年間(1818-1830)より続く油専門店です。創業当時は灯明用の油の販売が中心でしたが、明治時代になってガス灯などが普及し始めてからは、庶民の間にも食用油の利用が広がっていきました。現在は食用油、建築・工芸用油、化粧用油など、生産者に直接会って選りすぐった良質な油を提供しています。
京都には今も多くの社寺仏閣があり、灯明用の油の需要が切れることはありません。また、京町家の修復には、荏油(えゆ)や桐油(きりゆ)といった自然塗装油が不可欠です。さらに、平安の昔から高貴な女性達が、髪や肌の手入れに使った椿油も、スキンケアオイルとして、近年、幅広い年代の女性に愛用されています。そして、なんと言っても、一般の人々から料理人まで強い支持を集めている食用油は、ごま油、菜種油、オリーブオイルなど30種以上を揃えています。
山中油店が多くの人に注目されるのは、本物へのこだわりにあると言えます。油の産地に赴き、生産者に会い、工場を自分の目で見て、本当に納得のいく商品だけを扱っています。今では、最高級のエキストラヴァージン オリーブオイルを求めイタリアまで足を延ばすことも。「最高の商品を提供するのはもちろんのこと、生産者が商品に込めた想いを少しでもお客様に伝えられるよう努力したい」という、代々受け継がれた商人気質がそうさせるのでしょう。
良質な食用油には素材本来の味があります。店では、実際に油の試食が可能。「油そのものが美味しく、さらには油が食材の美味しさを引き立ててくれるものであることを知ってほしい」という店の想いが伝わる瞬間でもあります。
オリーブオイルは8千年の歴史があると言われる油。イタリア各地には、地方、生産者によって異なる千差万別のオリーブオイルがあり、その中から、日本の人々に喜んでもらえる逸品を探し出すことに情熱を燃やしています。さらに、1年前からはワインの直輸入にも着手。「オリーブオイルを使った料理には、同じ産地で作ったワインがよく合う。その面白さを体験してほしい」とのこと。
店から徒歩3分のところには、町家を改装したショップ&カフェ「綾綺殿(りょうきでん)」を経営しています。イタリアの有機野菜のオイル漬けを使った本格的パニーニは評判。エスプレッソには、ローマの老舗珈琲屋の豆を使うこだわりよう。こちらも一見の価値があります。
新たな展開を取り込みながら、油の楽しみ方を教えてくれる山中油店。いにしえの時間が止まったような空間で、新たな発見にきっと出会えるでしょう。